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ベイジアンアプローチに基づくインフラストラクチャーの経済評価(平成 22年度)
A Bayesian approach to the program evaluation of infrastructures

予算区分
CD 文科-科研費
研究課題コード
0910CD007
開始/終了年度
2009~2010年
キーワード(日本語)
経済統計学,ガス需要関数
キーワード(英語)
Econometrics, Gas demand function

研究概要

本研究の目的は,ベイジアンアプローチに基づいたインフラストラクチャーの経済評価方法を提案し,その実証研究を行うことです.インフラストラクチャーは,日本を始めとする先進国のみならず途上国の経済発展においても重要な位置を占めています.その経済評価を適切に行うためには,規制や建設計画,空間的相関等の様々な要因を考慮する必要がありますが,従来の研究ではこれらの要因を単純化もしくは考慮せずに分析を行ってきました.しかし,本研究ではベイジアンアプローチを用いることで,これらの要因を適切に考慮した経済評価を行えると考えています.

研究の性格

  • 主たるもの:基礎科学研究
  • 従たるもの:政策研究

全体計画

1. 逓減型ブロック料金制下の家庭用ガス需要関数の推定
ベースとする推定手法は,Miyawaki and Omori (2007) で提案されたものです.この論文では非線形制約を経済理論の双対性を用いて線形近似する推定手法が提案されていますが,本研究では非線形制約を近似しない厳密な経済モデル(Burtless and Hausman, 1978) をブロック数を限定することなく推定する手法を提案します.具体的には,非線形制約をより評価しやすい線形制約に置き換えます.その際,パラメータ空間を(十分広く) 限り,指数関数の単調性を利用することで,非線形制約を含む線形制約を導出することができます.線形制約に置き換えることができれば,棄却サンプリング法を用いて,ベイジアンアプローチによる推定を行うことができます.実証分析には,東京工業大学及び国立環境研究所の日引先生に集めて頂いた家計データのうち,ガスに関係する部分を用います.このデータは月次パネル(36ヵ月) であり,東京都と千葉県に住む家計の公共料金に関するデータ(消費量等) を含みます.また,得られた推定量を用い,ブロック料金制が変化した場合の需要予測を行います.ベイジアンアプローチを用いているため,予測需要は分布として得られ,より詳細な分析が行えます.

2. 幹線鉄道の経済評価
ベースとなるアプローチは,Chib (2007) で提案されたアプローチです.この論文で提案されているアプローチは,潜在的な結果(potential outcomes) 間の同時分布を必要としないため,従来のもの(例えばChib and Hamilton (2000)) よりもパラメータ節約的であることが特徴です.Chib (2007) のアプローチは一般的なものであるため,幹線鉄道の主な特色である2 点: (1) 一度に営業を始めるのではなく,順次営業を始める,(2) いくつかの区域をまたいで営業する,を考慮する必要があります.本研究では,それぞれsequential probit モデルと事前分布がconditionally autoregressive (CAR) モデルに従う変量効果としてモデル化します.Sequential probit モデルとは,離散選択モデルのひとつであり,ある選択が観察されるにはそれに先立つ選択が観察されていなければならないような状況を分析するための統計的モデルです.幹線鉄道の場合,どの区間から開業するかということは当該地域に鉄道を建設するかどうかの選択の後でなければ決定できません.このような状況の分析には,Sequential probit モデルが適切であると考えています.Sequential probit モデルのベイジアンアプローチによる推定方法は Albert and Chib (2001) によって提案されており,本研究では彼らの推定手法を応用します.また,区域をまたいで営業しているため,空間的な相関についても考慮する必要があります.空間的な相関に対するベイジアンアプローチについては,Banerjee, Carlin, and Gelfand (2004) にまとめられている通り様々な方法がありますが,CAR モデルを事前分布に用いた変量効果モデルを採用したいと考えています.このモデルの特徴としては,多変量への拡張(multivariate CAR)が容易であることです.実証分析では,九州新幹線が九州地方において市町村レベルでの人口動態,賃金構造等に及ぼす影響を分析します.そして,得られた推定結果を元に,部分開業の順序が異なっていた場合の経済効果を分析します.ベイジアンアプローチに基づくプログラム評価なので,効果の平均に加えて分布の情報も得ることができます.

今年度の研究概要

1. 逓減型ブロック料金制下の家庭用ガス需要関数の推定
まず,厳密な方法による手法の計算及びプログラムによる実装を行います.数値実験等によりプログラムの妥当性を検証した後,日本の家計データを用いた実証分析を行います.その際,家計データの整理及び各家計が直面するガス料金表の作成を合わせて行います.整理されたデータを元にして,実証分析を行います.また,仮想的に料金表が変化した場合の需要予測を行います.仮想的な料金表の候補はいくつか考えることができるため,文献のサーベイや学会等での意見交換を通じてその妥当性も吟味します.最終的には,意味のある仮想的な料金表に対する需要予測結果を示したいと考えています.

2. 幹線鉄道の経済評価
まず,Chib (2007) の方法をsequential probit モデル及びCAR モデルを用いて拡張します.その際,文献のサーベイや学会等での意見交換を通じ,より良い統計的モデルで代替できるかどうかも検討します.拡張されたモデルをプログラムに実装し,数値実験等によりその妥当性を検証します.続いて,実証分析を行うためのデータ収集を行います.収集するデータは主に九州地方の経済変数(市町村レベル) を考えています.一般的に利用可能でないデータを用いる可能性もあり,そのような場合はデータ購入も視野に入れて検討します.収集したデータを用いて実証分析を行います.また,九州新幹線の開業区間の順序が変わった場合の分析を行います.

関連する研究課題
  • 0 : その他の研究活動

課題代表者

宮脇 幸治