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赤外線水分計を用いた岩石の水分飽和度の推定

研究ノート

木村 強

 岩盤は,表層土壌などの土質地盤に比べて水を通し難いので,有害廃棄物などの地層処分場としての利用が有望視されている。地下水面よりも高いところにある地表付近の岩盤では,岩盤内の間隙が水で完全には満たされていない不飽和の状態にある。完全に水で満たされた飽和状態では,透水係数のみでその透水性が決まるの対して,不飽和状態では,水分飽和度−吸引圧および水分飽和度−不飽和透水係数の関係を記述するパラメータが必要となり,数値解析を行う場合には煩雑となる。また,従来は水分飽和度を中心とした不飽和状態を表すパラメータそのものが十分な精度で得られなかったため,簡便的に飽和状態を仮定して対処することが多かった。しかし,実際の水の挙動をより正確に知るには,不飽和浸透解析を行わなければならないことはいうまでもない。

 岩盤の水分飽和度を求めるには,岩石の小片を切り出して強制的に浸水・乾燥し,そのときの重量変化から算出する方法がある。しかし,この方法では,同一地点の水分飽和度を時間とともに連続的に得ることができないなど実用的とはいい難い。そこで,紙の水分管理を目的に開発された赤外線水分計を用いて,岩石の水分飽和度を求めることを試みた。赤外線水分計の原理は,水分に吸収されやすい近赤外光(吸収光)と水分の影響を受けにくい近赤外光(参照光)を交互に試料表面に照射し,それらの反射光量の比を計算して吸光度とする。吸光度が大きいほど水分飽和度は高くなる。参照光を照射するのは,試料の表面の状態,粒子の大きさ,色調などの影響を除いて安定した測定ができるようにするためである。

 赤外線水分計が岩石に使用できるかを検討するために,乾燥した砂質凝灰岩の角柱試験体(一辺4cm×高さ6cm)の側面に,遮水用のシリコン・シーラントを塗布して不透水面とした後,その試験体の下端部を1cmほど浸水させた。そして,試験体上方に赤外線水分計を下向きに設置して,上端部表面の吸光度を調べた。図1にはこのときの測定結果とともに,上端面から上方に2mm離れた位置での相対湿度,および実験室内の環境湿度を示している。実験を開始してほぼ半日後に,まず上端部直上の相対湿度に変化が現れる。この変化は急激で,きわめて短時間で100%に達する。それと同時に吸光度が上昇し始めるが,その上昇速度は遅い。このことは,毛管力によって水は岩石試験体内の微細な間隙を通って上部へ運ばれていくが,その毛管水のフロント部では液状水よりも水蒸気の形態にあることを意味している。吸光度は,下部からの水分の供給と上端部表面からの蒸発が平衡して,実験を開始して2日後にようやく一定値になる。試験体がもっと長い場合には,吸光度が上昇し始める時期は遅くなり,一定の吸光度になるにも長い時間を要する。また,毛管力によって上端部まで輸送される水分量も少なくなるので,吸光度の値も小さくなるであろう。これらの吸光度から水分飽和度を求めるには,既知の水分飽和度をもとに前もって吸光度と水分飽和度の関係を調べておかなければならない。水分飽和度の制御の容易な土壌についての実験結果によれば,水分飽和度と吸光度には直線的な関係があるので,岩石については完全に乾燥した状態と飽和状態についてそれぞれ吸光度を求め,これを内挿することで第1近似としてはよい。

 測定原理から分かるように,赤外線水分計は試料の表面を対象としており,試料内部の水分までは知ることはできない。ただし,側面に塗布したシールの厚さが1mm以内であれば照射光は試験体の側面まで到達する。本実験のように水分が鉛直1次元に移動する場合には,側面の近傍とその奥部では同じ水分飽和度にあるとみなしてよい。したがって,側面において高さごとの水分飽和度を求めることによって,時間とともに上昇していく毛管水のフロントを追跡することができる。また,これとは反対に,いったん完全に飽和させた試験体の端部を浸水させることなく両端部から乾燥させる過程での水分飽和度の低下も観察することができる。図2には,この条件下において試験体の中央高さの位置で得られた吸光度と,弾性波の伝播速度および振幅の関係を示している(このときの吸光度はシール材の影響により,図1のそれとは値が同じでも水分飽和度は異なる)。ここで,弾性波の測定は,赤外線水分計で照射した側面と直交する面に1組の圧電素子を貼りつけ,パルス透過法により行っている。弾性波の伝播特性と水分飽和度の関係をみたのは,弾性波がジオトモグラフィを始めとした地盤調査によく利用されることを考慮したものである。試験体の両端面から乾燥が進んで試験体中央部の水分が減少し,それに伴って弾性波の振幅が増大すること,および弾性波速度は振幅ほど水分飽和度に影響を受けないことが分かる。

 水分飽和度は,岩石の不飽和特性を議論する上で最も重要なパラメータであるばかりでなく,上述した弾性波特性やその他の物性値とも関連性が少なくない。赤外線水分計は,試料を破壊することなく水分飽和度を迅速に測定できることに最大の特徴があり,今後,これらの研究を行う上で有効な手段になり得ると考えている。

(きむら つよし,水土壌圏環境部地下環境研究室)

図1  毛管水の上昇に伴う吸光度(水分飽和度)と相対湿度の変化
図2  乾燥過程での吸光度(水分飽和度)と弾性波の伝播速度および振幅の変化