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「ディーゼル排気による微小粒子状物質曝露がアレルギーと呼吸・循環機能に及ぼす影響」の研究から

Summary

 今回の研究では、微小粒子の主要部分を占めるディーゼル排気粒子を使い、動物曝露実験により、アレルギーや呼吸・循環器におけるさまざまな影響解明に挑み成果を上げています。そのうちのいくつかを紹介します。

ディーゼル排気曝露が花粉症様病態に及ぼす影響

(1)アレルギー性鼻炎

 アレルギー性鼻炎がディーゼル排気の曝露により悪化するかどうか、くしゃみや鼻水分泌を指標として検討しました。実験ではディーゼル排気曝露下における抗原点鼻投与において、くしゃみの回数、鼻水分泌が、ともに粒子濃度に依存して増加することが明らかになり、アレルギー性鼻炎が悪化することが示唆されました。

(2)アレルギー性結膜炎

 アレルギー性結膜炎に及ぼすディーゼル排気曝露の影響を、血漿の漏出を指標として検討しました。雄のモルモットを用い、清浄空気またはディーゼル排気に5週間曝露し、その間1週間おきに計6回抗原である卵白アルブミン(OVA)を点眼投与しました。  その結果、ディーゼル排気曝露下において繰り返し点眼投与によるアレルギー性結膜炎の症状を数値化した累積値は(濃度0.1〜1.0mg/m3)、清浄空気曝露曝露群に比べ症状の値が増加しました(図4)。一方、血漿漏出の測定は6回目の抗原投与後に行いました。0.3および1.0mg/m3の微粒子を含むディーゼル排気曝露下では、ディーゼル排気の濃度に依存して血漿の漏出の増加が明らかとなりました(図5)。これらから、ディーゼル排気曝露はアレルギー性結膜炎を悪化する作用があることが示唆されました。

(3)ディーゼル排気曝露のアレルギー反応悪化作用の機構

 ディーゼル排気の曝露が花粉症の病態を悪化させる機構として、鼻や結膜が刺激に関して過敏な状態にすること、アレルギー反応の元となる抗原に対する抗体産生が亢進すること、好酸球の浸潤による炎症反応の悪化などがあげられます。例として、大気汚染物質の曝露が鼻アレルギーに及ぼす影響とその機構を図6にまとめました。

図4 抗原の繰り返し点眼投与による結膜炎症状に及ぼすディーゼル排気曝露の影響
図5 ディーゼル排気曝露が繰り返し抗原投与による結膜への血漿漏出に及ぼす影響
図6 ディーゼル排気曝露が鼻アレルギーを悪化させる機構

正常および病態モデル動物を用いた微小粒子状物質曝露が呼吸・循環機能に及ぼす影響

(1)PM2.5の心肺への影響

 PM2.5とその抽出物の呼吸循環系への急性影響を検討したところ、呼吸循環系を調節している自律神経のうちの副交感神経の支配が強まり気道が狭くなったり心拍数の低下が起きることが見出されました。

(2)肺炎症による呼吸機能低下等への影響

 肺に炎症を起こし呼吸機能が低下することから生じる血中酸素濃度の低下は、心機能に重大な影響を及ぼす可能性が考えられるため、換気機能検査やガス交換機能の変化を測定したところ、ディーゼル排気曝露によりいずれも低下することが確認されました。これは、異常心電図の発現に関係する所見と考えられました。

(3)ディーゼル排気曝露の心機能への影響

 ディーゼル排気を3,6,12カ月間曝露したラットの心電図を測定し、異常心電図の出現率や心電図波形を指標に検討しました(図7)。その結果、ディーゼル排気を3カ月間曝露したラットは、清浄空気曝露に比べ高い異常心電図の発現を示しましたが、6カ月曝露ではその発現が減少したことから、初期の異常心電図の発現は自律神経系のバランスの変化による一時的な心臓機能の異常が現れたものと解釈されました。しかし、12カ月以上の曝露による異常心電図の出現は持続的でした。このため、心臓の形態的、機能的な変化が起こっていることが示唆されました。いずれにせよディーゼル排気曝露は、異常心電図の発現動物を加齢と共に増加させることが見出されました。

 以上をまとめると、ディーゼル排気曝露は肺動脈高血圧を引き起こす可能性、異常心電図の出現を増加させる可能性、加齢はその要因を強める可能性があること等が示唆されました。

図7 EPがラットの異常心電図の出現頻度や心電図波形に及ぼす影響
異常心電図の増加は、心臓内の電気刺激の伝播に異常が起きていることを示し、ひいては、心臓を中心とする循環器の機能低下を示唆しています。期外収縮とは心房の電気刺激が短絡して心室に伝わり不意に心室筋を収縮させること、房室ブロックは、心房の電気刺激が心室に伝わらないため心室の収縮を起こせないことをいいます(一番上の図で針が振れる間隔が定期的でない状態が見えます)。

微小粒子状物質曝露が呼吸器による障害および免疫機能に及ぼす影響

(1)PM2.5高感受性群への細菌毒性とDEPの相乗影響

 気管支ぜん息、肺炎、気管支炎の既往者や、高齢者、免疫不全者等、PM2.5に高感受性群の人びとは感染症にかかりやすいという特徴を持ち、感染を契機に重症化することがしばしば経験されますが、その病態悪化のメカニズムは明らかにされていません。感受性の高い感染者の急性悪化には、グラム陰性桿菌(たとえば肺炎菌など)がしばしば関与します。そこで、グラム陰性桿菌由来の細菌毒素による炎症性肺障害に、DEPが及ぼす影響を検討しました。その結果、細菌毒素による肺障害はDEPにより顕著に増悪することがわかりました(図8)。

(2)DEP抽出成分と粒子成分の毒性比較

 DEPを有機溶媒に溶け出す成分(芳香族炭化水素などの多くの化学物質を含む)と、溶けずに残っている粒子成分に分画し、おのおのについて細菌毒素による急性肺障害を悪化するか否かについて検討しました。その結果、抽出物そのものよりも粒子成分の方が感染時に起きる炎症を悪化させる作用が大きいことが見出され、感染などによる肺炎症状の悪化は粒子状物質により影響を受ける可能性が示唆されました。

図8 曝露による肺炎の悪化、炎症細胞遊走因子(MIP-1α)量変化