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科学技術基本計画と分野別推進戦略

野尻 幸宏

  総合科学技術会議は,2001年1月に「内閣府設置法」に基づいて設置された「重要政策に関する会議」のひとつであり,我が国全体の科学技術を俯瞰し,総合的・基本的な科学技術政策の企画立案及び総合調整を行うものである。設置法によると,

1.科学技術の総合的かつ計画的な進行を図るための基本的な政策について調査審議

2.科学技術に関する予算,人材その他科学技術の振興に必要な資源の配分の方針その他科学技術の振興に関する重要事項について調査審議

3.大規模な研究開発その他の国家的に重要な研究開発について評価

4.科学技術の基本的な政策・重要事項に関し,総理大臣・関係各大臣に意見を述べる

 ことが所掌事務であり,その筆頭任務が科学技術基本計画策定である。第2期(2001~2005年度)を受けて2006~2010年度の第3期計画期間における,我が国の科学技術に関する政策の基本事項や資源配分方針を定めることになり,作業が2004年12月以来進められて本年3月に取りまとめられた。

 第2期科学技術基本計画においては,a.新しい知の創造,b.知による活力の創出,c.知による豊かな社会の創生,という3つの基本理念のもと,基礎研究の推進と政策課題対応型の重点4分野への重点投資が大方針として掲げられた。実際5年間の計画期間において,ライフサイエンス,情報通信,環境,ナノテクノロジー・材料という重点4分野への科学技術関係予算配分比は,2001年度の37.9%から2005年度の45.5%へと大きく伸び,予算的な重点化は達成された。ただし,科学技術関係予算総額は,国の財政状況の悪化を反映して第2期期間中は微増にとどまり,2004年度にピークに達し2005年度は微減となった。累計額は計画で掲げた24兆円に達しなかったものの,他の政策経費に比較すると高い伸びを確保した。一方で,第2期計画で倍増目標を掲げた競争的研究資金の総額は大きく伸び,倍増にはいたらないまでも,当初の3000億円の約1.5倍となった。

 第3期科学技術基本計画は,国の財政が厳しい状況の中ではあるが,科学技術を国の礎として有効な投資にするべく,世界的な科学技術競争の激化,少子高齢化,安全と安心の問題,地球的課題などに対応する科学技術の役割に対する国民の強い期待を踏まえ,その基本姿勢が決められた。

(1)社会・国民に支持され,成果を還元する科学技術

(2)人材育成と競争的環境の重視 ~ モノから人へ,機関における個人の重視

 特にこの(2)については,いろいろな論議を呼んだが,その真意は競争力の根源である「人」に着目して投資する考え方であり,先にインフラ整備ありきの考え方ではなく,優れた人材を育て活躍させることに着目して投資する考え方である。ここでは,若手研究者,女性研究者,外国人研究者など多様な人材の登用,個々人が意欲と能力を発揮できるよう根本的な対応,それを実現する競争的環境の適切な導入などを意図している。基本理念には第2期の理念をよりわかりやすく表現した3つの理念を掲げた。

理念1 人類の英知を生む
~知の創造と活用により世界に貢献できる国の実現に向けて~

理念2 国力の源泉を創る
~国際競争力があり持続的発展ができる国の実現に向けて~

理念3 健康と安全を守る
~安心・安全で質の高い生活のできる国の実現に向けて~

 これらの理念のもとに,科学技術が目指す6つの大政策目標,12の中政策目標がまとめられたが,環境・エネルギーに関わる政策目標は以下の通りである。

大政策目標3 環境と経済の両立-環境と経済を両立し持続可能な発展を実現

中政策目標4 地球温暖化・エネルギー問題の克服

中政策目標5 環境と調和する循環型社会の実現

 基本計画の考え方を受け,分野別推進戦略の策定作業は,昨年12月から本格的に進められた。環境分野では,第2期計画期間中に5つの重要課題に研究イニシャティブという仕組みをおき,関係各省・機関の研究課題の整理,情報交換,研究の方向性の議論などを府省横断的に進めてきた。この仕組みを利用し,約1年前から分野別推進戦略のあり方について各イニシャティブにおけるボトムアップ的議論として行った。

 分野別推進戦略では,上記の政策目標の実現を目指す個別政策目標を掲げることとし,それをできるだけ分かりやすい表現で示した。これらは,分野別戦略の議論を進める中で,多少の修正を経て決定したものであるが,環境分野に関わる主なものは以下の通りである。

・世界で地球観測に取組み,正確な気候変動予測及び影響評価を実現する。
・健全な水循環と持続可能な水利用を実現する。
・持続可能な生態系の保全と利用を実現する。
・環境と経済の好循環に貢献する化学物質のリスク・安全管理を実現する。
・3R(発生抑制・再利用・リサイクル)や希少資源代替技術により資源の有効利用や廃棄物の削減を実現する。
・我が国発のバイオマス利活用技術により生物資源の有効利用を実現する。
 これらの個別政策目標に対応して,第2期のイニシャティブ体制を再編して次の6つの研究領域を設定した。
・気候変動研究領域
・水・物質循環と流域圏研究領域
・生態系管理研究領域
・化学物質リスク・安全管理研究領域
・3R技術研究領域
・バイオマス利活用研究領域

 第3期基本計画においては各分野の分野別推進戦略で「重要な研究開発課題」を示し,そのうち特に計画期間中に資源配分の重点化を図るべき課題について「戦略重点科学技術」として示すこととされた。これを受けて環境分野では,各領域の詳細な議論を経て,57の重要な研究開発課題を選定した。汚染物質の広がりや自然環境の荒廃など現在の問題を解決することにとどまらず,将来にわたって地球及び地域の環境を保全し持続可能な社会を実現することが,安全・安心な社会の構築における重要な観点であると考え,その選定において考慮した。

 また,社会・国民への成果の還元,国際協調の中でのリーダーシップの確立と国際貢献,人文社会科学との融合を目指して,重要な研究開発課題の中から今後5年間に重点投資が必要な課題を精選することとし,14の戦略重点科学技術を選んだ。これらは,4つの戦略概念のもと,より平易な表現でまとめられ,人材育成に関わる1項目を加えて,合計11項目となった。

戦略1:地球温暖化に立ち向かう

○人工衛星から二酸化炭素など地球温暖化と関係する情報を一気に観測する科学技術
○ポスト京都議定書に向けスーパーコンピュータを用いて21世紀の気候変動を正確に予測する科学技術
○地球温暖化がもたらすリスクを今のうちに予測し脱温暖化社会の設計を可能とする科学技術

戦略2:我が国が環境分野で国際貢献を果たし,国際協力でリーダーシップをとる

○新規の物質への対応と国際貢献により世界を先導する化学物質のリスク評価管理技術
○廃棄物資源の国際流通に対応する有用物質利用と有害物質管理技術
○効率的にエネルギーを得るための地域に即したバイオマス利用技術

戦略3:環境研究で国民の暮らしを守る

○健全な水循環を保ち自然と共生する社会の実現シナリオを設計する科学技術
○多種多様な生物からなる生態系を正確にとらえその保全・再生を実現する科学技術
○人文社会科学的アプローチにより化学物質リスク管理を社会に的確に普及する科学技術
○製品のライフサイクル全般を的確に評価し3Rに適した生産・消費システムを設計する科学技術

戦略4:環境科学技術を政策に反映するための人材育成

○人文社会科学と融合する環境研究のための人材育成

 第3期基本計画期間中には,これら戦略重点科学技術にあたる政府の研究課題については,より厳密な評価体制のもと予算の重点配分が図られるが,このことは,戦略重点科学技術には含まれない重要な研究開発課題の資源配分が一律に減少することを意味するのではなく,一定の規模の維持が必要なもの,集中投資にはあたらないが増加が必要なもの,減額するものなど,精査の上で適切な予算が措置されることが示されている。

第3期科学技術基本計画とその分野別推進戦略については,総合科学技術会議第53回議事資料として報告されている。

(http://www8.cao.go.jp/cstp/siryo/haihu53/haihu-si53.html)

 今回私は環境とエネルギー分野の推進戦略策定を行う事務局として,関係の専門家と関係各省・研究機関等の意見取りまとめ,調整を行った。長期にわたる難しい作業ではあったが,多くの方々の協力を得ることにより両分野の研究開発の方向性を示すことができたと思っている。関係の方々の協力に感謝するとともに,次の5年間に適切に活かされることを期待している。

 (のじり ゆきひろ,内閣府政策統括官(科学技術政策担当)付参事官(環境・エネルギー担当))

執筆者プロフィール:

1年9ヵ月,つくば-東京間を高速バス通勤,渋滞にあうと通勤参事官(片道三時間)の日も。研究所復帰であり余る時間を期待している。