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2018年6月29日

環境創生研究キーワード

特集 福島で進めている社会協働型研究
【環境問題基礎知識】

大場 真、平野勇二郎、戸川卓哉、中村省吾、辻 岳史

 環境創生研究では、地域の様々な課題に対応するためのまちづくり支援研究を進めていますが、それらの中でエネルギー分野での新たな技術やしくみとして重要なキーワードがありますので以下紹介させていただきます。

「環境創生」

 東日本大震災からの被災地復興は、日本全体にも共通である地域の持続可能性という問題も含んでいると当研究室では捉えています。政府は2014年以降、地方の人口減少を背景として、人口構造・産業構造の観点から持続可能な地域社会をつくることを目指す「地方創生」を進めています。また、環境面では、福島第一原発事故の発生後、低炭素・資源循環・自然共生の実現を目標に加え、低炭素・資源循環型であるようなエネルギー、特に再生可能エネルギーの普及を進めています(環境省「中央環境審議会意見具申」[2014年7月4日])。

 1990年代後半以降、大気汚染公害の被害地域において、被害の除去や修復といった環境の回復だけではなく、まちづくりの取り組みのなかで「地域創生」を同時に進め、地域社会の豊かさを追求する試みがなされてきました1。当研究室では「環境創生」という概念を、被災地域に限らず地域社会の持続性を環境に配慮しながら進めるまちづくり支援研究として考えています。

「地域エネルギー会社」

 地域エネルギー会社とは、地域が主体となり、再生可能エネルギーなど地域の資源を用いて、地域のエネルギー供給事業を担う組織です。これまで、エネルギー供給事業は特定企業により担われてきました。震災直後における再生可能エネルギーの導入は、地域とは関係が希薄な事業が進められたため生態系や景観に様々な問題を引き起こし、地域の経済循環への寄与が少ないケースも散見されました。このような状況を受け、地域による地域のためのエネルギーの重要性が認識され、日本においても地域エネルギー会社の設立が進められています。外国の例ですが、ドイツでは「シュタットベルケ」と呼ばれるエネルギーを中心とした地域公共サービスを担う公的な会社が多くの自治体に存在し、その売上合計のシェアは民間大手エネルギー会社を上回っています。

「コジェネレーションシステム」

 コジェネレーションシステムとは、発電と同時に熱も取り出す装置の総称でCHP(Combined Heat and Power)とも呼ばれます。発電のみの場合、最新の技術を用いたとしても40%のエネルギーは熱として捨てています。コジェネレーションシステムは熱を有効利用することにより総合的なエネルギー効率を高めることができ、再生可能エネルギー開発と同様に化石燃料やCO2排出量を削減する技術と目されています。近年では木質バイオマス(チップ・ペレット)を用いたシステムや地域コミュニティーでも利用可能な小型の装置の開発が進んでいます。しかし、熱エネルギーの活用には熱導管などの追加的な設備が必要となるため、採算性の観点からコジェネレーションシステムを導入できる場所は限定的であるという問題もあります。

「バイオマス」

 バイオマスとは、もともとは生物学で使われていた用語で、「バイオ(生物)」+「マス(物質)」であり動植物の体そのものを意味しますが、再生可能エネルギーの利活用という文脈では、燃料製造、熱、発電に利用可能なバイオマスを指していることが多いようです。バイオマス利用することを目的として動植物を生産・採取する場合と、何らかの生産・採取の副産物として生成される場合があります。植物の場合ですと前者は例えば薪、後者は建築廃材などです。動物の場合は後者として家畜のし尿が使われることが多いです(発酵により可燃性ガスのメタンを取り出す)。バイオマスの種類は多岐にわたり、形態により分類すると固体や液体、原料により分類すると植物系や動物系や廃棄物系などになります。

 バイオマスを利用することの利点は、適切に管理・利用すれば資源枯渇がないということが挙げられます。関連して植物由来のバイオマスは温室効果ガスを実質的に放出しない利点もあり、これはカーボンニュートラルと呼ばれます。植物由来のバイオマスの利用は、光合成により大気中のCO2を吸収し体内に蓄積した物質を燃焼することになるので、実質的な大気へのCO2の放出はありません。加えて原料や製品として使われていないもの、例えば切り捨てられていた木材や製材時の端材、おがくずなどを利用することは、廃棄物を減らしかつ資源が社会の中で効率的に循環することに貢献できます。さらに中山間地に存在するバイオマスを積極的に利用することは、地域社会経済の活性化にもつながります。

 しかしこれらの利点は適切な利用が行われた場合であり、バイオマスの乱獲があれば資源が枯渇し周辺環境への悪影響が生じます。またエネルギー向けのバイオマス生産があまりに優先され、食料の生産を圧迫する場合もありました。

「ホームエネルギーマネジメントシステム」(HEMS)

 家庭におけるエネルギーを利用する機器を一元管理するシステムのことです。例えばエアコンや照明、給湯など、家の中の様々な電力消費機器をネットワークでつないで、電力消費を管理します。この装置によって消費量を利用者に分かりやすく見える化したり、データを分析し、利用者に各種のアドバイスを行うことにより、利用者の省エネ行動をサポートします。また、屋根に太陽光発電パネルを設置している家では、HEMSにより発電量を見える化し、余剰電力を上手に売電することにも役立てられています。近年はモノのインターネット(IoT:Internet of Things)の技術の進展に伴い、家電製品の自動制御や遠隔操作ができるシステムも開発されています。また、現在は電力の小売自由化が始まり、スマートメータの普及や電力料金の細分化といった動向の中で、今後ますますHEMSが利活用されていくことが期待されます。

「くらしアシストシステム」

 くらしアシストシステムは、2014年に福島県新地町と国立環境研究所が共同開発したタブレット専用アプリに端を発します。地域の様々な情報を可視化して復興まちづくりに役立てることを目的としていました。当初は新地町の約70のモニター世帯のご協力の下、実証試験が行われました。地域エネルギーアシスト機能は、家庭の分電盤に設置した電力計測機器と通信することで電力の見える化を実現し、家庭における省エネの取り組みを推進する機能です。生活アシスト機能には、地域の様々な情報を地図に入力して共有する地域情報マップや、自治体ホームページ情報を自動で取得する機能などがあります。2018年よりスマートフォンやパソコンでも利用できる拡張を行い、県内外のより多くのユーザーに利用可能なシステムとして研究を続ける予定です。

(福島支部 地域環境創生研究室)

参考文献
1.(寺西俊一「環境再生と地域再生」『環境経済・政策学の基礎知識』有斐閣:pp.396-397 [2006])

執筆者プロフィール

筆者の写真

筆者らの所属する地域環境創生研究室は福島支部と共に2016年に設立されました。研究職員の専門分野は、都市における環境科学やモデリングなどの工学だけでなく、生態学、農村工学、社会学など多彩なメンバーで構成されています。福島支部の公式イベント回数を上回る、ほぼ毎月イベントを行う(目標)研究室も目指しています。写真は三春町内でのランチ会時のものです。

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