ユーザー別ナビ |
  • 一般の方
  • 研究関係者の方
  • 環境問題に関心のある方

重点3 環境リスク研究プログラム(平成 21年度)
Priority Programs 3 [Environmental Risk]

研究課題コード
0610SP003
開始/終了年度
2006~2010年
キーワード(日本語)
環境リスク,曝露評価,影響評価,生態リスク,健康リスク,化学物質,ナノ粒子,移入種,遺伝子組換え生物
キーワード(英語)
ENVIRONMENTAL RISK, EXPOSURE ASSESSMENT, HAZARD ASSESSMENT, ECOLOGICAL RISK, HEALTH RISK, CHEMICAL SUBSTANCES, NANO PARTICLES, INVASIVE SPECIES, GENETICALLY MODIFIED ORGANISMS

研究概要

[目的]
 人間活動がもたらす環境リスクはますます複雑化、多様化しており、人の健康や生態系に深刻な影響を未然に防止するため、新たな環境リスク管理施策が導入されている。これらの運用にあたって、高感受性集団への健康影響が発生したり、影響を受けやすい生物が切り捨てられたりすることのないようにリスク評価を行う必要がある。また、適切なリスク評価により過大な社会コストをかけることなく、効果的なリスク管理ができるものと期待される。環境リスク研究プログラムは、化学物質、ナノ粒子、侵入種、遺伝子組み替体などの様々な環境要因の曝露実態の解明や、それが健康と生態系にもたらす未解明の有害性影響の研究を通じて、これらの要因がもたらす環境リスクを評価するための包括的な手法を開発する。また、環境リスク評価に係わる情報を体系的に整備し、これを用いてリスク評価の実施やわかりやすいリスク情報の提供を通じて、環境リスクに基づいた環境リスク管理施策の円滑な運用とともに国民の安全と安心の確保に資することを目的とする。
[目標]
 環境リスクに基づいた環境施策におけるボトルネックの大きな要因は、有害性影響や曝露、リスクに関する情報の不足である。情報の不足には、情報そのものが存在しないという問題だけでなく、その情報を得るための科学的知見と、これらの情報に基づく評価手法が未成熟という問題がある。化学物質の環境からの曝露評価では、用途・使用形態に応じた評価の考え方、曝露の時間的、地域的特性についての評価を加味し、ハイリスク集団を見逃さない評価手法と体制の整備が求められており、製造・輸入、使用、リサイクル、廃棄に至るライフサイクル、非意図的な生成などそれぞれの過程からの排出の特性などを踏まえた段階的な曝露評価手法を構築する。健康影響においては、内分泌かく乱作用や生殖、神経系、免疫系への影響、低用量あるいは複合曝露による影響などについての有害影響と適応性に関する科学的知見を充実させるために感受性要因の解明を進めるとともに、ナノテクノロジーなど、社会や技術の発展にともなう新たなリスクを解明するための研究を行なう。様々な環境要因が与える生態系への悪影響に関する知見を充実させ、化学物質、生息地の改変、侵入種や遺伝子組換え生物などの影響を生物多様性の喪失、生態系機能の低下の観点から、野外調査、実験、モデル研究を通じて、保全の目標に沿ったリスク評価手法や試験法の開発を行なう。環境リスクに関する情報・知識をわかりやすい形で関係者が共有できるように情報を体系的に整備・提供するとともに、これを用いて環境リスク評価の実施等の実践的な課題に対応する。

全体計画

 化学物質排出移動量届出制度の導入、「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律」における生態影響評価制度の導入、土壌汚染対策法の成立等の関連法制度が整備されたが、市場に流通している化学物質について有害性や曝露、環境残留性に関する情報が不足しており、また、化学物質の特性に応じてライフサイクルの各段階で様々な対策手法を組み合わせてリスク管理を行う必要がある。さらに、PCB(ポリ塩化ビフェニル)をはじめとするPOPs(残留性有機汚染物質)等の未処理の「負の遺産」、社会問題化したアスベスト問題、ナノ粒子等の生体影響、外来種等の人為的な環境ストレスによる生態系機能低下等、さまざまな環境問題はまだ解決しているとは言い難い状況にある。環境リスクに関する関係者の理解を深め、環境影響の未然防止に貢献していくためには、これらの環境要因が人及び生態系に及ぼす未解明の悪影響を評価する手法を確立するための研究を進めることが必要である。
 そこで、第2期中期目標期間においては、化学物質について、階層的環境動態モデル及び各種環境計測技術によって得られたモニタリング情報を活用した曝露評価手法を構築する。また、増加しつつあるアレルギー疾患等の疾病と環境要因の関係を感受性の観点から解明することを目指して、内分泌かく乱作用や生理、神経系及び免疫系への影響、環境におけるナノ粒子等の粒子・繊維状物質の生体影響等に関する知見をより一層充実させる。さらに、生物多様性消失等の生態学的な視点に基づく影響評価手法を提示する。これらに向けて、以下の研究を中核プロジェクトとして4つの課題を実施する。
・化学物質曝露に関する複合的要因の総合解析による曝露評価
・感受性要因に注目した化学物質の健康影響評価
・環境中におけるナノ粒子等の体内動態と健康影響評価
・生物多様性と生態系機能の視点に基づく環境影響評価手法の開発
また、関連プロジェクトとして
・トキシコゲノミクスを利用した環境汚染物質の健康・生物影響評価法の開発に関する研究
・侵入生物・遺伝子組換え生物による遺伝的多様性影響評価に関する研究
を実施する。これらと併せて、環境政策における活用を視野に入れて、環境リスク評価手法の高度化に関する研究、並びに、環境リスク関連情報の蓄積及び提供を行うとともに、環境リスク評価の実施等の実践的な課題に対応するため、
1. 環境政策における活用を視野に入れた基盤的な調査研究の推進として
・化学物質リスク総合解析手法と基盤の開発
・化学物質環境調査による曝露評価の高度化に関する研究
・生態影響試験法の開発及び動向把握
・構造活性相関等による生態毒性予測手法の開発
・発がん性評価と予測のための手法の開発
・インフォマティックス手法を活用した化学物質の影響評価と類型化手法の開発
・化学物質の環境リスク評価のための基盤整備
の各課題を実施し、リスク評価手法の高度化・体系化をはかり、
2.環境リスクに関するデータベース等の作成として、
・化学物質データベースの構築と提供
・生態系評価・管理のための流域詳細情報の整備
・侵入生物データベースの管理
により基盤情報の整備・提供を行なう。

今年度の研究概要

4つの中核研究プロジェクトにおいて、最終的な研究成果の取りまとめに向けてさらなる重点課題へと研究を集中する。環境行政における活用の場面に着目し、環境リスク評価手法としての体系的な枠組みを提示することを目標に、相互の成果の効率的な連携の下、センター課題、知的基盤の整備、リスク評価の実施において並列的な取り組みをおこなう。得られた成果は、リスク評価にかかわる情報基盤、リスク評価ツール、解説情報として整備し、社会に向けた公開を積極的に進める。
? 中核研究研究プロジェクト
中核PJ1:化学物質曝露に関する複合的要因の総合解析による曝露評価
昨年度の外部評価を受けて、プロジェクトの課題を主に環境動態と曝露モデルに関連する検討課題の集中することとし、サブテーマ構成を、課題1:地域規模および地球規模GIS詳細動態モデルの構築と曝露評価、および課題2:農薬および一般化学物質などの環境排出量の推定手法の開発、と変更する。農薬のうちまず除草剤を主な対象として日〜週分解能の時空間変動を持つ排出推定とその結果を用いた全国濃度の時空間分布の推定を行い、また、全国および地域の観測データによる検証と改良を行う。水環境から水生生物への移行モデルの定式化を概成させる。POPs等の地球規模輸送を解析する大気・多媒体統合モデルの開発を進める。 
中核PJ2:感受性要因に注目した化学物質の健康影響評価
21年度より評価委員会の意見を参考に、内容の選抜と高度化により思い切った重点化をはかり、より目に見える到達点に変更する。課題1:化学物質曝露により免疫過敏を誘導するメカニズムの研究、課題2:発達段階における化学物質に対する感受性時期に関する研究、および、感染防御にかかわる自然免疫系に着目し、課題3:感染要因と化学物質との複合的要因の影響評価に関する研究に課題を絞り重点化する。
中核PJ3:環境中におけるナノ粒子等の体内動態と健康影響評価
H19年度までは急性実験を主体として吸入毒性学的実験を進めてきたが、H20年度からは、マウスを用いた環境ナノ粒子の慢性吸入曝露実験を開始しており、マウスの生涯に亘る(約2年)であるためH21年度も引き続き吸入曝露を継続する予定である。 これにより、自動車排ガス由来の環境ナノ粒子を慢性吸入曝露した動物において発ガン性も含めた影響が明らかとなる予定である。また、安全性の問題から進行が遅れていた、カーボンナノチューブの吸入曝露実験も、吸入性繊維状粒子の発生方法に成功し、ナノチューブの吸入実験を開始する予定である。鉱物性の繊維状粒子であるアスベストと、溶融アスベストの結晶構造と毒性に関しては引き続き検証実験を行う。ナノの環境問題は国際的にも同調して進めるべき重要課題であることが関連機関からも指摘されており、OECDテストガイドラインの作成等に引続き協力する。
中核PJ4:生物多様性と生態系機能の視点に基づく環境影響評価手法の開発
東京湾とため池群において、引き続き実施している野外フィールド調査や化学分析、室内実験データに基づき、具体的な生態影響評価の事例を提示する。侵入生物リスク評価については、非意図的随伴侵入生物を中心に、侵入ルートの解明および将来的な分布拡大予測を進める。さらに、野外フィールド調査や実験に基づいて得られた知見に対して、個体群や生物群集を対象に研究されてきた数理的な生態リスク評価手法を発展させ、生態系機能の視点に基づく具体的な生態影響評価の事例を提示する。
? センター課題(別表3課題)
1. 環境政策における活用を視野に入れた基盤的な調査研究の推進
(1)については最終的な取りまとめの準備に入るほか、(2)環境調査の手法としてバイオアッセイを適用するための検討を追加する。(7)に環境リスクに関するリスクコミュニケーションの手法に関して兵庫県東播磨地域のため池保全にかかわる人々の意識と行動の調査を事例研究として加え課題名を「環境リスク評価のための基盤整備」とする。新たな課題として(8)化学物質の定量的環境リスク評価と費用便益分析を開始し、社会・経済学的な視点を加えたリスク評価手法の検討を開始する。
(1)化学物質リスク総合解析手法と基盤の開発
これまで行ってきた化学物質環境調査等の測定データ、また、モデル解析結果や排出源情報などリスク解析において必要とされる情報蓄積とシステム構築、解析手法の検討をとりまとめ、GIS基盤の完成と表示システムとしての公開を目指す。
(2)化学物質の環境調査による曝露評価の高度化に関する研究
環境調査による曝露評価の高度化のため、、化学物質やその代謝物の機器分析法とバイオアッセイ手法の開発を進める。ヒトへの曝露評価への適用を視野に入れ、尿中のフタル酸エステル類や有機リン系農薬の代謝産物の測定法の開発を行う。酵母を用いた受容体結合活性などを用いて化学物質のスクリーニング並びに水質調査を実施し、環境調査による試料の特性や化学分析の結果との比較から曝露評価の高度化のために有効と期待できるバイオアッセイ法を提案する。また、大気質の発がん関連活性を指標とした各種バイオアッセイと化学物質測定結果の解析をもとに、新たな曝露指標となりうる化学物質の提案を目指す。
(3)生態影響試験法の開発及び動向把握
 化学物質の生態影響試験法について国際動向および国内政策に配慮しつつ開発・検討を行う。OECD-化学品プログラムの試験ガイドライン等の国際的に認知された試験法について国内での実施可能性の検討および政策判断場面での適用性について検討する。平成21年度は(1)生物微弱発光を利用した化学物質の藻類への影響試験および魚類胚毒性試験に関して既存試験結果との比較を行い、生態毒性試験としての適応可能性を検討する(2)土壌・底生生物の生態毒性試験法の開発を継続する、(3)試験法の体系化に向けた検討を行う。
(4)構造活性相関等による生態毒性予測手法の開発
魚類致死毒性及び甲殻類遊泳阻害の水-オクタノール分配係数以外の記述子を加えた重回帰予測モデルを引き続き検討するとともに、また、藻類に対するクラス分類のための部分構造について検討する。生態毒性予測システムKATEの開発を継続する。
(5)発がん性評価と予測のための手法の開発
発がん性と変異原性試験等の短期試験法の関係より、短期試験法を利用した発がんリスクの評価や予測の可能性を探る。Amesテストなどのin vitro試験に代わって体内(in vivo)変異原性試験により発がん性の予測や評価が可能であるかどうかについて、ベンゾ[a]ピレンやニトロピレン類などと類似の構造を有する発がん性多環芳香族化合物の短期試験による変異原性に関する文献調査と実験の両側面から検討する。信頼性の高いデータベースに収載された情報を基に、さらに多種類の化学物質について、遺伝子導入動物を用いた体内変異原性試験と発がん性試験結果にどのような相関性があるかの解析を進める。また、リスク評価への適用を意図して、25%あるいは10%の発がん性を示す投与量(TD25値、TD10値)と体内変異原性の相関性を明らかにしていく。
(6)インフォマティックス手法を活用した化学物質の影響評価と類型化手法の開発
化学物質の生体影響予測のため、ゲノム情報、化学物質の毒性情報、メカニズム分類、疾患情報の情報等に基づき、バイオインフォマティックス等の手法を活用して生体影響に関する化学物質の類型化を行うことを目的に、健康影響・毒性文献と遺伝子発現情報の収集システム(ChemToxGen)を整備し、公開する。毒性の作用メカニズムに基づいて化学物質を分類する手法の検討を継続し、毒性が既知の化学物質について、毒性影響の類型化を進め、昨年度公開した化学物質影響類型化システム(pCEC)に反映する。
(7)環境リスク評価のための基盤整備
 環境リスク評価の実施に向けて、化学物質の生態毒性及び及び曝露に関する知見の集積を進める。国内外のリスク評価等の動向を把握し、また化学物質管理に資するリスク評価手法の総合化のため、各種制度下での評価法の相違を踏まえた包括的な手法の検討を行う。環境リスクに関するリスクコミュニケーションの手法に関して兵庫県東播磨地域のため池保全にかかわる人々の意識と行動の調査を事例研究として進める。
(8)化学物質の定量的環境リスク評価と費用便益分析
 定量的な環境リスク評価を実施するために、化学物質の人健康影響、生態毒性、環境曝露等の既存データを統計的手法や数理モデルによって解析し、人健康や自 然生態系に対する化学物質の影響を推定する方法を開発する。環境リスクの定量的な指標として、生物個体群の絶滅リスク、生態系機能の低下率、発がん率など、影響の相対的な大きさをより正確に示す確率的な指標を採用し、試験生物で観測される毒性反応の大きさをこれらの指標に換算する計算法を考案する。生態リスクの実験的な検証系として、藻類-ミジンコ類-メダカから成るアクアリウムを作成し、曝露試験の方法を検討する。さらに、リスク削減に必要なコスト分析を行い、環境対策の合理的評価法の立案を試みる。

? 知的基盤の整備(別表5再掲課題)
(1)化学物質データベースの構築と提供
化学物質の環境リスクに関するコミュニケーションの推進に向けた基盤整備のため、環境リスクに着目した化学物質データベースの構築、リスク情報を平易に伝える方法の検討等を行う。新規データの更新、データ統合をさらに効率よく進めるため、業務の定形化に着手する。
(2)生態系評価・管理のための流域詳細情報の整備
これまでに整備したため池群の水生植物のデータベース、および空中写真から判別された池の植生とアオコを目的変数として、土地利用等これまで整備した流域情報を用いた予測モデルを構築し、それらを基にして、生物多様性や生態系機能が潜在的に高い地域を地図上に示すとともに、保護地区や開発予定地域などをオーバーレイさせることで、対象地域の自然環境についてのリスク評価を試みる。
(3)侵入生物データベース管理
侵入生物に関する最新情報の収集とアップデートの継続を図る。国立環境研究所における侵入生物研究の成果の一般向け解説ページを充実させ、普及啓発活動に寄与する。英語版ページを増設し、国外への情報発信力を強化する。国内外研究機関との情報ネットワークを強化して、情報の共有化を推進する。

? リスク評価の実施(中期計画の本文課題)
化学物質環境リスク評価オフィスでは、中期計画本文に示された「環境リスク評価の実施等の実践的な課題に対応する」を受け、環境省からの受託調査研究(請負業務)を実施する形で化学物質の環境リスク初期評価、水生生物保全環境基準の設定に向けた有害性評価等を進めてきており、21年度もその質の向上を図りつつ着実に進めていくことを予定している。

課題代表者

白石 寛明