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鈴木 継美

鈴木 継美の写真

 環境研究にはいろいろなネットワークが必要である。たとえば,市民レベルでの問題発見,地方・民間の研究機関と国のレベルの研究機関の連携,国際的な研究のネットワークの構築の問題,緊急にネットワーク化を進めなければいけない課題が山積している。

 その中で市民レベルでの問題発見とそれを端緒とする研究の展開は,地域社会を単位とする環境保全活動の進め方とも関連して,注目される課題である。市民は最も直接的で,かつ持続的な環境センサーである。既成のモニタリング等の観測網では捕捉できない新しい環境問題の発生をまず感知する。市民からの情報をどこでどのようにして受け取るか,受け取った情報を誰が分析しどのように対応策に繋げるか,ヒトの健康異常と同様に環境の異常を扱う社会システムが必要となる。その際,鍵となるのは各地方の環境行政の窓口でありそれと連動する環境研究機関であろう。

 環境研究に従事する研究者はそれぞれ何らかの専門領域に属している。この専門性と市民レベルからの情報とは直接的にはうまく対応しないと考えておくべきである。物事を認識する枠組みが異なっているからである。そこで研究者と市民を媒介する仕事の担い手が必要となる。市民の中で科学に強い人,専門家であるが柔軟で市民の感覚で問題を捉えられる人,行政官出身だが科学者と市民の両側の考え方が分かる人,適格者は色々あり得る。

 環境問題に関連して,市民は問題発見者であるだけでなく,同時に利害関係者でもある。因果関係の不確かな事象について何らかの対応が迫られることもしばしば起こる。研究を進めて因果関係がはっきりするまで手は打てないと言うのでは市民と研究者の間の距離は縮まらない。研究者が何を,どう考えて,具体的にどう研究を進めているかを市民に明らかにし,時には協力をうることが必要になる。環境保全のための研究は必然的に公開性を前提としている。

(すずき つぐよし)

執筆者プロフィール

東京大学名誉教授,元国立環境研究所所長