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災害環境研究プログラム(令和 5年度)
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研究課題コード
2125SP070
開始/終了年度
2021~2025年

研究概要

-福島県内における地域環境の再生・管理と地域資源を活かした環境創生に資する地域協働型研究を推進する。また、東日本大震災等過去の災害からの経験と知見の集積・活用・体系化により、国内の大規模災害時の廃棄物処理システムの強靭化と化学物質リスク管理に係る非常時対応システムの構築に取り組む。。3年を目途に地域資源利活用や災害廃棄物処理支援等に関する主たる技術・システム開発等を行う。さらに、それら成果に基づいて、福島の環境復興に資するシナリオや災害時の廃棄物処理や化学物質管理に係るシステムの構築と提案と、それらの実装支援とそのフォローアップを目指す。これにより、「福島における持続可能な地域環境の構築」と「将来の災害に対する地域のレジリエンスの向上」の実現に貢献する。

研究の性格

  • 主たるもの:技術開発・評価
  • 従たるもの:応用科学研究

全体計画

 過去の災害から得られた経験と知見の集積と活用に基づいた研究の実用化及び体系化を図りつつ、地域ステークホルダーとの協働の下、自然環境の再生・管理と地域資源を活かした環境創生に資する地域協働型研究の推進と、大規模災害時における廃棄物処理システムの強靭化と非常時対応システムの構築に取り組む。
 本研究プログラムでは、以下の6つの課題に取り組む。
PJ1:住民帰還地域等の復興と環境回復に向けた技術システム構築。
PJ2:被災地域における環境影響評価及び管理。
PJ3:地域再生と持続可能な復興まちづくりの評価・解析。
PJ4:避難指示解除区域における地域資源・システムの創生。
PJ5:広域・巨大災害時に向けた地域の資源循環・廃棄物処理システムの強靭化。
PJ6:緊急時に備えた化学物質のマネジメント戦略。
 PJ1では、国が定める戦略目標の設定期限2024年をターゲットとし、除去土壌等の減容化及び再生利用並びに県外最終処分に向けた技術開発を行うとともに、シナリオ評価や社会受容性を考慮して適正な技術システムを提案する。木質バイオマスや資源作物等を原料として再生可能エネルギーを製造する技術及びコンバインド技術システムを脱炭素化や安全性に着目して開発する。同時に、処理過程における放射性セシウム等の有害元素の挙動を明らかにし、バイオマスの利活用シナリオを提案する。以上の研究成果について社会実装等を通じて、住民帰還地域等の復興や環境回復に役立てる。具体的には、3年を目途に、減容化技術については技術シナリオの確認を、バイオマス利活用については技術システムの提案をそれぞれ実施し、5年を目途に、除去土壌利用に係る社会実装支援と県外最終処分に向けた詳細技術試験とシナリオ提案を行うとともに、放射性セシウムの挙動解明に基づくバイオマスの利活用シナリオを提案する。
 これらの取組により、県外最終処分等に係る一連の技術システムのシナリオ評価を通した開発、有害元素の挙動に着目したバイオマスの利活用シナリオと技術システムの提案し、国の施策や地域社会に実装する。
 PJ2では、避難指示区域内外を対象に、自家採取食物の採取活動と摂取に伴う被ばくリスク評価と低減手法の開発を行うとともに、淡水環境における生物利用性放射性セシウムの生態系移行と除染シナリオを想定した生態系サービスへの影響評価、及び生態系モニタリングに基づいた里地・里山環境における人と野生生物との関係性の変化による影響評価を行う。具体的には、3年を目途に里山における内外部被ばく低減手法の開発や、放射性セシウムによる淡水魚汚染リスク低減のための山林及びダム湖除染シナリオを設定する。また、生態系サービス管理指標生物を用いた里地里山の管理効果指標・予測モデルの提案及び環境試料から感染性ウイルスを簡便に検出する方法を開発する。さらに5年を目途に里地里山での生業における内外部被ばく線量の低減手法の効果の提示や、山林及びダム湖除染シナリオによる費用便益評価を達成する。また、生態系サービス管理効果指標・予測モデルの確立と一般化を行うとともに、避難指示区域内における感染性ウイルスの分布状況を提示する。
 これらの取組により、避難指示が解除された地域において、住民の生活様式に即した科学的データを提供することで、帰還住民の安心安全の醸成や未帰還住民の帰還の意思決定に際し判断材料を増やすことを目標とする。
 PJ3では、原子力災害の被災地を中心とした復興のデータベースを構築し、持続可能性の各側面から復興過程の定量的分析を行う。将来シナリオを分析する地域統合評価モデルを開発し、避難指示解除地域における持続可能な発展に向けたシナリオを構築する。また、震災後の復興が円滑に進んだ地域を先導モデル地域として選定し、適切な事業・技術を選定し環境まちづくりを実現するための地域解析システムを開発する。具体的には、3年程度で復興のデータベースを用いた持続可能性の各側面から復興過程の定量的分析と、それを活用して大規模避難後のマクロ的な地域再生を描写し将来シナリオを分析する地域統合評価モデル(R2-AIM)を開発する。また、先導モデル地域を対象とした、環境まちづくりの実現のため適切な復興事業・技術を選定し得る地域解析システムを開発する。また、5年を目途に、これらモデルやシステムを活用し、将来シナリオの構築や環境復興計画、環境に配慮したまちづくりの実現に向けた具体的な提言を行う。
 これらの取組により、避難指示解除地域等における復興、再生、持続可能社会実現に向けた環境まちづくりに貢献する。
 PJ4では、放射線災害を受けた対象地域において、地域資源、里地里山生態系サービス、地域社会システムの統合的研究を行い、?と?の課題との連携のもと、環境放射能汚染に係る環境影響評価や修復、バイオマス等地域資源の利活用に基づく環境創生を一貫して推進するプロジェクト研究として取り組む。具体的には、3年程度で環境放射能汚染による影響評価も含めた地域資源ポテンシャル調査や地域社会システムに係る調査結果を基に、避難指示解除区域における地域資源利活用に関する地域システムの創生研究を実施する。また、5年目を目途に、それらを踏まえ、本システムを活用した地域資源の利活用を柱とした持続可能な地域環境構築に向けた取組に対する自治体等の計画、方針などへの反映や、災害後のバイオマス利活用、林産物などに関する技術導入のガイドラインの作成を行う。
 これらの取組により、対象地域における放射線災害からの里地里山、生態系サービスの回復に向けた事業化や放射線災害後のバイオマス利活用、林産物などに関する技術的知見、ガイドラインの確立を目指す。
 PJ5では、南海トラフ・首都直下地震のような巨大災害、広域的な豪雨災害時には、処理主体である基礎自治体を中心とした、広域行政主体・民間事業者・市民等の資源循環・廃棄物処理に関わる地域主体のガバナンスが重要課題である。また、技術的観点からは、大量のコンクリートがらや解体系木くずなどの出口確保が大きな課題となる。いつ発生するか分からない巨大災害に対応するためには、上記の課題に対して、平時と災害時のコベネフィットを実現する対策が求められる。そのため、災害廃棄物処理に係る平時とのシームレスなガバナンスシステムと再生資源の利活用戦略を検討し、ガバナンスの在り方とその実装を支援するオンラインツール、事前復興計画の理念を踏まえた具体的な技術・社会システムを提示する。さらに、?と?の課題と連携し、レジリエントな社会構築に向けた他の社会システムに係るガバナンスの在り方についても検討する。具体的には、3年程度でモデル地域における廃棄物ガバナンスプロセスの試行を開始し、それを支援するオンラインツールの基本システムを構築するとともに、土石系及び木質系循環資源の推計と利活用に係る需要・コストの整理・予測を行う。また、5年を目途に、レジリエントな廃棄物処理システムを実現するためのガバナンスガイドの提示と地域の関係主体の能力向上・連携醸成に活用できる「災害廃棄物対策支援ツール」の本格運用を始めるとともに、土石系及び木質系循環資源の平時とシームレスな出口戦略を提示する。
 これらの取組により、災害廃棄物処理に係る平時とのシームレスなガバナンスシステムとその実装を支援するツールを実装し、事前復興計画の理念を踏まえた具体的な再生資源の利活用技術・社会システムを提示する。
 PJ6では、緊急時に備えるべき化学物質の管理システムやモニタリング体制の在り方等、化学物質のマネジメントへの取組として、災害を含めた突発的事故に対処するための情報基盤構築とリスク管理体制の体系化に加えて、それら発災による化学物質の影響を迅速且つ的確に把握するための包括的調査手法の開発と実用化を図り、リスクに対処する科学的手法と将来的な化学物質の管理システムの方向性を環境施策として提示する。具体的には、3年程度で過去事例の解析に基づいた災害事故時における化学物質のリスク管理体制を体系化する。一方、漏洩した化学物質の迅速な汚染実態の推定とその曝露評価の点では、親水性の調査優先物質についてデータベース利用に基づく迅速簡易同定定量システムの基礎データを収集するとともに、災害時環境疫学及び環境曝露をより効果的に調査可能なツールと手法を開発する。また、陸域で漏洩・放出された化学物質の溜まり場となる沿岸海洋生態系に着目し、事例解析も含めた定量的な災害影響予測法を提案する。また、5年を目途に、早期復興に求められるリスクに対処する科学的手法と将来的な化学物質の管理システムを行政施策に提供する。
 これらの取組により、緊急時を想定した化学物質のリスク管理基盤の構築に加えて、漏洩した化学物質の汚染状況、災害時環境疫学及び環境曝露を迅速かつ適切に把握可能なツールを開発し、リスクに対処する科学的手法と将来的な化学物質の管理システムの方向性を環境施策に提示する。

今年度の研究概要

 PJ1では、除去土壌と溶融スラグの実証盛土試験、ならびにテストセル実験を新たに開始する。また、県外最終処分に向け、イオン交換反応理論を用いた吸着剤評価手法の開発を継続し、技術合理性を考慮したシナリオ・コスト評価を進める。さらに、木質バイオマス発電技術開発については、施設調査等により放射性セシウムの挙動を明らかにするとともに、メタン発酵技術に関して木質、草本バイオマス発電の残渣等を利用した発酵促進資材の作成と効果検証に取り組む。
 PJ2では、土壌管理手法による野生山菜の委嘱苗への放射性セシウム移行の低減効果及び、調理方法に依るの生山菜・きのこの放射性セシウム濃度の低減効果を明らかにする。また、溶存態放射性セシウム低減に効果的な流域・ダム湖の除染シナリオの検討と淡水魚への移行予測を行うとともに、淡水生態系における生産者から魚類への放射性セシウム移行を解明する。さらに、地域の生態系管理指標生物群の動態モデルの改良及び生物モニタリングへの市民参加支援ツールの改良・普及を行うとともに、 新規開発した環境中のウイルスモニタリング手法と捕獲個体から得られるデータを利用し帰還困難区域等の豚熱ウイルス実態調査を行う。
 PJ3では、復興データベースの構築を継続し、地域エネルギー需給バランスの推計と最新データにもとづく帰還状況の要因分析の更新を行うとともに、復興と地域資源活用を描写する地域統合評価モデル(R2-AIM)を実装し、浜通り市町村におけるなりゆき的な将来シナリオを試算する。また、地域解析システム開発の一環として、地域エネルギーマネジメント計画・評価手法のための建物シミュレーションによるエネルギー需要予測システムを構築するとともに、既存の地域エネルギー供給事業を対象として当該開発システムを検証する。
 PJ4では、経済性や放射性物質の影響等を踏まえて福島県内における森林資源需給バランスを明らかにするとともに、浜通り地域を対象としてバイオマスの先進的エネルギー変換技術システムの設計を
進め、その社会実装に向けて多主体との協議に着手する。また、ステークホルダーネットワークに関する調査を実施し、地域社会システムの動態を把握する。加えて、昨年度までに実施した、まちづくりの先進事例調査の結果をとりまとめ、それらの成功要因の避難指示解除区域で展開するための枠組を構築する。
 PJ5では、昨年度に実施した社会ネットワークに関する調査結果を解析し、ネットワーク・ガバナン
スの成立要件を提示するとともに、ガバナンスを構築するプロセスの設計と検証を進める。また、地域関係主体の連携を促進する取組に関する実態調査を実施し、その成果を活かした住民連携支援ツールの基本設計を行う。さらに、首都直下地震を想定したコンクリート殻を対象とした発生量推計、需給バランスへのインパクト評価、処理シナリオ評価の高度化を進めるとともに、木質系循環資源についても同様の解析を行うための基礎情報を整理する。
 PJ6では、災害時の円滑な化学物質管理を目指し、本年度は各サブテーマにおいて以下の内容に取り組む。情報管理システムでは、化学事故の分類と適用されるリスク管理手法の解析ならびに情報基盤システムの公開に向けたシステム改修を進める。自動同定定量システムでは引き続き対象成分を拡張し、災害時環境モニタリング実施者向けのポータルサイトを作成する。炭化水素組成を類型化では、民間企業との共同研究により低硫黄燃料重油など多様な燃料油を対象とするとともに、海洋流出時の影響と油製品性状との関連性を確認する。環境予測では東日本大震災後の干潟生物群集の回復と遷移に関する変動解析および復旧工事による影響を推定する。緊急時の健康影響と曝露評価ツールの開発では、ツールおよび質問票の整備と公開、さらには災害疫学に関する国内外機関との連携強化および国際 Disaster Research Response(DR2)会議を開催する。

課題代表者

林 誠二

  • 福島地域協働研究拠点
  • 研究グループ長
  • 博士(工学)
  • 土木工学,林学
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担当者