新たな環境産業に期待する
巻頭言
総務部長 斉藤 照夫
21世紀が環境の時代となることは疑いの余地がない。大量の資源・エネルギー消費に伴う地球温暖化や生態環境の劣化,化学物質の大量使用に伴う健康リスクなどの巨大な制約を乗り越えて,地球環境と共生しうる循環型の社会へと大きく舵をきっていくことが人類共通の課題となっている。
この対処にあたって,幸い,我が国は,深刻な公害問題を切り抜け,公害防止と経済成長を両立させた経験を有している。その成功の要因は,本研究所森田恒幸氏の研究によれば,競争的なマーケットを通じた技術革新が対策コストの軽減をもたらすとともに,一方で環境産業の拡大に伴う有効需要の創出によって,経済全体にプラスの効果をもたらしたことにあったという。この経験は,21世紀の環境問題への対応にも当てはまる。すなわち,環境コストの内部化を図る政策インセンティブにより市場の力を活用して,効率的な環境技術を擁した環境産業を育て,雇用を確保しつつ持続可能な社会を実現していくのである。
諸外国でも,このアプローチの戦略的重要性に鑑み,真剣な取り組みが進められている。米国では,大統領直属の国家科学技術会議(NSTC)が97年に「持続可能な未来のための技術」レポートをまとめ,環境改善と雇用拡大を目指し,政府,大学,民間が連携して環境技術開発を進めており,ドイツでも,同年,連邦環境省と教育研究省が共同で「環境のための研究」報告書を発表し,環境保全分野の雇用110万人を目指し環境技術の開発・振興に取り組んでいる。
我が国も,革新的な環境技術を擁した環境産業の力強い発展が期待されている。ちなみに,環境庁調査では,我が国の環境産業の将来市場規模は,2010年に26兆円と予測されており,このうち最も大きな市場は「廃棄物処理ビジネス」(12兆円),次いで「公害防止装置等」(4兆円),「太陽熱利用機器・太陽光発電」(3兆円)と予測されており,その発展に向けた強力な環境政策が待たれている。
折しも,12年度予算の編成において,2001年1月の環境省の発足時に廃棄物行政が移管されるのと合わせ,国立環境研究所に「廃棄物研究部」の新設が決定された。本研究所としても,廃棄物・リサイクルや浄化槽技術を中核とした環境技術の開発評価の研究に懸命に取組むとともに,それを体現した環境産業の発展のための政策研究を進め,循環型経済の実現に貢献していきたいと考えており,皆様のご支援をお願い致したい。
執筆者プロフィール:
前環境庁水質保全局企画課長,元北九州市産業廃棄物指導課長
目次
- 「エラい」研究所
- ダイオキシンは「特殊化学物質」か?—有害な化学物質の包括的な管理のために—
- 輸送・循環システムに係る環境負荷の定量化と環境影響の総合評価手法に関する研究研究プロジェクトの紹介(平成10年度終了特別研究)
- 海域保全のための浅海域における物質循環と水質浄化に関する研究研究プロジェクトの紹介(平成10年度終了特別研究)
- 平成12年度地方公共団体公害研究機関と国立環境研究所との共同研究課題について
- シベリア上空における温室効果気体の観測研究ノート
- 葉の形が変化した植物を使って遺伝子組換え体の安全性評価法を開発する研究ノート
- 平成12年度国立環境研究所関係予算案の概要について
- 現実とバーチャルの共存?米国での研究生活海外からのたより
- 新刊紹介
- 表彰・人事異動
- 編集後記