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2015年12月28日

フォーカス・グループ・インタビュー調査から見える生活者像

特集 社会の持続可能性と個人の幸福
【研究ノート】

吉田 綾

 少子高齢化、グローバル化などの社会経済状況の変化や、社会の価値観・規範の変化により、私たちのライフスタイルはここ20~30年で大きく変化してきました。しかし、一言にライフスタイルの変化と言っても、なかなか実感として感じられない人も多いかもしれません。

 私は1990年代半ばから中国を訪問する機会がありましたが、当時から「日本の女性は専業主婦で働かないのでしょう。いいわね。」とよく言われたものです。最近でもまだたまに言われることがありますが、統計では、平成9年(1997年)以降、共働き世帯が夫だけが働く片働き世帯の数を上回っています(図1)。これまで、日本では女性は結婚や出産をきっかけに仕事を辞めることが「あたりまえ」でしたが、現在では結婚・出産後も働き続けることを望む女性が増え、男性も家事・育児へ積極的に関わる人も増えています。こうした人々の意識の変化のみならず、長引く不況やグローバル化による競争の激化などを背景に、生活の安定のために働く女性が増えたことも大きな要因と考えられます。

図1
図1 共働き等世帯の推移
出典:内閣府・男女共同参画白書平成24 年版
※「雇用者の共働き世帯」は、夫婦共に非農林業雇用者の世帯。「男性雇用者と無業の妻からなる世帯」は、夫が非農林業雇用者で、妻が非就業者(非労働力人口及び完全失業者)の世帯を指す。

 核家族化が進み、共働きが少数派から主流派になる中で、夫婦関係や家族のあり方も変わってきていると考えられます。そのような中、現在の生活者は自分自身の暮らしをどのように捉え、将来(10~15年後)の生活や2030年の日本の社会はどうなると感じているのでしょうか。私たちはフォーカス・グループ・インタビューという手法を用いて、首都圏に在住する若年(20〜39歳)と中年(40~59歳)の男女(4グループ、各グループ6名、計24名)を対象に、インタビュー調査を行いました。フォーカス・グループ・インタビューは、司会者と少人数の対象者で行われる座談会形式の定性調査法で、対象者の意識や行動の理由を背景も含めて深く知ることに有用な手法です。以下では、その結果の一部をご紹介します。

現在の生活者の価値観と意識

 20 代・30 代の若い世代では、結婚しているか、子どもがいるかどうかにより、ライフスタイルが大きく異なります。これは家事・育児の時間が大幅に増えるためです。現在、この年代では非正規雇用が大きな問題となっています。非正規雇用の人は、雇用が不安定で、賃金が低く、セーフティネットが不十分なため、未婚率も高く、正規雇用の人とは異なる価値観や意識を持っていることが考えられます。私たちは、若年世代を正規雇用グループと非正規雇用グループに分けてインタビューを行いましたが、現在の暮らし向きや将来の暮らしの展望に大きな違いが見られました。非正規雇用の人は「お金がないので物は買わない」「頑張っても報われない世の中」「頑張っても現状は変わらないかもしれないが、頑張らないとならない」と現状の生活に不満を感じながらも、自分たちで何とかするしかないと考えています。一方、正規雇用グループは長時間勤務の人も見受けられましたが、「海外勤務したい」「管理職になりたい」「物は買わないけど趣味には投資する」といったように、非正規雇用の人に比べて明るく生活に余裕 が感じられました。10~15 年後の暮らしについて、ある20 代フリーターの女性は、将来は地元・九州で正社員として働きたいという将来展望を持っていました。20 代正規雇用の男性は、将来はマイホームを建てたい、奥さんには専業主婦でいてほしいなど、「自分の親の世代」の生活を人生の目標として語るなど価値観が全般的に保守的でした。一方、「自分の稼ぎが足りれば…」のように、経済的な余裕がないと専業主婦になってもらうのは現実的に厳しいことは理解している一面も見られました。

 中年の40 代・50 代ではどうでしょうか。普段の暮らしでは、子どもや仕事の問題に加えて、親の介護や自分の健康問題もクローズアップしてくる年代です。私たちの調査では、中年世代を男性グループと女性グループに分けてインタビューを行いましたが、男性と女性で物事の受け止め方や態度に大きな違いが見られました。例えば、女性は、自分の老後について、「子どもに迷惑を掛けたくないので、見ず知らずの人に世話をしてもらいたい」「(自分の)姉妹と暮らす」「介護ホームみたいなところに居る」と具体的に考えているのに対し、中年男性の多くは「自分の方が(妻より)先に死ぬ」「ポックリ逝く」と考えていました。その他の質問でも女性は発言が現実的であるのに対し、男性はどこか他人事のような発言が目立ちました。

 10~15 年後の生活については、子どもが巣立った後、中年男性が夫婦二人で「起きて半畳、寝て一畳、飯を食っても二合半」のシンプルな暮らしをすることを望んでいるのに対し、中年女性は自分のプライベートな時間を充実させる暮らしをイメージしており、夫婦で何かをするというような「夫」の存在を意識した発言は見られませんでした。

2030 年は共働きしやすい社会になっているか?

 2030年の日本はどのような社会になっているかについて、私たちは、いくつかの起こりえるライフスタイルの変化やシナリオを作成しました。その中の一つに「イクメンが当然となり、子育てを夫婦二人の負担にとどめずさらに地域社会・コミュニティがあらゆる面で子育てを分担する社会」がありましたが、これに対する生活者の反応は私たちの想定とは異なっていました。イクメンがあたり前になることに共感を覚える一方、「地域社会が子育てを分担する」というところには多くの人が疑問であると反応しました。核家族の進展により、従来は家庭が担っていた子育て機能を広い社会が分担する必要性が高まっていますが、現在、その受け皿となる保育所が足りず、「待機児童」が問題となっています。参加者の多くは、2030 年になっても「待機児童」は改善していないのではないか、今現在、自分自身が地域社会とつながっていないので想像できないと感じていました。今回の調査対象者は、近所の人とのコミュニケーションが少ない都市部に居住している人々だったため、このような反応が得られた可能性がありますが、それでも、人と社会とのつながりが、個人のライフスタイルに大きく影響を及ぼすことが分かります。

表1 一般生活者のライフスタイルの変化への反応(抜粋)

表1

 性別・世代別でも大きな特徴が見られました(表1)。共働きしやすい社会について、年齢が若い世代と中年女性は「そうなってほしい」と賛同していたのに対して、中年男性のみは「働かざるを得ない 家庭が大半を占める社会(二極化が進んだ社会)」「家族関係が希薄な社会」と否定的に捉えていました。中年男性は、世の中の変化は認めつつも、従来の「男性は仕事、女は家庭」という性別役割分業などの伝統的価値観の崩壊が、まだ現実として受け入れられ ないのかもしれません。

2030 年の日本社会はどうなっているか?

 15 年後の日本社会のイメージについて、一般生活者の多くは、「産業の空洞化が一層進む」「経済的活力が衰えて国際的地位が低下する」「外国人労働者が増える」「2020 年の東京オリンピックで景気は一旦良くなるが再び不景気になる」など、今後の暮らしは悪くなっていく、生活水準は下がっていくと答えました。少子高齢化や財政問題など現在の日本社会を取り巻く状況は明るくないことや、格差拡大や子育て・介護問題など現在の生活者を取り巻く現状も厳しいことが、将来に大きな不安を持つ要因となっていると考えられます。

 日本では共働き世帯の数は増えましたが、働く女性の6 割はパート・アルバイト等の非正規労働者が占めており、女性の社会進出はまだ限定的です。少子高齢化や人口減少に伴う労働力不足などの課題を解決して、社会を維持するためには、女性が社会に出て働き、働きながら子どもを産み育てることの重要性はますます高まっていくと考えられます。今後は柔軟な働き方など仕事と生活が両立しやすい環境の整備や新しい製品・サービスの提供が進むことが予想されますが、その反面で、私たちの暮らしがより環境負荷の高いライフスタイルに変わる可能性もあります。(例えば、家族全員がバラバラに食事を取ることが増えて、コンビニ等で調理済みのものを調達することが増えるなど)

 「環境にやさしいライフスタイル」が世の中に定着するかどうかは、変化する社会の流れやそのなかでの生活者の求めることを汲み取り、そのニーズを満たしていることが求められます。今後も生活者の声に耳を傾けて、持続可能なライフスタイル・消費に転換するためにはどうすれば良いか、社会の持続可能性と個人の幸福を実現するための条件や具体的な課題についても考えていきたいと思います。

(よしだ あや、資源循環・廃棄物研究センター 国際資源循環研究室 主任研究員)

執筆者プロフィール

著者写真:吉田 綾

小学生の頃(約15 年前)、9 月に入っても夏休みの宿題に追われていました。締め切りを過ぎたこの原稿を書きながら、そんな昔の記憶がよみがえりました…。15 年後(2030 年)の持続可能な自分の生活をイメージして、少しでもそれに近づきたいと思います。

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