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都市・地域スケールでの統合的な低炭素シナリオ設計モデル開発と社会実装手法の検討(平成 29年度)
Development of Holistic Low Carbon Scenario Design Model for Cities and Regions and
its Demonstration in Japan and Indonesia

予算区分
KZ その他公募
研究課題コード
1719KZ001
開始/終了年度
2017~2019年
キーワード(日本語)
低炭素,都市,モニタリング,統合評価モデル,インドネシア
キーワード(英語)
Low Carbon,City,Monitoring,Integrated Assessment Model,Indonesia

研究概要

2015年12月にパリで開催されたCOP21で決定されたパリ協定では、長期目標として世界平均の気温上昇を産業革命前から2℃未満に抑える(1.5℃も視野に入れる)こと、温室効果ガス排出量(GHG排出量)をできるだけ早くピークアウトし21世紀後半に人為起源のGHG排出量を正味ゼロにすることが示されている。この目標達成のためには、国レベルでのGHG削減のためのシナリオ(以降、低炭素シナリオ)検討とともに、地域レベルでの低炭素シナリオの検討と、社会実装のためのロードマップを提示していくことが肝要である。
 本研究では、エネルギー分野からのGHG排出量が主の日本と、農業、林業及び土地利用(AFOLU)及び都市化中心に土地利用、土地利用変化及び林業(LULUCF)分野からのGHG排出量の大きいインドネシアを対象にすることで、様々な特性を持つ地域で共通的に利用可能な「地域低炭素シナリオ設計システム」の構築を目指すものである。具体的には、(1)地域の社会経済状況やエネルギー消費等を時間・空間的にデータベース化した「社会資源データベース」の開発及び(2)低炭素シナリオ及びロードマップを検討できる「地域統合評価モデル」の開発を実施し、(3)データベースとモデルを結合して日本及びインドネシアの具体的な都市へ適用しての効果検証と手法論の一般化とガイドラインの整備を実施する。
 本研究により、以下のような成果が期待されるものである。
- 様々な特性・規模の都市に共通的に利用可能な低炭素シナリオ設計手法(地域低炭素シナリオ設計システム及びガイドライン)の構築とインドネシア環境林業省等との連携を通じた一般化
- パリ協定を踏まえた国のGHG削減対策や各国が自主的に決定する約束草案(Intended Nationally Determined Contributions、INDCs)と整合した都市の低炭素政策及びその社会実装の具体化
- 日本とインドネシア相互の都市低炭素シナリオ比較を通じた、先進国・途上国共通の、あるいはアジア諸国で共有化できる都市の低炭素化に関する知見の集約化

研究の性格

  • 主たるもの:政策研究
  • 従たるもの:応用科学研究

全体計画

 日本の研究者は、これまで低炭素社会構築の観点からエネルギーシステムや経済システム、資源循環システムに関する研究に豊富な実績を有する。また、インドネシアの研究者は、温暖化の自然への影響研究や、国の温室効果ガスインベントリ構築に関する研究や実務について豊富な実績を有している。このような日本及びインドネシアそれぞれの強みを二国間交流により相互に強化させて以下の研究を実施する。
(1)社会資源データベースの開発と地域特性に基づいた低炭素ポテンシャル診断システムの構築
 地理情報システム(GIS)等も利用し、地域の社会経済データ、土地利用、エネルギー資源や技術普及等に関するデータを集約できる社会資源データベースを設計する。また、構築したデータベースをもとに、地域の低炭素ポテンシャルを簡易に診断できるシステムの理論を開発する。
(2)都市の社会経済状況に基づくエネルギー、AFOLU及びLULUCFを統合した地域統合評価モデルの開発と地域低炭素シナリオ設計システムとしての統合化
 日本の有するエネルギー部門を中心とした解析モデルと、インドネシアの保有するLULUCFを中心とした解析モデルを統合した地域統合評価モデルを開発する。また、(1)で開発した社会資源データベースと低炭素ポテンシャル診断システムを組合わせ、データ整備から低炭素シナリオ分析までを一貫して実施できる「地域低炭素シナリオ設計システム」として構築する。
(3)地域低炭素シナリオ設計システムの具体都市への適用と知見の集約化及びガイドライン化
 (2)で開発した地域低炭素シナリオ設計システムを、日本及びインドネシアそれぞれの対象地域に適用し、開発した手法の効果を検証するとともに、シナリオの比較等を通じて相互の知見に基づいて国際的に共有化できる都市低炭素化に関する知見を集約化する。               
 対象都市は、双方の研究者が既に政策担当者との研究連携を構築済みの都市(福島県新地町、福岡県北九州市、インドネシア・ボゴール市、インドネシア・バンドン市)を中心に選定し、成果の政策への反映も視野に入れる。
 これに加えて、一連の手法を日本やインドネシアを越えて都市の低炭素シナリオ設計のための手法として一般化してガイドライン等としてとりまとめて科学的手法に基づいた将来シナリオ設計手法を国際的に発信する。

今年度の研究概要

1. 日本側・インドネシア側研究者が共同した全体計画の作成
 本共同研究では、都市に着眼点を置き、日本側の研究蓄積とインドネシア側の研究蓄積とを統合化して、地域特性の理解(社会資源データベース及びその診断システム)から具体的な都市の低炭素対策を分析するモデル(地域統合評価モデル)とそれらを構成要素とする地域低炭素シナリオ設計システムを構築することを目的としている。この全体目標達成のために、申請書にて提示した共同研究計画に沿った各年度の実施内容及び両国研究期間の分担及び連携など共同研究期間の全体計画を共同して作成する。
 また、研究参加を予定している両国の若手研究員、特にポスドク研究員や博士課程学生等について日本及びインドネシア双方の研究者をメンターとして進めることを予定しているところ、各年度の若手研究員の滞在計画についても作成する。

2. 社会資源データベースを設計し、日本及びインドネシアの対象地域のデータ収集及びデータベースへの格納
 本共同研究が目的とする都市・地域スケールでの統合的な低炭素シナリオ設計にあたっては、対象地域の特性を理解し、設計に適切に反映していくことが肝要である。また、対象とする範囲を狭めるにつれて、土地利用や施設・住宅・建築物等の空間的な立地情報が重要となる。そこで、モデルを用いた低炭素シナリオ設計に先立ち、地理情報システム(Geographical Information System、GIS)等も利用し、地域の社会経済データ、土地利用、エネルギー資源や技術普及等に関するデータを集約するための社会資源データベースの構造や格納すべきデータの種別等を両国研究者による協議を実施し、具体的なデータベースとして設計する。なお、格納すべきデータの検討及びデータベース設計にあたっては、日本・インドネシアともに都市や地域だけでは必要とされる統計情報を網羅できないことから、国全体の統計データ等の対象都市や地域外も含んだデータも取り扱えるように留意することとする。
 また、設計したデータベース構成に基づき、両国研究機関がそれぞれ対象とする地域に関連するデータの収集とデータ格納を実施する。なお、モデル開発において日本側研究機関がエネルギー部門を中心とした解析モデルを用いた研究を、インドネシア側研究機関が農業、林業及び土地利用(AFOLU)、土地利用、土地利用変化及び林業(LULUCF)を中心とした解析モデルを用いた研究を実施するという観点から、インドネシアにおいてはエネルギー関連データを、日本においてはAFOLU/LULUCF関連データの収集に重点を置くものとする。加えて、特にGISデータ収集においては両国の若手研究者を中心に担当して、GISデータ取り扱いの技能向上も目指す。

3. 社会資源データベースに基づく地域低炭素ポテンシャル診断システムの開発
 地域や都市の低炭素シナリオを設計する上では、モデル分析に先立ってデータベースに格納された情報をもとに、対象地域・都市に適した低炭素方策のスクリーニングや、例えば技術普及の情報とエネルギー消費情報を組み合わせることで省エネ機器への置き換えによるエネルギー・温室効果ガス排出量削減余地(ポテンシャル)を診断できることが望ましい。また、日本においてもすべての自治体がモデルを用いた計画立案キャパシティを持つわけではないことも勘案すると、データベースにこのような診断機能を付加することによって、収集したデータを活用して低炭素方策を簡易に立案するためにも役立つものと考えられる。そこで、2にて設計した社会資源データベースで収集されるデータに基づいて地域を診断する地域低炭素ポテンシャルシステムの開発に着手する。

4. 日本側を中心にエネルギー分野のモデル開発を、インドネシア側を中心にLULUCF分野のモデル開発を実施し、相互のモデルの統合化に着手
 本共同研究では、日本の有するエネルギー部門を中心とした解析モデルと、インドネシアの保有するLULUCFを中心とした解析モデルを統合した地域統合評価モデルを開発することを目的としている。しかし、現在有するモデルはいずれも国全体や世界を対象としており、そのままでは都市や地域での分析に適用することはできない。そこで、まず既存モデルを都市や地域での分析に適用可能なように改良・開発を実施するとともに、エネルギー部門のモデルについても知見が深いインドネシア研究機関(バンドン工科大学)の研究者が中心となって、両国の開発するモデルの統合化のための機能開発に着手する。なお、都市や地域へ適用可能なモデル開発に先立って、両国機関の若手研究者が相互のモデルを学習する機会(トレーニングワークショップ等)を開催し、それぞれのモデルについての理解を深めることとする。

外部との連携

本研究は二国間共同研究の枠組みを用いたものであり、インドネシア・ボゴール農科大学(IPB)及びバンドン工科大学(ITB)と連携して実施している。

課題代表者

芦名 秀一

  • 社会システム領域
    脱炭素対策評価研究室
  • 室長(研究)
  • 博士(工学)
  • 機械工学,システム工学
portrait

担当者