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研究プロジェクトの連携をいかに進めるか

笹野 泰弘

 ここ2,3年,中国では例年にない大きな規模での黄砂にみまわれていると聞く。実際,当研究所の遠隔計測研究室(杉本伸夫室長ら)が北京に設置したライダー(レーザー光を用いて,大気中の粒子物質の濃度や形状特性を遠隔的に計測する装置)による連続測定データからも,大規模な黄砂が北京上空を見舞っている様子がとらえられている。長崎,つくばに設置されたライダーからは,北京に遅れること1,2日で,黄砂が日本上空にまで飛来していることが示されている。中国では,高速道路を走る車が100m先も見えないとか,北京空港は視界不良で一時閉鎖した,というような報道もなされている。

 当研究所では,西川雅高主任研究員を中心に地球環境研究総合推進費による研究として,「中国北東地域で発生する黄砂の三次元的輸送機構と環境負荷に関する研究」を進めている。上記のライダー観測もその一環として実施しているものである。実は最近,このほかにもアジア域を対象にしたエアロゾル関連の研究プロジェクトが各省のいろいろな研究制度のもとで,私が聞き知っているだけでもいくつか実施されてきている。予算規模の違いはあるが,例えば,「アジア域の広域大気汚染による大気粒子環境の変調について」,「海洋大気エアロゾル組成の変動と影響評価」,「風送ダストの大気中への供給量評価と気候への影響に関する研究」,「東アジアにおけるエアロゾルの大気環境インパクト」,「有機エアロゾルの地域規模・地球規模の気候影響に関する研究」,等々である。エアロゾルというものが大気環境あるいは地球環境を考える上で非常に重要な位置を占めているにもかかわらず,一部の研究者を除いてこれまで本格的に取り組んで来なかったことへの反動か,地球温暖化問題への関心の高まりとともに,ここ数年,一挙に研究が展開されてきたということかも知れない。

 実際のところ,地球大気の放射(太陽光や熱赤外線などの電磁波エネルギー)収支に及ぼすエアロゾルの影響,とりわけ雲の生成を通しての間接影響の評価と将来予測のためのモデル化は,解決すべき大きな課題である。また,エアロゾルの生成や分布,エアロゾルの組成と放射特性など,物理的・化学的性状にかかわる課題も未解明の事項が多い。したがって,いろいろな取り組みがなされること,またそのための研究費の手当てがなされるようになったことは,好ましいことであると言えよう。

 その一方で,直接にはかかわっていない研究者の目から見ても,研究計画策定も大変であったろう,苦労の痕がしのばれるという次第だ。というのも,一般に研究予算を配分する側は,研究内容が他と重複することを嫌う(と,研究者は考えている)ために,他との差別化を十分に図った計画書を作り上げる必要があるからだ。しかし,研究においては,仮に解明すべき課題や達成目標は同じでも,それに至る道筋には多様な選択肢があり,研究者の得意とする研究手法もそれぞれ違うので,全く同じ研究計画ということはあり得ないし,もっと積極的には,ある問題に対して種々の攻め方で解明を目指すというのは,健全な行き方である。もちろん,無駄な重複を排除することは必要なことでもある。

 重要な点は,こういった類似の,しかもフィールド観測を主体とするような研究プロジェクト間での有機的な連携関係をいかに築くかということにある。個々の研究者は,建前上は別のプロジェクトとは言え,観測実験やモデル研究においてそこに共通する部分を見いだし,可能な限り資源(予算,機材,人材)を有効に活用したいと思っている。予算元が異なる省庁を越えての研究プロジェクト間での,また異なる研究グループ間での観測計画の一元化や密接な連携プレー,情報・データの共有が可能になれば,大気環境研究の効果的な推進にとって非常に有効と思われる。総合科学技術会議の環境グループ(渡邉信参事官:当所生物圏環境研究領域長の併任)がリーダーシップを取って整えてきた,地球温暖化研究イニシャティブにおける省庁連携の推進体制はそのような意味で望ましい方向への第一歩ではなかろうかと注目しているところである。

(ささの やすひろ,大気圏環境研究領域長)

執筆者プロフィール

この原稿が読者の目に触れる頃には,上述の渡邉信氏の後任として内閣府総合科学技術会議事務局参事官(環境・エネルギー担当)の併任を命ぜられ,霞ヶ関に勤務を始めているはず。つくばに来て25年,ほとんど研究所での純粋培養で育った身ゆえ,慣れない役所のしきたりに戸惑っていることだろう。