ユーザー別ナビ |
  • 一般の方
  • 研究関係者の方
  • 環境問題に関心のある方

廃棄窒素削減に向けた統合的窒素管理に関する研究(令和 5年度)
Comprehensive Japanese nitrogen management for reducing nitrogen waste

予算区分
5-2301
研究課題コード
2325BA011
開始/終了年度
2023~2025年
キーワード(日本語)
反応性窒素,廃棄窒素
キーワード(英語)
reactive nitrogen,nitrogen waste

研究概要

 窒素循環はプラネタリーバウンダリーの概念の中で許容限界を超えた項目として表現されており、近年再び注目を集めている。化石燃料燃焼や化学肥料・工業用途のための人工的窒素固定により、窒素利用が爆発的に増え、人為起源の反応性窒素(N2ガスを除く窒素化合物の総称: Nr)の供給量は、20世紀後半に自然生態系の供給量を大きく上回るようになった。適切に管理されずに環境中に排出・放出される人為起源Nrは、全ての環境媒体(大気、陸水、海洋、土壌)を巡り、気候変動を含む幅広い環境影響を引き起こし、SDGsの全てに正または負の影響を及ぼす。2019年の第4回国連環境総会(UNEA)にて決議された“持続可能な窒素管理”の中で“窒素循環に関する分野間の支離滅裂なアプローチが、様々な形態の窒素汚染間の不明確なトレードオフをもたらしている”と指摘され、各種Nr(NOx, NH3, NH4+, NO3-, 有機態N等)がもたらす環境リスクを逓減させる統合的な窒素管理・統合評価の必要性が強調された。加えて、国連環境計画では“廃棄窒素”を半減という目標の議論が行われてきた。“廃棄窒素”とは、人為的な窒素利用に伴い発生する全ての窒素であり、NrとN2を含む。2022年の第5回UNEAでは、2030年までの廃棄窒素削減にむけた各国の国家行動計画の情報共有が推奨され、我が国においても、持続可能な窒素管理に向けて、廃棄窒素削減に資する統合的な窒素管理および環境リスク逓減に向けた統合評価に早期に取り組む必要がある。日本ではこれまでに各分野において多くの窒素研究の蓄積があるが、それらの科学的知見を活用して統合的枠組みを如何に構築するかが直面する課題となる。またNH3燃料利用といった新しい需要についても対応が必要である。
 本研究では、統合的な窒素管理手法・政策パッケージに資する知見の提供を目的にして、国家行動計画策定に必要な情報となる日本国窒素インベントリの最新の状況を明らかにし、その上で、行動計画の削減目標に備え、日本国内の廃棄窒素の削減のポテンシャルの評価を行う。また、エビデンスベースの政策形成(EBPM)を窒素管理に導入するため、廃棄窒素削減管理手法を網羅したロジックモデルを作成し、その中で重要なトレードオフや供便益最大化を、国内外を対象として数値モデル等により評価を行う。

研究の性格

  • 主たるもの:行政支援調査・研究
  • 従たるもの:

全体計画

本提案研究は、日本国の国家行動計画の策定に向けて、国際標準に適合した最新の日本国のNrインベントリを作成するとともに、ロジックモデルを活用し統合的窒素管理手法を提案する。研究構成はサブ1「日本国窒素インベントリ開発および廃棄窒素削減目標設定」、サブ2「国内の窒素政策および統合的窒素管理の効果測定に関する研究」、サブ3「日本およびアジア域における廃棄窒素削減シナリオの定量的評価」からなる。サブ1では、最新の日本国窒素インベントリの作成を行い、各セクターの廃棄窒素発生量と環境へのNr排出量およびこれらの排出削減ポテンシャルを評価する。排出削減ポテンシャルについては、脱炭素等の社会の変遷に伴う産業や交通セクターからの排出量の変化(自動車の電化等)、食品ロス半減等の既存政策に加え、農畜産業の窒素投入量についての検討を行う。また国内だけでなく、輸出入に伴う窒素フローを把握し、国内の消費に伴う国外における廃棄窒素発生量とNr排出量についても評価を行う。これらに加え、日本国政府が推進するNH3燃料政策について、廃棄窒素発生量とNr排出の増加の潜在性についても調査する。サブ2では、廃棄窒素に係る管理手法・政策を網羅的にロジックモデルとして整理を行い、統合管理の要となる管理手法の特定を行う。複数の媒体、複数のNrにおいて、削減の同時達成が見込める窒素管理手法の抽出を行い、サブ1で見積もった削減ポテンシャルをもとに環境動態モデル(大気化学輸送モデル、水文モデル、生物地球化学モデル等)を用いて、国内の環境中のNr動態を把握する。サブ3では、国際協力で有望な削減技術を特定するためのモデル開発を行う。温室効果ガス排出削減の検討に使用されてきた世界技術選択モデル(AIM)を窒素に拡張し、生物地球化学モデルと連動して多地域多部門おける廃棄窒素排出シナリオを検討する。対象は世界技術選択モデルの適用実績があるアジア地域を想定しているが、サブ1における輸出入分析結果を参考に確定する

今年度の研究概要

Sub1
反応性窒素インベントリ算出方法の改良:廃棄窒素発生量と環境への反応性窒素排出量の算出方法を改良し、算出に必要な排出係数等の収集および検討を行う。
反応性窒素インベントリの活動量の収集:2016年以降の窒素インベントリ作成に用いる活動量の整備を行う。必要な統計量を収集、整理、集計を行う。
輸出入に伴う窒素フロー評価のための産業連関表の整備:窒素フロー、廃棄窒素に係る統計値の抽出ならびに、物量を窒素量に変換するパラメータの検討を行う。

Sub2
・廃棄窒素削減の管理手法、ならびに現行の施策をロジックモデル・ツリーとして整理し、管理/政策におけるトレードオフ、供便益を特定する。さらに管理ロジックモデルを統合して、重要な反応性窒素の統合的管理・政策を抽出する。特に重要な統合的管理について、ロジックモデルを可視化ツールとして利用し、政策関係者や一般市民とのコミュニケーションに活用できるようにする。
・NH3燃焼による環境リスクを、火力発電および船舶からのNH3スリップ(漏洩)量を段階に変化させた大気化学輸送モデルシミュレーションにより、大気NH3濃度・日本の陸域への窒素沈着ならびにPM2.5増加への貢献を評価する。
・管理による反応性窒素種/媒体間のトレードオフや供便益最大化について各種数値モデル等を使って以下について定量評価を行う。大気についてはNOx, NH3, PM2.5の大気濃度と窒素沈着量を、陸域については土壌からの大気へのNH3, NOx, N2O, N2放出に加え、水域・地下水への硝酸, 有機態N流出量を評価し、管理・政策による反応性窒素の削減/増加の効果測定を行う。NH3燃料利用時についても同様に評価する。
・秋田県八郎潟流域を含む、複数スケールでの窒素収支の把握を行い、流域間における窒素削減管理の効果の違いを評価する。

Sub3
・日本国を含むアジア諸国における反応性窒素負荷、環境中での動態を予測するための入力データと全球モデル群(統合評価モデルAIM/Enduse[Global],生物地球化学モデル VISIT)による多地域多部門からの人為起源の廃棄窒素排出の評価を可能にするためのパラメータ取得、モデル改良を行う。
・開発したデータベース、改良したモデルを用いて、エネルギー部門(発電、産業、家庭、業務、運輸)ならびに非エネルギー部門(農耕作、農畜産、自然生態系)における2050年までの人為起源の廃棄窒素排出シナリオを探索する。
・過去から現在における環境基準超過および反応性窒素リスク(大気質:NOx, 水質:NO3−, 生態系影響)の同時評価を、機械学習モデルによって評価する。さらに学習したモデルを用いて、脱炭素対策と反応性窒素削減策の相乗効果・相殺効果を評価する。
・日本国およびアジア諸国における反応性窒素削減ポテンシャルを評価し、国際的な廃棄窒素半減目標の実現可能性に向けた日本の窒素利用とその環境負荷の国際的な位置づけを評価する。

外部との連携

総合地球環境学研究所、農業・食品産業技術総合研究機構、東北大学、秋田県立大

課題代表者

仁科 一哉

  • 地球システム領域
    物質循環モデリング・解析研究室
  • 主任研究員
  • 博士(農学)
  • 林学,農学,コンピュータ科学
portrait

担当者