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最近の地球環境研究の進展と国立環境研究所の研究について思うこと

ずいそう

Shamil Maksyutov

シャミルマクシュートフの顔写真

 5年前に私が国立環境研究所に来たときの,私の研究をとりまく状況の変化は非常に大きなものでした。良い研究機材,多くの研究費,優秀な研究者との個人的な接触の機会などです。それも,最近は当時以上に恵まれているように思われます。しかし,同時に,私が勤務していたモスクワの化学物理研究所(Institute of Chemical Physics)との違いについても感じます。そこでは,2000人以上の博士号を持った研究者と非常にたくさんの,いろんなレベルの学生たちが働いています。そのような背景から,国環研における研究環境ということについて私の思うことを述べてみたいと思います。

 地球環境に関する研究の著しい進歩の歴史を振り返ってみると,研究の組織のあり方として二つの極端な形があると考えられます。ひとつは,すばらしいアイディアと決断力をもつ少数の研究者からなる小さなグループ。もうひとつは,潤沢な研究費を持って先端的な技術の応用を指向する大きな研究プロジェクトです。国環研の現在の細分化された組織の構成は,小さなグループによる研究に合っているように思われます。その場合,独創的なアイディアというものが極めて重要となります。

 問題は,地球環境研究は最近,非常に多様になっているということです。研究者の数も以前より多く,研究費も増加しています。また,新しい技術の応用も進んでいます。それに伴って,科学の世界において認められるような独創的な寄与をすることが一層難しくなってきています。適切なトピックを選択する洞察力と経験においてプロであることが求められます。このような洞察力を持ったプロは,何をすべきか明確でないようなところからは育ちません。ふつう,研究者を育てるのは研究のコミュニティーの役割です。私の印象では,国環研における問題のひとつは,プロフェショナルとしての成長や人間としての能力を完全に引き出すために必要な環境が得られないような,狭すぎるコミュニティーの中で仕事をしていることにあるように感じます。すなわち,研究予算の区分や研究プロジェクトの区分で分断されていないかということです。もうひとつは,大学や教育機関との交流が不足していることです。大学との交流が少ないことは科学者にとっても,学生にとっても不幸なことです。大学との交流によって,研究所にとってはマンパワー不足の解消を,また,独創的な若い学生にとっては専門家に接し,第一級の独創的な研究をする機会を与えることができます。国環研において,多くの研究が順調に進められているものとは思いますが,改善することもあるように思います。

(シャミル マクシュートフ,大気圏環境部 大気動態研究室共同研究員)

執筆者プロフィール:

モスクワ物理工業大学1980年修士終了,1983年Ph.D.(物理化学)ロシア科学院モスクワ化学物理研究所勤務。
<現在の研究テーマ>大気の組成と力学に関する観測と3次元モデルを用いたシミュレーション。
<趣味>ジョギング,スキー