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人あってこその環境省

巻頭言

環境研修センター所長 柳下 正治

 自宅から環境研修センターのある所沢まで片道1時間半の通勤はやや辛いというのは贅沢なのでしょうが,とにかく住めば都の所沢です。

 両親,祖父母等々,教育畑の家系で育てられた私にとって,人材育成の専門機関の環境研修センターの仕事,これまたなかなか男冥利に尽きるものがあります。血が騒いでいるのか,私の潜在的適性に適っていたのか?

 目的に応じたカリキュラムづくり,講師の選定,教材の工夫,コース終了後の考課判定,そして全寮制で缶詰状態の研修生との日々の語らい,ふれあい等々,今まで霞ヶ関の立場からしか研修センターを見ていなかった私にとって,すべて楽しく新鮮な経験であります。

 行政は組織で対応,これが日本の常道ではありますが,私自身,行政組織の一員となって28 年も経って,改めて組織を構成する一人一人の資質,その磨き上げ,そして資質を十分に発揮できるための周辺の環境整備がいかに大事であるかが理解できるようになってきておりました。所沢に来て数カ月になりますが,現在の環境庁(霞ヶ関)の状態を改めて見つめてみますと,今更のように尋常ではないことに心が痛みます。

 環境に対する国民の関心の高まり,急速な国際化の進展の中で,環境庁は重要政策課題,懸案案件の山です。本庁職員約500人の環境庁において,スタッフ一人一人にかかる負担の過酷さは表現しきれません。世間の期待が膨らむ中で政策の幅を広げ,個々人が能力を発揮する絶好のチャンスなのですが,自己研鑽を行い,より全人格的な能力を身につけていく暇はおろか,自分の健康管理もままならぬのが実態です。

 世界の政治・経済社会の構造の劇的転換を迎えている現在,日本の進むべき途,世界の中で日本が果たすべき役割等々,議論百出。そしてここに環境が主要要素として完全に組み込まれているのです。今こそ,職員一人一人が視野を地球的規模にまで広げ,一方で生活者の視点を持つ努力こそが求められています。ところが,ひとときもストップすることなく,むしろ次第にスピードを上げ,そしてより一層重く複雑な荷を運んでくるベルトコンベアの前で,能力の限界状態で悪戦苦闘し,霞ヶ関流の身の処し方で何とかしのいでいるのでは,全くの悪循環です。

 先般の通常国会において,中央省庁等改革法が成立し,2001年1月に環境省の誕生が正式に決定されました。「庁から省への昇格,これで永年の苦労が報われ,予算も組織も増え,本当におめでとうございます。」と,よくにこにこ顔で多くの方が話してこられます。

 「いいえ,家で例えると門と表札が変わったんです。外から立派な門を見ると,さぞ立派な家だろうと思われるでしょうが,門から先の家やその間取り,家具,それに庭などをどうするか,これからが本当に大変なのです。浮かれてはいられないんです。」

 環境問題に対する国民の関心は本当に高まっているし,環境問題の仕事に就こうと志を持つ若者は増えています。私は,環境省にこういった希望に満ちた若者が入ってきて,心身共に健康な状態で全力投球ができ,その結果が皆から評価され,満足感が得られる,そして一人一人が成長していく,そういった省にしなければならないことを,所沢にいると今まで以上に強く感ずるのです。

(やぎした まさはる)

執筆者プロフィール:

昭和46年厚生省入省。昭和52年から環境庁。平成11年7月,地球環境部企画課長から環境研修センター所長に。趣味は,健康維持のためのテニスと,趣味では終わらせたくないと思っているピアノ演奏。