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2023年11月14日

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母親の尿中ネオニコチノイド系農薬等濃度と子どもの発達との関連について
—子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)—

(環境問題研究会、環境記者会、筑波研究学園都市記者会同時配付)

2023年11月14日(火)
国立研究開発法人国立環境研究所
エコチル調査コアセンター
 コアセンター長 山崎新
      次長 中山祥祠

 

 国立環境研究所エコチル調査コアセンターの西浜特別研究員(現、筑波大学助教)らは、子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)による8,538組の母子のデータを用い、母親の妊娠中の尿中ネオニコチノイド系殺虫剤を含む9種の浸透移行性殺虫剤(ネオニコチノイド系農薬等)およびその代謝物の濃度と、4歳までの子どもの発達指標(保護者が記載した質問票)との関連について解析しました。その結果、母親の妊娠中のネオニコチノイド系農薬等ばく露と4歳までの子どもの発達指標との間には統計学的な関連は見られませんでした。
 本研究の成果は、2023年10月13日付でElsevierから刊行される環境保健分野の学術誌『Environment International』に掲載されました。
 ※本研究の内容は、すべて著者の意見であり、環境省及び国立環境研究所の見解ではありません。

1.発表のポイント

  • 8,538組の母子のデータを用いて、妊娠中の母親の尿からネオニコチノイド系農薬等ばく露を定量的に評価し、4歳までの子どもの発達指標(保護者が記載した質問票)との関連について解析しました。
  • 母親の妊娠中のネオニコチノイド系農薬等ばく露※1 と子どもの発達との間に関連は見られませんでした。

2.研究の背景

 子どもの健康と環境に関する全国調査(以下、「エコチル調査」という。)は、胎児期から小児期にかけての化学物質ばく露が子どもの健康に与える影響を明らかにするために、平成22(2010)年度から全国で約10万組の親子を対象として環境省が開始した、大規模かつ長期にわたる出生コホート調査です。さい帯血、血液、尿、母乳、乳歯等の生体試料を採取し保存・分析するとともに、追跡調査を行い、子どもの健康と化学物質等の環境要因との関係を明らかにしています。
 エコチル調査は、国立環境研究所に研究の中心機関としてコアセンターを、国立成育医療研究センターに医学的支援のためのメディカルサポートセンターを、また、日本の各地域で調査を行うために公募で選定された15の大学等に地域の調査の拠点となるユニットセンターを設置し、環境省と共に各関係機関が協働して実施しています。
 ネオニコチノイド系農薬は、多くの国で使用されており、使用できる作物の幅が広く、害虫に対する優れた防除効果があるため、特に日本では出荷量がここ約20年で2倍以上増えています。この農薬は、無脊椎動物である昆虫の神経伝達を阻害することで殺虫効果を発揮していますが、脊椎動物であるマウスなどの動物実験により、無脊椎動物だけではなく脊椎動物に対しても神経毒性があることが報告されるようになりました。
 ネオニコチノイド系農薬の主な摂取源は、果物や野菜であると報告されています。妊娠女性を対象とした尿中ネオニコチノイド農薬等濃度の調査によると、ほぼ100%の妊娠女性からネオニコチノイド系農薬等が検出されています(Anai et al., 2021; Mahai et al., 2021)。しかし、これまでの妊娠中のネオニコチノイド系農薬等のばく露と子どもの発達との関連についての研究は、農薬のばく露を質問票で評価(例えば使用頻度など)していました。
 本研究では、エコチル調査に参加する母親から妊娠中に採取した尿を用いて、ネオニコチノイド系農薬等ばく露を定量的に評価し、子どもの4歳までの発達との関連を調べました。

3.研究内容と成果

 エコチル調査で得られたデータのうち、妊娠初期(妊娠22週未満)と中後期(妊娠23週以降)の尿試料があり、妊娠中の体重が極端に軽いあるいは重い場合(平均値から標準偏差※2 5以内)、かつ、双子以上の多胎で生まれた子どもを除き、生後6か月から4歳までの発達指標データがある8,538組の母子のデータを解析対象としました。母親の尿に含まれるネオニコチノイド系農薬等及びそれらの代謝物の濃度と、日本語版乳幼児発達検査スクリーニング質問票※3 から得られた子どもの発達指標との関連について、母親の妊娠前BMI※4 と食品摂取量(茶、米、豆類、いも類、野菜類、果物類)を考慮して解析を行いました。また、母親の尿中ネオニコチノイド系農薬等濃度から推定一日摂取量を算出し、食品安全委員会が示す許容一日摂取量※5 と比較しました。
 その結果、母親の尿中ネオニコチノイド系農薬等濃度と子どもの発達指標との間に関連は見られませんでした。また、ネオニコチノイド系農薬等の推定一日摂取量が許容一日摂取量を超える母親はいませんでした。

4.今後の展開

 本研究の限界として、子どもの発達指標の調査に用いられた質問票は、発達全体の遅れをスクリーニング※6 するものであり、ネオニコチノイド系農薬等が持つ神経毒性を直接評価できていない可能性があります。今回の研究では、ネオニコチノイド系農薬等ばく露と子どもの発達との間に関連は見られませんでしたが、一つの疫学調査の結果だけでは十分な証拠とはいえず、さらなる調査の積み重ねが必要です。

5.用語解説

※1 ばく露:人が化学物質などの環境にさらされることをいいます。
※2 標準偏差:あるデータの平均値からどのくらい大きい(小さい)かを示す指標です。
※3 日本語版乳幼児発達検査スクリーニング質問票:米国で販売されている質問票(Ages and Stages Questionnaires: ASQ)で、子どもの発達の度合いを、コミュニケーション、粗大運動、微細運動、問題解決、個人・社会の5つの領域で評価します。各領域に6問ずつ、計30問あり、いつも一緒に過ごしている保護者や養育者が回答します。エコチル調査では、米国出版社の許可のもと、日本語に翻訳して使用しています。
※4 BMI(Body Mass Index):肥満度を表す国際的な体格指数です。[体重(kg)/身⻑(m)の二乗]で計算されます。
※5 許容一日摂取量:環境汚染物質等の非意図的に混入する物質について、人が生涯にわたって毎日摂取し続けたとしても、健康への悪影響がないと推定される1日当たりの摂取量のことです。
※6 スクリーニング:調査する集団から、疾患の発症が予測される人をふるい分けることをいいます。

6.発表論文

題名(英語):Association between maternal urinary neonicotinoid concentrations and child development in the Japan Environment and Children’s Study
著者名(英語):Yukiko Nishihama1, Shoji F. Nakayama2, Tomohiko Isobe2, Michihiro Kamijima3 and the Japan Environment and Children’s Study Group4
1西浜柚季子:国立研究開発法人国立環境研究所(現、筑波大学) 2中山祥祠、磯部友彦:国立研究開発法人国立環境研究所 3上島通浩:名古屋市立大学大学院医学研究科 4グループ:エコチル調査運営委員⻑(研究代表者)、コアセンター⻑、メディカルサポートセンター代表、各ユニットセンターから構成
掲載誌:Environment International DOI: 10.1016/j.envint.2023.108267(外部サイトに接続します)

7.問い合わせ先

国立研究開発法人国立環境研究所
エコチル調査コアセンター
次長 中山祥祠

【報道に関する問い合わせ】
国立研究開発法人国立環境研究所
企画部広報室
kouhou0(末尾に”@nies.go.jp”をつけてください)

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