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ダラス滞在記

海外からのたより

持立 克身

 こちらでは,35℃を越す暑い日が続いていますが,皆さんお元気ですか。私は,昨年夏よりテキサス大学サウスウェスタンメディカルセンター内の細胞生物学部に籍を置いて,線維芽細胞の増殖機構に関する研究をしています。線維芽細胞をコラーゲン線維の上で培養し,線維の物理的性質を変えると細胞増殖能と核酸・タンパク質合成能がどのように変化するかを検討してきました。現在,細胞増殖能の変化に伴って,合成分泌されるタンパク質の種類の変化と,それらタンパク質遺伝子の発現調節について研究を進めています。この研究は,皮膚が傷を負うと線維芽細胞が増殖しコラーゲンを分泌して傷を治癒する機構を明らかにするものですが,大気汚染物質によって肺の線維芽細胞が増殖しコラーゲンを分泌して肺の線維化を起こす機構を理解するうえでも重要です。私が籍を置いている研究センターは,病院等の医療施設,医学部としての教育研究機関,及び生化学や細胞生化学等の基礎科学部門,更には民間からの寄金で賄われるハワード・ヒューズ医学研究所等からなる複合体で,米国西南部テキサス州の北部に位置するダラス市にあります。

 私が当初「テキサス」という言葉から連想したのは,カウボーイが牛を追っている風景や石油採掘の機械が大平原の中で働いている様子でした。しかしそれらは,北西部の大平原地域やガルフコーストの風景であって,ここにそれらはありません。そもそもダラス市の起こりは,交易所の設置によるもので,その後も商業都市として発展し,最近では電子・コンピューター産業や金融・保険業も加わり,人口100万(全米第8位)を擁するまでに成長したのが,現在のダラスです。しかし,ダウンタウンと呼ばれるビジネス街に出かけなければ(特に用事も無かったので,一度見物に行ったきり),日常生活でそれを感じることはまず無く,住宅地と公園とショッピングセンターがあるだけといった印象です。そして郊外に一歩出れば,そこには画家アンドリュー・ワイエスの描く農園風景が広がっています。しばらく住んでいると,現地の人々の生活態度や慣習にも少しは目が届くようになるもので,テキサス人は,おおらかな気質の持ち主の様です。通勤の際によく見かけるのは,多少のへこみは気にせず走っている自動車や故障のためか路上に(時には交差点にも)平然と放置された車,そしてそれを気に止める様子もない他のドライバーの姿といったところです。

 ここでは研究者の気質も,より開放的である様に感じられます。お互いの研究室が実験器械を自由に使い合おうとする態度,廊下の黒板を前に他人を気にせず行われる討論や実験の打ち合わせ,あるいは招待した著名な研究者と個人的に面談でき,各々の研究テーマに関して示唆を得る機会が,教員資格を持つ職員(Faculty)なら誰にでも与えられていること等など。またここでは,各種講演やセミナーが実に頻繁に開かれますが,一番印象的だったのはノーベル化学賞を受賞した Johann Deisenhofer 博士と Hartmut Michel 博士の講演が,受賞発表の一週間後には聴けたことです。

 私の米国滞在もあと僅かになりましたが,国公研でまたお会いできるのを楽しみにしています。

(もちたて かつみ,環境生理部環境生化学研究室)

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