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“Vertical profiles of temperature and ozone observed during DYANA Campaignwith NIES ozone lidar system at Tsukuba”Hideaki Nakane, Sachiko Hayashida, Yasuhiro Sasano, Nobuo Sugimoto,Ichiro Matsui and Atsushi Minato:Journal of Geomagnetism and Geoelectricity, 44, 1071-1083 (1992)

論文紹介

中根 英昭

 DYANA(DYnamics Adapted Network for Atmosphere)Campaignは,ドイツWuppertal大学のOfferman教授の提唱によって,1990年1月〜3月に実施された国際的なネットワーク観測計画である。成層圏・中間圏の大気循環およびそれに伴う大気微量成分の輸送には,プラネタリー波,重力波などの大気中の波動が大きな役割を果たしている。しかし,DYANA Campaign以前には,高い高度分解能を持った地球規模の観測の例はなかった。そこで,DYANA Campaignでは,高度分解能の高いロケット,レーダー,レーザーレーダーなどによる集中的なネットワーク観測を2ヶ月間実施した。観測地点を図1に示す。

 日本では,単にOfferman教授にデータを送るのではなく,宇宙科学研究所の小山孝一郎助教授を委員長としたDYANA国内委員会を作り,内之浦でのロケット観測に合わせてレーザーレーダー観測などを組織的に行った。その成果は,Journal of Geomagnetism and Geoelectricityの特集号にまとめられた。本論文は,その中の一編である。

 本研究所では,1988年8月からレーザーレーダーによるオゾン及び気温鉛直分布の観測を行っている。DYANA Campaignの期間中は,夜間に晴天の場合には観測を欠かさなかったが,例年にない悪天候のため,得られたデータは10日間分であった。

 観測結果の一例を図2に示す。高度30〜80kmの気温鉛直分布が得られている。高度55kmでは2日間に気温が約20K上昇し,70km付近では約20K下降するという急激な気温鉛直分布の変化が見られた。Hirooka et al.(1992)によると,高緯度地域の下部〜中部成層圏では,地球規模のスケールを持つ波動であるプラネタリー波の波数(地球の周囲一回りに存在する波の数)1の成分が1月後半から2月前半にかけて強くなり,2月の初めに成層圏突然昇温が起こっている。レーザーレーダーのデータに現われた急激な気温変化は,プラネタリー波の活動度の増大や突然昇温に伴ったものとして理解できる。

 DYANA Campaign期間中の気温の変動は大きく,特に1月と2月にはモデル大気の気温高度分布から大きくずれていた。また,高度25〜30kmのオゾン濃度は1月17日,25日,26日には平年値より10%以上低かったが,2月5日以降は平年値に近い値になっていた。

 高度70km付近には,しばしば第2の気温のピークが見られた。このピークの直上では気温の減率が非常に大きくなり,乱流の発生が起こりやすい条件ができていた。

 観測データはOfferman教授にも送られ,地球規模のデータ解析の中で使用された。

(なかね ひであき,地球環境研究グループオゾン層研究チーム総合研究官)

図1  世界のDYANA観測地点
図2  1990年1月24日〜26日の気温の変動