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臭化メチルは成層圏オゾン層にどのような影響を与えるのか

研究ノート

關 金一

 冬の閑散とした畑に寒々しさの追い撃ちをかけるように黒いビニールシートが敷き詰められているのが散見される。あれは土壌中の細菌やウイルスなどを駆除する姿であり,そこで使用されているのが成層圏オゾン層破壊で最近注目を集めつつある臭化メチルである。

 今までこの種のオゾン層破壊物質は純然たる人工化学物質であるフロン,ハロンであった。一方,土壌および検疫くん蒸剤として用いられている臭化メチルは人工的に作られている(年約6.3万トン)ものの他に,海洋起源の自然発生が知られており,その発生量も正確な見積もりは難しいものの,ほぼ人工生産量に匹敵している。したがって臭化メチルのオゾン層に与える影響を見積もるためにはその発生量を起源別に知らなければならないという,いままでのフロン,ハロンとは異なった研究が求められている。また臭化メチルは対流圏での寿命がフロン,ハロン(数十から数百年)に比べ1.9年と短いため,規制に対して即効的な効果が期待され,21世紀初頭に最も深刻な事態を迎えると予想されているオゾン層破壊の程度を少なくする上でも重要と考えられている。

 オゾン層破壊物質について規制勧告を行っているモントリオール議定書締約国会合では1992年に初めて臭化メチルに関して生産量現状凍結の暫定規制を行い,1995年までに今後の研究結果をもとに,規制措置を決定するとしている。国立環境研究所の大型光化学チャンバーを用いたモデル実験では,臭化メチルのオゾン分解速度は規制対象となっているハロン類と同程度であった。このことは臭化メチルが成層圏まで到達すれば確実にオゾンを分解することを意味している。現在,世界各地の研究機関で実験,フィールド観測,モデル計算がなされ,ホットな話題が提供されている。

(せき かねかず,大気圏環境部大気反応研究室,現在:横浜国立大学工学部)