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アジア陸域の指標生態系における温暖化影響の長期モニタリング研究(平成 25年度)
Long-term monitoring on climate change and its effects on indicating ecosystems in terrestrial ecosystems in Asia

予算区分
BB 環境-地球一括
研究課題コード
1317BB001
開始/終了年度
2013~2017年
キーワード(日本語)
気候変動,草原,熱帯林,長期観測,生態系
キーワード(英語)
Climate change, Grassland, Tropical forest, Long-term observation, Ecosystem

研究概要

アジア陸域は、多様な気候と生態系を持ち、温暖化の影響も多岐かつ多大であることが予想されるため、当該地域の温暖化影響を包括的かつ早急に把握する必要がある。本研究では、温暖化影響を敏感に検出できる生態系(指標生態系)、すなわち、広大な面積を持ち、主に発展途上国と地域に分布し、データの蓄積が乏しい草原、高山帯と熱帯雨林生態系に注目し、温暖化影響の長期観測体制を構築する。これらの生態系の物理環境及び生態系の構造と機能の観測を強化し、季節相と多様性を重視した温暖化影響の評価手法を開発することによって、アジア陸域生態系全体に関する温暖化影響の評価や当該地域の生態系・生物多様性保全に必要な知見を提供する。
 「平成24年度の我が国における地球観測の実施方針」では、「生態系・生物多様性に対する気候変動の影響」をできるだけ時系列的に把握し対策を打つことが求められている。そして「とくに、発展途上国における環境の変化が著しいこと、気候変動などによる影響が早期に顕在化する可能性が高いことなどから早急に観測体制を構築する必要がある」などが強く求められている。また、政府の総合科学技術会議が取り組んでいる「地球観測の推進戦略」中で「アジア、とくに東アジア・東南アジア及びオセアニアを中心とする地域との連携をより一層強化する」ための地球観測体制の確立が強調されている。これらの観点から、地球観測を推進するため、(1)アジア特に東アジアと東南アジア地域(発展途上国も多い)は極めて重要な対象地域である、(2)生態系・生物多様性の温暖化影響を早急に把握する必要がある、(3)広範囲の観測体制(ネットワーク)の確立が緊急な課題である、などが強く示唆されている。
 そこで、本研究の主な目的は、多様な気候と生態系を持つアジア陸域において、温暖化影響を強く受け、その影響を敏感に検出できる指標生態系(Indicating Ecosystem)に着目し、生態系の物理環境、構造・機能及び生物多様性に関する長期観測ネットワークの基幹を構築し、とりわけ、データ蓄積が不足または空白のアジア草原・高山帯・熱帯林生態系に関する観測を強化し、植物の季節相と多様性を重視したアジア陸域生態系の温暖化影響に関する包括的評価手法を開発する。これらによって、全球地球観測システム(GEOSS:Global Earth Observation System of Systems)などに対して、生態系の温暖化影響の長期観測方法、観測データを提供し、陸域生態系の温暖化影響の把握と予測を目指し、生態系の環境保全・生物多様性の保護に貢献する。

研究の性格

  • 主たるもの:モニタリング・研究基盤整備
  • 従たるもの:基礎科学研究

全体計画

本研究は、下記の各指標生態系(モンゴルの乾燥草原、中国の高山草原、日本の高山帯、マレーシアの低地林)で以下の観測研究を行う。
 本研究主な観測内容は、(1)生物環境:地上2mの気温、湿度、降水、日射量、光合成有効放射等;土壌中5,15,30cmの温度・湿度;(2)生態系影響:(a)可視・近赤外線の長期定点撮影:種ごとの季節相・個体群動態(個体数、生長状況の変化等);(b)現地調査:種組成・分布・個体群動態;(c)生態系機能に関連する項目(主に炭素収支)及び(3)各観測拠点の特有な既存観測を継続すること、と広範囲の温暖化影響を評価するため、各拠点を含めた衛星データの収集と解析も視野に入れることである。また、観測拠点の標準化の詳細内容は下記の通りである。
(1)気象環境の長期観測:各指標生態系における生物環境の変化を把握するため、以下の共通観測項目について、1分間間隔で長期連続的に自動計測を行う:
 地上:2mの高さでの気温・湿度・降水・日射・光合成有効放射・紫外線;
 土壌:5cm,10cm,20cmの深さでの土壌温度・湿度(湿地の場合水位も)
 上記の観測は、青海とチベットサイトでは、2006年から1000m前後の垂直トランゼックター(同じ山の斜面で異なる標高)に沿って、それぞれが7箇所と10箇所で行われており、今後も継続する。モンゴル高原、日本の槍ヶ岳、そして熱帯低地林については、協力研究者の観測も含め、各サイト1、2点の観測がすでに行われているが、今後、上記の観測項目と計測方法の標準化を行う。
(2)生態系温暖化影響の長期観測:生態系の温暖化影響に関する指標は、様々であるが、本研究では、まず、下記の共通指標についての観測を行う。
 可視光と近赤外光自動撮影装置による生態系連続撮影:本研究では、植生のバイオマスや分布域の把握に有効な近赤外光を撮影するセンサーにより、目的範囲内、すべての植物種を判別できるだけではなく、生長の状況も高い精度で把握できるように、異なる太陽高度で、一日3回で撮影を行う。これらの予備観測は、国立環境研究所がすでに日本の高山で行ており、チベット高原もテスト観測中である。撮影から、以下の主な情報を獲得する:
  植物種ごとの季節動態(展葉、開花、結実、枯れなど)
  植物種ごとの個体群(個体数)動態
  植物種ごとの成長動態
 現地植物多様性調査:上記の撮影データをより高い精度で解析できるため、撮影範囲内での定点・定期植生調査を行う。調査内容:植物種組成、個体群動態(個体数変化)、植物の生存・成長など。
 観測拠点に特化した観測:生態系影響の評価上で極めて重要だが、生態系の特徴によって標準化できない内容もある。これらの内容は、なるべく近い指標を観測できるようにする。具体的に、本研究の4つの観測拠点については、すでに申請者または協力研究者らによって、CO2フラックス観測を行なっている。しかし、日本の高山帯では上記の観測ができていない。そのため、関係機関との協力によって、必要に応じて短期的なCO2フラックスの測定も行う予定である。また、上記の標準化観測をより一般化した解析にも利用できるように、観測拠点における衛星データの収集・解析、及びモデリング研究も本研究の視野に置く。
 上記の調査は、基本的に毎年同じように行う予定である。ただし、平成25年度は各サイトの標準化観測に主な作業である。
 

今年度の研究概要

本年度は下記のことを行う。
(1)中国のチベットと海北サイトにおいて、これまでの観測機器の補修、標準化に必要な観測機器の設置完了、植生調査の継続を行う。
(2)モンゴルサイトにおいては、KBUサイトや他の新設サイトに必要な観測機器の設置完了、植生の調査を行う。
(3)日本高山帯において、標準化に必要な観測機器の設置、植生調査を行う。
(4)マレーシアの低地林において、標準化に必要な観測機器の設置完了、植生調査の継続を行う。

外部との連携

研究協力者:浅沼 順(筑波大学教授)、広田 充(筑波大学准教授)、川島 茂人(京都大学教授)、小杉 緑(京都大学講師)、高橋 耕一(信州大学准教授)、Cao Guangming(中国科学院西北高原生物研究所教授)、Zhang Huaigang(中国科学院西北高原生物研究所教授)、Zhao Xiangquan(中国科学院西北高原生物研究所教授)、Luo Tianxiang(チベット高原研究所教授)、Cui Xiaoyong(中国科学院研究生院教授)、 Wang Yanfen(中国科学院研究生院教授)、Fang Jingyun(北京大学教授)、Chen Jin(北京師範大学教授)、Saw Leng Kuan(マレーシア森林研究所)、Gu Song(南開大学教授)

備考

本研究は、生物多様性プロジェクトと温暖化プロジェクトと関連する。

課題代表者

唐 艶鴻

担当者