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湿原のリモートセンシング

経常研究の紹介

山形 与志樹

 尾瀬が原、戦場が原、釧路湿原などの湿原は、その優れた景観によって人々の憩いの場であると同時に、湿原でしか生きられない貴重な動植物の生存の場でもある。しかしながら湿原生態系は脆弱であり環境の変動によって大きな影響を受ける。尾瀬が原では観光客が押し寄せて一時は人の踏み付けにより裸地が広がり裸地化が進行し、戦場が原では道路によって水流が分断されて乾燥化が進み、1987年に国立公園に指定された釧路湿原でも周辺農地からの富栄養化した水の流入や開発工事による湿原の破壊が進行しているのである。今後も湿原が人々の憩いの場、生き物の生息の場であり続けるためには、人間活動が湿原に与える影響を正確に評価して湿原を保護する対策を講じる必要がある。そのなかで、人工衛星や航空機を用いたリモートセンシング手法は、湿原の受ける影響を面的かつ時系列的にモニタリングする唯一の手法としての役割を担っている。

 現在取り組んでいるテーマは、1)航空機に搭載したマルチスペクトルスキャナー(MSS)の画像とランドサット衛星のセマティックマッパー(TM)画像を用いて湿原植生を可視・近赤外のスペクトル特性の違いから分類すること、2)時系列に取得された衛星画像を用いて湿原植生の状態が過去10年間にどのように変化したかを調べること、3)昨年ヨーロッパ、今年日本によって相次いで全天候型の合成開口レーダー(SAR)が打ち上げられたが、SARで使われているマイクロ波の反射率は地表面の水状態を反映することが知られている。この特性を用いてこれまで衛星観測のできなかった梅雨時期の湿原の水環境の把握をすること、等である。

 図(7月の釧路湿原のランドサット画像)に示すように、湿原内では湿原内に流入する水が場所によって微妙に変化していることに対応して、植生が連続的に変化しているのが特徴である。釧路湿原においてはミズゴケ、スゲ、ヨシ、ハンノキなどの多様な植生が相互に入り組んで連続的に変化している。このファジーな状態をリモートセンシングによって計測されたスペクトル情報を用いて、いかに分離し適切に表現するかが現在の課題である。このためのアプローチとしては、これまでリモートセンシング画像の解析に用いられてきた統計的手法に加えて、ファジーな判別結果を許す分類手法や、判別に有効なスペクトル波長域や画像のきめの細かさを表すテクスチャー特徴を計算機が自動的に認識・学習するニューラルネットワーク手法の応用が有効であると考えている。

(やまがた よしき、社会環境システム部情報解析研究室)

図  釧路湿原のランドサット画像