ユーザー別ナビ |
  • 一般の方
  • 研究関係者の方
  • 環境問題に関心のある方

フランス,パリ郊外の研究所から

海外調査研究日誌

町田 敏暢

 日本に猛暑が襲った8月,ここパリの近郊では最高気温が23度前後のどんより曇った日が続いています。パリは夏に限らず1年中このような,はっきりしない天気が多い所のようです。研究所の同僚も「パリの天気なんてこんなもんさ。だから週末やバカンスには太陽を求めて南仏に行くんだ。」と言っています。

 私が2001年11月から滞在するLSCE(Laboratoire des Sciences du Climat et de l’Environnement:気候環境科学研究所)はパリの南方20km程にある研究所です。パリの街は他の国の首都に比べると小さく,東京都の世田谷区ほどの面積です。車で少し走れば森や畑といった田舎の風景が見られます。LSCEもそんな畑の中に建っています。若い研究者や学生,ポスドクはそれでも「パリがいい」と言ってパリに住み,片道1時間ほどかけて通ってくる人が多いのですが,子供を持った研究者はより広い部屋と自然を求めて郊外に住む人が多いようです。

 LSCE周辺のようにフランスにはそこここに森が残っています。森といっても日本のように「山」ではなく,平地やちょっとした丘が森になっていて,古くは王侯貴族の狩猟の場として,今では市民の憩いの場として利用されているようです。フランス人は非常に森が好きで真冬にも森を散歩します。「葉っぱが1枚もない森のどこが良いのだろう?」と思いながら一度案内されましたが,そこは広葉樹の落ち葉がふかふかしていてとても心の落ち着く場所でした。フランス人は自然に親しみ慣れているとでも言えばいいでしょうか,身近な自然を積極的に楽しんでいると感じます。

 LSCEでは環境研で実施しているシベリア上空での航空機モニタリングによる温室効果気体の観測結果を用いた共同研究を行っています。私には特にテーマは与えられず,好きにさせてもらっているので,これまでに蓄積して手を付けずにいたデータやシベリアで立ち上げたばかりのプロジェクトのデータをまとめてディスカッションしたり新しい観測の手法や展開について意見交換をしたりしています。また,LSCEはモデル研究が盛んなので私もすごくシンプルな大気中二酸化炭素の収支モデルを作って動かしています。これまで観測専門の研究をしていましたので,少しですがモデル研究の側から炭素循環の研究を覗くことができてよい経験になっています。今の時代は電子メールがあるので日本と離れていても一日の半分は日本にいたときと同じ仕事をしています。メールのあるおかげで1年間も日本を離れることができたのですが,メールさえなければ・・と思うことも時々あります。

 フランスはもとより「英語を話さない国」として有名ですが,実際暮らしてみると観光地以外でも英語の通じる場合が多いし,英語が通じない場合でも周りの誰かが助けてくれるという場面がたくさんありました。これとは逆に研究所内では「英語だけで大丈夫」だと思っていましたが,フランス人が2人以上いればその場の会話はフランス語になり,セミナーや会議も(多くの外国人がいても)フランス語で行われることが少なくありませんでした。こんなときには頑固なフランス人気質も感じますが,逆に我が身を振り返って,自分は日本にいたころ外国人研究者の前でどれだけ英語をしゃべってあげられただろうかとも考えさせられました。

(まちだ としのぶ,大気圏環境研究領域)

外観写真
写真 LSCEの建物

執筆者プロフィール

フランスに暮らして10ヵ月。先日シベリアに行って,自分では「話せない」と思っていたフランス語が,「少しは話せる」と思っていたロシア語よりいつの間にか身についていたことがわかり驚きました。同じようにいくつものフランスの習慣が自分でも気付かないうちに体に染み付いているのでしょう。日本に帰ってそれらに気付いていくのも楽しみです。LSCEの詳細はCGERニュース8月号に紹介しました。