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海洋表層CO2分圧観測国際データベース形成と海洋CO2交換広域推定(平成 25年度)
Promotion of International Database of Ocean Surface pCO2 and Use for Basin Scale Estimation of Ocean CO2 Sink and Sources

予算区分
BB 環境-地球一括
研究課題コード
1113BB002
開始/終了年度
2011~2013年
キーワード(日本語)
海洋表層二酸化炭素
キーワード(英語)
ocean surface CO2

研究概要

海洋表層CO2交換(吸収・放出)全球マッピングは、地球規模炭素循環モデルの重要な検証データで、表層CO2分圧(pCO2)の全球データセット形成が急務である。進行中の国際データベース(SOCAT: Surface Ocean Carbon ATlas)プロジェクトで、太平洋域担当の中核機関機能を確立し、わが国から国際センターへのデータ発信を受け持つ。最新技法のニューラ ルネットワークで実現した北半球中高緯度pCO2変動解析を広域化する。衛星観測と客観解析の月毎値に基づく海洋pCO2分布とCO2フラックスの年々変化推定を、赤道域から南太平洋域、南大洋へと展開する。

研究の性格

  • 主たるもの:モニタリング・研究基盤整備
  • 従たるもの:応用科学研究

全体計画

国立環境研の貨物船による観測が貢献してデータ密度の高い北太平洋域は、世界でも最も観測が充実した海域の一つで、北大西洋についでニューラルネットワークを適用するのに適切な海域である。前回課題で適用を進めた結果、海洋表層の中規模渦の再現を含むpCO2マッピング推定が可能となった。このマッピングではまだ生物生産の効果が入っていないが、生物生産の大きくない中低緯度域では、かなり現実的な推定となっていると考えられ、実データと対照する精度確認を進めている。pCO2に対して生物生産の影響が大きいと考えられる中高緯度の春から夏にかけての推定には、植物色素のデータセットを用いる学習が必要と考えられ、現在解像度を合わせた植物色素の衛星観測データセットを用意し、それを加えた計算に着手している。
 これまでのデータ補間を手法とする面的推定では困難だった、近傍に観測値がない海域のpCO2推定も、数年の期間の観測値と海洋パラメータ間の「学習」を根拠とする推定で、 合理的に推定されるものと思われる。衛星観測と客観解析は年々、月毎のデータセットを形 成することができるので、結果としてpCO2の詳細な年々変動の推定が可能となるのである。
 本課題では、ニューラルネットワークの適用拡大を、
(1)赤道太平洋
(2)南太平洋西部 についてまず進める。赤道太平洋については、東部は米国のNOAAによる船舶観測と TOGA/TAOブイに装着したpCO2センサーによる高密度データが得られる。赤道太平洋中部は気象研/JAMSTECによる 1990年代から 00 年代前半のかなりの密度のデータが得られるが、最近は観測が少ない。西部では環境研貨物船オセアニア航路のデータが 2006 年以降継 続的に得られている。ここでのニューラルネットワーク手法の適用においては、赤道太平洋特有の現象(東部での強い湧昇の変化、すなわち、エルニーニョとラニーニャ)に適用性が依存するか?また、西部赤道海域でもENSOサイクルとpCO2が相関することが最近の国立環境研観測で発見されたが、pCO2変化と温度変化の比が東部太平洋で大きく異なる(西部 赤道海域の方では水温変化が小さくてもpCO2が大きく変化する)ことがどう影響するか? はニューラルネットワーク手法適用性評価のポイントである。
 本来のニューラルネットワーク手法は、ある海域の学習ができるだけ広域に、極端には 全海洋に適用されることが望まれるのであるが、大きな海域区分毎に分ける必要があるかもしれない。この適用性の議論は、北大西洋が1例目、北太平洋が2例目(作業の途中)である ので、結論が明らかでない。現在の研究課題を進めていく中で、北大西洋と北太平洋ではた いして同じ学習の適用が可能かどうか?評価されるが、鉛直混合様式の全く違う北大西洋と 北太平洋が同じに扱えると考えるのは、楽観的過ぎると思われる。
 南太平洋西部については、豪州・ニューカレドニア・ニュージーランドに囲まれた海域で 環境研の貨物船観測により高密度データが得られるので解析可能と考えられるが、どの程度 東部にまで適用性があるか?検討する。ニュージーランド-米国間の NOAA 貨物船観測が 再開(貨物船の航路変更によって中断中)されると、データ密度が飛躍的に高まる。
 また、次にニューラルネットワークの適用拡大を試す海域として
(3)南太平洋東部
(4)南大洋
を検討する。南太平洋東部は図3に示す現在の SOCAT データカバレッジにおいて、世界で 最も観測量の少ないところ(観測空白域)であり、もし他の海域の学習が当てはめられるなら ば、ニューラルネットワーク推定は有用である。実観測データは数少ないが、JAMSTECによる最近の東西横断航路観測があり、データがその検証に活用できる。
 一方、南大洋(南極海)では、オーストラリア大陸の南とインド洋セクター(昭和基地は インド洋セクターで、極地研の観測はその海域が中心)にデータが集中し、太平洋セクター の観測値が極めて乏しい。もし南極海でも東西広域に同じ学習が当てはめうるならば、ニュ ーラルネットワーク手法は効果的である。豪州 CSIRO とニュージーランド NIWA の協力研究者にもデータ提供を求めながら、検証データと比較して適用性の研究を進める。

今年度の研究概要

今年度は、SOCAT 改訂版作成のための観測データの品質管理を行うとともに、SOCATが進めているデータ提供プロセスの自動化をサポートする。
 また、pCO2マッピングに関しては、昨年度作成した南北太平洋域のpCO2分布再現性の向上を進めるとともに、南大洋のpCO2分布再現に取り組む。

課題代表者

野尻 幸宏

担当者