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温室効果ガス排出削減目標

【巻頭言】

笹野 泰弘

 本稿が読者の皆様の目に触れるころには,コペンハーゲンで開催されたCOP15(国連気候変動枠組み条約第15回締約国会議)は閉幕したあとになりますが,はたして京都議定書第一約束期間(2008~2012年)後の温暖化対策にかかる国際的な取り組みの方向性が見えはじめているでしょうか。

 この1~2年,地球温暖化防止に向けた議論が国内外で非常に活発に展開されました。その背景には,気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が2007年に公表した,第4次評価報告書の存在があります。IPCCは同報告書において「温室効果ガスの排出が現在以上の速度で増加し続けた場合,21世紀にはさらなる温暖化がもたらされる」ことを示し,さらに,「過去の排出は,仮に大気中の温室効果ガス濃度が2000年レベルに留まったとしても,いくらかの不可避的な温暖化をもたらす」と述べています。このことから,温室効果ガスの大気中への蓄積を抑え,将来の地球温暖化の影響を許容できる範囲で抑えるための「緩和策」と,避けることの出来ない影響に適切に対応するための「適応策」の両方を同時に推進していく必要があるということが多くの人のコンセンサスとなっています。ここでは,温室効果ガス排出削減に関わる最近の動きを概観します。

 国際的には,2008年7月の洞爺湖サミットに引き続き,地球温暖化問題が主要な議題のひとつであった2009年7月のG8ラクイラサミットにおいて,世界全体の温室効果ガス排出量を2050年までに少なくとも50%削減するとの目標を再確認するとともに,この一部として,先進国全体として,50年までに80%またはそれ以上削減するとの目標が支持されました。この間,2009年の1月には米国に,温暖化対策について積極的とされるオバマ新政権が発足しています。

 一方,我が国においては2008年7月に「低炭素社会づくり行動計画」が閣議決定され,2050年までに世界全体における温室効果ガス排出量の大幅な削減を実現するため,日本の2050年までの長期目標として,現状から60~80%の削減を行うことが決定されました。また,世界全体の排出量を今後10年から20年程度の間にピークアウト(注:頂点に達した後,減少の方向にもっていくこと)させること,京都議定書後の次期枠組みについて国際社会の合意形成を目指すことなども同時に決定されています。さらに,2009年6月には,地球温暖化問題に関する懇談会の下に設置された中期目標検討委員会での検討結果を踏まえ,「2020年に温室効果ガスを2005年比で15%(1990年比で8%)削減する(ただし,海外クレジット(注:排出量の購入など)等を含まない)」という我が国の中期目標が,麻生前総理から示されました。ちなみに,上記の中期目標検討委員会での議論に必要な検討材料とするため,当研究所で推進している地球温暖化研究プログラムを担当している研究者たちが,これまでに開発を進めてきた各種のモデルツールを駆使して科学的な知見を提供し,目標選択枝の策定において大いに貢献したことを紹介しておきます。

 さらに,2009年9月に民主党を中心として発足した鳩山新政権は,2020年までに1990年比で25%削減という,さらに踏み込んだ野心的な中期目標を発表しています。これにより,温暖化対策に関する国際的な議論をリードできる立ち位置への足がかりを得たといえるでしょう。また,国内的にも対策技術や社会システムの革新を通して,国民の意識改革をも迫るものになると予感されます。25%削減目標に向けて組織されたタスクフォースでは,当研究所で試算した新たな結果も含めた中間取りまとめを2009年11月に公表しましたが,様々な革新的な施策を盛り込んだ本格的な分析はこれからとなります。

 強力な温暖化対策を進めるにあたっては,循環型社会に向けた取り組みや少子高齢化社会への対応など,さらに広い視点で将来のあるべき社会像を描きだし,そのビジョンのもとに調和の取れた施策へと具現化していくことが必須です。私どもが研究を進めるに当たっても,こうした社会とのつながりを強く意識した,総合的な問題設定が重要であると考えています。

(ささの やすひろ,地球環境研究センター長)

執筆者プロフィール

笹野泰弘氏

 写真サークルで10年余り,風景や自然の写真を撮っています。まわりの多くが,デジタル一眼カメラに乗り換えていく中で,いまだに買い換えられないでいます。コンパクトデジタルカメラの経験から言うと,デジタルではむやみにシャッターを切ってしまいがちなことに抵抗感があります。