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2024年3月29日

オイルパーム農園からのCH4・N2O放出量の統合的評価(平成29~令和元年度)

国立環境研究所研究プロジェクト報告 SR-141-2024

SR141表紙画像
SR-141-2024 [13.7MB]

 本報告書は、平成29年度~令和元年度の3年間で実施した、所内公募型研究提案(A)「オイルパーム農園からのCH4・N2O 放出量の統合的評価」(課題代表者:平田竜一)の研究成果をまとめたものです。

 熱帯アジアは世界的に見ても土地利用変化が特に著しく進行している地域です。中でもマレーシアやインドネシアで問題になっているのが、熱帯泥炭林からオイルパーム農園への転用です。オイルパーム農園への転用には、地球環境問題に重要な影響を及ぼすいくつかの特徴があります。まず、パーム油の生産を効率的に行うために、しば
しば広大な森林が皆伐されて農園に転換されます。これによって大気中二酸化炭素(CO2>)の吸収源である熱帯の森林が失われると同時に、生物多様性の損失も引き起こします。嫌気的環境で蓄積された地下の泥炭が好気的分解を受けるようになるため、大量のCO2を放出するようになります。オイルパームを植えた圃場では作物の成長を促進するために投入される窒素肥料から強力な温暖化ガスである亜酸化窒素(N2O)が発生すると考えられます。

 次に、オイルパーム農園の中には必ず搾油プラントが建設され、その廃液処理過程において温室効果ガスが排出されています。搾油プラントを農園内に建設する理由は、オイルパームの果実を収穫する際に、果実に含まれる酵素によって収穫直後から油脂が分解され劣化が進むことから、収穫後24時間以内に搾油しなければならないためです。多くの場合、プラントから排出される廃液の処理場(ため池)は野外にさらされた状態になっており、そこからメタン(CH4)などの温室効果ガスが大量に発生していると推測されていますがその量についての実測データは極めて限られています。

 そこで本研究では、マレーシアやインドネシアに広く分布する熱帯泥炭林に着目し、熱帯泥炭林の伐採とオイルパーム農園への転用、そして搾油処理等の施設全体を含む地域を連続的にとらえ、その物質循環システムの全容を把握することを目標としました。

本研究は、はじめにオイルパーム農園内の廃液処理施設から発生する温室効果ガスの実測による定量、次に圃場における温室効果ガスの放出量と窒素循環の定量的な評価、さらに観測されたデータに基づいたオイルパーム農園からの温室効果ガス発生量推定モデルの構築、最後に圃場と廃液処理施設を含めた農園全体の温室効果ガス放出量の統合的評価を含みます。


(国立環境研究所 地球環境研究センター 平田竜一)