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2020年10月30日

高齢化社会におけるごみ出し

特集 維持可能な循環型社会への転換方策の提案
【研究ノート】

多島 良

1.高齢化がごみ処理に与える影響

 高齢化が進むことで、ごみ処理にどのような影響が生じるでしょうか。まず、自治体が処理するごみの中身が変わると考えられます。大人用紙おむつの出荷額は年々増加していますし、調理済み食品を購入して自宅で食べる「中食」という食事スタイルに伴うプラスチック容器包装の増加も考えられます。二つ目に、ごみ収集への影響です。全国自治体のおよそ9割が、全部または部分的にごみ集積所を利用したごみ収集方式をとっていますが、高齢化が進んだ自治会や地域では住民によるごみ集積所の管理が難しくなりつつあります(詳しくは本号の「環境問題基礎知識」をご覧ください)。三つ目が、加齢によって自治体や地域のルール通りにごみを出すことが難しくなる、というごみ出しへの影響です。燃えるごみは、25L袋に目いっぱい詰めると4kg程度の重さになりますので、加齢に伴ってごみ出しが難しくなることも考えられます。このようなごみ出しの課題とともに、分別に対応することが難しくなるという問題も生じます。一般的に、高齢者ほど環境に配慮したごみ出し行動を行うべきという意識が強いことが知られています(現在の高齢者が暮らしてきた時代背景が影響している可能性が指摘されており、将来の高齢者も同様の意識を持つかは今後の研究課題です)が、実際には身体的な衰えによって適切な分別が難しくなることもあります。特に認知症を患うと、支援を受けずに適切に分別することは難しくなります。本稿では、現時点で最も顕在化しているごみ出しの課題について、その背景と解決策の現状、方向性を検討した研究成果を紹介します。

2.高齢者によるごみ出し問題の構造

 高齢になるとどのようにごみ出しに困るのでしょうか。先行研究がほとんどなく、高齢化がごみ出しに影響するメカニズムが複雑である(加齢、居住形態、同居形態など、様々な要因が複雑に関係する)と想定されることから、まずは地域に密着したヒアリングやアンケート調査を行い、個別具体的な理解を得ることにしました。そのうえで、高齢者のごみ出しを支援する仕組みを持つ自治体を対象としたアンケート調査を実施して状況を俯瞰し、さらに、特徴的な取り組みを行っている個別事例に焦点を当てたヒアリング調査を進めました。こうした一つ一つの調査を総合し、高齢者のごみ出しに係る問題の全体像を図1の通り整理しました。

高齢者のごみ出しをめぐる課題の図
図1 高齢者のごみ出しをめぐる課題

 まず、加齢によってごみ出しが難しくなることがあり、特に75歳以上の女性はそれよりも若い年代や男性に比べて困難に感じる人の割合が高いことが示唆されています。加齢による身体の変化に加え、図2に示したような地域や住まいの様々な環境要因が関係すると、ごみ出しが特に難しくなります。このようにしてごみ出しが難しくなっても、多世代が同居している家族では若い世代が代わりにごみを出しますので、問題になりません。しかし、75歳以上の単身世帯は2020年で全世帯の7.3%(約400万世帯)、2030年には9.4%、2040年には10%を占めると国立社会保障・人口問題研究所が推計しているように、ごみ出しが難しくても自身で対応せざるを得ない高齢者は少なくなく、今後も増えると予想されます。また、近隣住民が高齢者のごみ出しや買い物を手伝うなどの共助も、人口の多い都市部を中心に見られなくなってきています。このように、高齢者がごみ出しに困る状況は、自身の加齢に伴う変化に加え、かつて存在した自助や共助が機能しなくなるという社会変化が影響しているのです。

ごみ出しが困難になる状況の例の図
図2 ごみ出しが困難になる状況の例
自宅から集積所までの道のりが急な階段で、雪が降った後は特に危険が伴う(左)。
エレベーターがすべての階には止まらないマンションでは、毎日のごみ出しで階段を昇り降りする必要があり負担が大きい(右上)。
蓋つきのごみ集積ネットは飛散防止に役立つが、蓋を開ける動作が負担になる高齢者もいる(右下)。

 ごみ出しが困難であるにもかかわらず必要な支援が受けられないと、ごみ出しができず住環境が不衛生になったり、粗大ごみが処理やリサイクルされず溜め置かれてしまうことになります。また、遠方の親族やホームヘルパー(訪問介護員)等の生活支援者が地域のルールとは異なる日時にやむを得ずごみ出しをして、ごみの収集・運搬に支障をきたしたり、近隣住民とのトラブルに繋がったりする可能性があります。さらに、無理なごみ出しを続ける中で転倒してけがを負い、そのことをきっかけに自立歩行が難しくなって要介護状態になることもあり得ます。

 こうした課題に対応するために、行政はどのような仕組みを導入しているのでしょうか。日常生活に不自由が生じた高齢者を支える介護保険制度で、ホームヘルパーによる生活援助の一環で買い物、入浴、食事と一緒にごみ出しの手伝いも依頼できます。実際、分別が難しくなった高齢者については、ホームヘルパーが代わりに分別をします。しかし、多くの自治体では、収集日当日の決められた時間帯(多くの場合は早朝)にごみを出すことになっており、その時間に合わせてホームヘルパーにごみを出してもらうことは難しいです。このため、廃棄物担当の方でごみ出しを支援する別の仕組みをつくる自治体が増えています。

3.ごみ出し支援の実態

 ごみ出しが難しくなった高齢者のごみ出しを支援する仕組みを「ごみ出し支援」と呼びます。自治体によっては、「ふれあい収集」「さわやか収集」などの愛称が使用されています。私たちは2015年9月に全国自治体を対象としたアンケート調査を行い、その後も2年ほどの事例調査を積み重ねたうえで、ごみ出し支援の実態と効果を整理してきました。

 ごみ出し支援は、高齢者宅からごみを預かり、運ぶのですが、誰がどこまで運ぶのかにより、様々な仕組みがあります。例えば、自治体のごみ収集員が高齢者宅だけ戸別に収集してごみ処理施設まで運ぶ場合もあれば、地域の有志が高齢者宅から最寄りの集積所までのごみ出しを代わりに行うという場合もあります(図3)。また、ごみ出し支援は、収集員が定期的に高齢者宅を訪問するため、高齢者の異変やトラブルに気づくことができます。実際、収集時に声掛けを行っている自治体のうち、約4割が高齢者の不調やトラブルを発見したことがあると答えており、中には転落した方を救助した例や、認知症の兆候を発見した例もあります。

ごみ出し支援の仕組みの図
図3 ごみ出し支援の仕組み

 全国の仕組みを類型化すると、「直接支援型」と「コミュニティ支援型」に大別できることが分かりました。直接支援型では、制度の運営も利用世帯からのごみ収集作業も、自治体が行います。収集作業は、自治体職員が実施する場合と、民間事業者等に委託する場合、両者を組み合わせる場合があります。自治体職員が行う場合は利用者の安心感につながること、民間事業者が行う場合は、ごみ収集という仕事に対する事業者自身の誇りの醸成につながることが特徴的です。コミュニティ支援型は、自治会やNPO等の住民団体によるごみ出し支援活動を自治体が補助金等で金銭的にバックアップする仕組みです。支援の仕組みを住民同士で自ら考え、実施に向けて調整を行い、得られる補助金を地域活動に還元することで、地域のつながりの維持・醸成に寄与することが期待されます。例えば、千葉市のある団地では、平均年齢80歳の自治会ボランティアの方々が平均年齢88歳の高齢者を支援しており、活動から得られた補助金をサークル活動など費用に充てています。また、地域の中学生ボランティアが通学途中に高齢者宅をまわり、ごみ集積所まで代わりに運ぶ仕組みを、市が費用や情報の面でバックアップしている地域もあります。支援される高齢者にとっては生活のハリ、支援する中学生にとっては感謝されることの喜びが得られ、地域全体にとっても子供とのつながりを保つことにつながっています。

 私たちの調査時点(2015年9月)では、約21%の自治体がごみ出し支援の仕組みを導入しているという結果であり、2019年1月に環境省が行った同様の調査では約23%と大きくは増えていませんでした。但し、コミュニティ支援型の割合に着目して両調査を比較すると、全ごみ出し支援に占める割合が3%から10%へと大きく増加しており、特にコミュニティ支援型が注目を浴びていることが分かります。自治体財政がひっ迫する中で、福祉や地域活性化の観点を含めた多くの相乗効果が得られる対策が好まれているのかもしれません。

4.おわりに

 ごみ出し支援については、地域ごとに創意工夫を凝らした仕組みが導入されつつあり、国としてもモデル事業を実施したり財政措置を講じたりするなど、取り組みの拡大を後押しする施策がとられています。研究としては実態の把握と整理という一つの役割を終え、仕組みの継続方法や長期的な効果を把握するなど、次の段階に進みつつあります。高齢化によってごみ処理に生じうる他の課題についても着実にデータを集め、実態と展望を示し、相乗効果を得られる対策を提案していきたいと思っています。

(たじま りょう、資源循環・廃棄物研究センター 循環型社会システム研究室 主任研究員)

執筆者プロフィール:

筆者の多島 良の写真

子供を介した地域の「おやじつながり」ができつつあります。年齢の幅が20歳くらいあり、職業もバラバラですが、それだけに話題が尽きず発見も多いです。高齢化社会で生き抜くうえでのとても貴重な財産でもあります。

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