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2022年3月31日

水資源量に基づく乾燥・半乾燥牧草地の利用可能量とその脆弱性の評価 平成30~令和2年度

国立環境研究所研究プロジェクト報告 SR-139-2021

SR139表紙画像
SR-139-2021 [9.6MB]

 乾燥・半乾燥牧草地は、気候変動と人間活動に敏感で脆(ぜい)弱であるため、その環境の維持と持続的な利用は、人々の生活を支える生態学的安全保障と見なされています。既存の研究では、気候変動に伴う永久凍土の融解や乾燥化などによって、土壌表層から植物への水分供給が減少し、植物の成長が遅れ、家畜の生育不良を引き起こし、凍害発生時には甚大な被害を生むことが明らかにされていました。しかし、ここ数十年で、経済的利益を追い求めるあまり、一部の地域における過放牧の規模拡大、都市や鉱山開発、農地開墾などの人為的な攪(かく)乱が益々深刻となっており、これらの人為的な攪乱が水資源や牧草地の利用可能量に及ぼす影響については解明されていませんでした。

 このような背景を踏まえ、モンゴルの代表的地域を選出し、気候変動に加え、都市拡大や鉱山開発など人為的攪(かく)乱が水資源および牧草地の利用可能量や脆弱性に及ぼす影響を評価しました。そこで、まず、インベントリ調査により産業別の水資源需要量を推定し、プロセス型の統合型水文生態系モデルNICE(National Integrated Catchment-based Eco-hydrology)を用いて水循環の改変に及ぼす影響を評価しました。最終的に、牧草地の環境容量および脆(ぜい)弱性の評価モデルを用いて、気候変動と人為的攪(かく)乱による影響を評価しました。
 その結果、放牧規模の拡大、特に都市化や鉱山開発に伴う水資源の需要量が大幅に増大していること、また、都市化や鉱山開発に伴う過度な地下水汲み上げが周辺域の水循環に大きな影響を及ぼしていることが分かりました。さらに、市場経済が導入されてから、特に2000年以降、都市と鉱山地域では放牧圧が牧草地の環境容量を大幅に上回っており、牧草地の脆(ぜい)弱性が一層高まっていることが明らかになりました。
 本研究成果は、乾燥・半乾燥地域の持続可能な開発目標(SDGs)に深く関連するものです。今後、研究成果をモンゴルおよび周辺国の研究者や政策決定者と共有しながら、家畜頭数の適正管理や、水資源と飼料供給システムの構築など様々な適応策の効果を評価していきたいと考えています。


(国立環境研究所 地域環境保全領域 主席研究員 王 勤学)