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令和5年度農薬生態リスクの新たな評価法確立事業(調査研究)(令和 5年度)
FY2023 Contract research work on the development of new assessment method for ecological risk of pesticides

研究課題コード
2323BY006
開始/終了年度
2023~2023年
キーワード(日本語)
ユスリカ ,ヨコエビ,OECDテストガイドライン,動物福祉,ウキクサ
キーワード(英語)
midge,amphipod,OECD test guideline,animal welfare,duckweed

研究概要

農薬の生態影響評価については、第5次環境基本計画(平成30年4月17日閣議決定)において、「従来の水産動植物への急性影響に関するリスク評価に加え、新たに長期ばく露による影響や水産動植物以外の生物を対象としたリスク評価手法を確立し、農薬登録制度における生態影響評価の改善を図る」こととされていることを踏まえ、環境省では、農薬の長期ばく露による影響の観点からのリスク評価(慢性影響評価)手法等について検討を行うなど、徐々に生態影響評価の充実を図ってきたところである。
これを踏まえ、本業務では、水域の生活環境動植物に対する慢性影響評価手法の検討において課題とされた事項等、生態影響評価のさらなる改善に係る技術的な検討を行うことを目的とする。

研究の性格

  • 主たるもの:行政支援調査・研究
  • 従たるもの:応用科学研究

全体計画

(1)ユスリカに係る慢性毒性試験の実施と情報の整理
 過年度までの慢性影響評価手法に係る検討1(契約締結後に環境省担当官より提供する)に基づき、当面はOECDテストガイドライン等の公的な慢性毒性試験法が確立されている魚類及び甲殻類(オオミジンコに限る)について慢性影響評価を開始することが想定されている。しかし、殺虫剤のうち、ユスリカ幼虫遊泳阻害試験(OECDテストガイドライン235)における毒性値が、ミジンコ繁殖毒性試験(OECDテストガイドライン211)の毒性値よりも低い剤の場合、ユスリカの慢性影響評価も実施することが望ましい。このような剤について、ユスリカの慢性毒性値を文献により収集・整理するとともに、データが不足しており、かつ水域で生活環境動植物に対する被害の恐れがある2農薬程度について(環境省担当官との協議の上で決定)、慢性毒性試験を実施して慢性毒性値を導出する。ユスリカの慢性毒性試験として、過年度業務2において検討した水添加によりばく露するOECDテストガイドライン219の改良版を用いる。
(2)底生生物のリスク評価に向けた国内外の評価手法の整理
 現行の評価では、水域では水からのばく露のみであり、底質からのばく露を評価していないが、土壌吸着性や残留性が高く、使用後、底質中に留まる可能性がある農薬については、底生生物などに対する被害を生じるおそれがある。しかしながら、底生生物を用いた評価としては、殺虫剤の評価における水のみの条件でのユスリカ幼虫遊泳阻害試験(OECDテストガイドライン235)が利用されているだけであり、底質が存在する際のリスク評価が適切に実施されているとはいえない。現在、環境省において導入に向けて議論されている慢性影響評価では、水生生物への影響のみが検討されており、底生生物を評価体系に含めることを検討する必要があることが指摘されている。そのため、国内外の現在の底生生物に対するリスク評価体系について整理を行い、農薬取締法の中で農薬の登録時に導入が可能と考えられる制度設計を開始する必要がある。
 そこで、欧州食料安全機関(以下「EFSA」という。)や米国環境保護庁(以下「USEPA」という。)における農薬の底生生物のリスク評価の現状および今後の計画について、平衡分配法や底生生物を用いた底質試験法、PECやモニタリング濃度の利用も含めて情報を収集する。
また、水溶解度が低く、溶解度以下では急性毒性が検出されないものの底質リスクが懸念される物質(殺虫剤を想定、環境省担当官との協議の上に決定)について毒性値や底質中濃度モニタリングデータの収集をおこなうとともに、1物質程度について提案中の淡水ヨコエビを用いた底質毒性試験等を実施し、リスク評価に基づく登録基準値設定のケーススタディを行う。
(3)動物福祉を考慮した魚類毒性試験データの整理
 魚類に係る急性毒性試験については、動物福祉の観点からOECD テストガイドライン203(魚類急性毒性試験)の予備試験、代替試験として位置づけられているOECD テストガイドライン236(魚類胚期急性毒性試験)及びOECD テストガイドライン249(ニジマス鰓細胞試験)への移行が議論されているほか、瀕死症状が確認された魚体の安楽死によるOECDテストガイドライン203結果の提出が今後増加することが予想される。各試験および瀕死をエンドポイントとした際の毒性値について、過年度業務に引き続き文献調査をおこなうとともに、データギャップを埋めるために追加で試験実施(3試験程度)により比較・考察する。
(4)内分泌かく乱作用を有する可能性のある農薬への対応策の検討
 一部の農薬については、生活環境動植物に対して内分泌かく乱作用を有するとの知見があることから、欧米ではその登録・使用に際して内分泌かく乱作用の有無を確認することが要求されており、OECDでは内分泌かく乱作用の試験及び評価のアドバイザリーグループでも試験法や評価について整理している。国内においても「化学物質の内分泌かく乱作用に関する今後の対応−EXTEND2022−」(以下「EXTEND2022」という。)において、試験法の開発と一部の農薬について試験・リスク評価が進められている。内分泌かく乱作用は、現在検討中の慢性影響評価で利用予定の試験系では評価が難しいことから、EFSAやUSEPA、OECD、EXTEND2022等で利用されている試験系や判断基準を整理するとともに、これらの枠組みで実施された結果に基づいて、現在登録中の農薬における知見について整理を行う。また、国内で農薬の内分泌かく乱作用の評価のために実施すべき評価フローについて提案を行う。
(5)OECDテストガイドラインの改訂の支援
 OECDにおいて承認された藻類生長阻害試験(OECDテストガイドライン201)の改訂にかかる提案書(契約締結後に環境省担当官より提供する)に基づき、珪藻の代替株及び代替培地の検証のためのリングテストの実施に向け国内外試験機関との各種調整及び意見交換や、結果の検証を進められてきている。本業務では、国内外の複数の機関との検証のためのリングテストを提案中の培地組成を元にして実施する。国内の一部の農薬の生態影響試験を実施する試験機関に対しては、環境省の承認を受けた上で再委託を行っても構わない。
(6)水生植物を用いた試験法に係る検討
 水生植物のウキクサに加えて、フサモ(Myriophyllum spicatum)、ドジョウツナギ(Glyceria maxima)を用いた毒性試験について、欧州で一部の除草剤及び植物成長調整剤について必須とされており、すでにOECDテストガイドラインがあるウキクサとフサモに加えて、ドジョウツナギにおいても試験ガイドラインの検証が進められている。
本業務では、1農薬程度について、提案されている試験ガイドラインに基づく毒性試験を行うとともに、試験法の承認に向けて課題を抽出し、提案国に対してコメントを送付する。
また、水生植物のウキクサ、フサモ、ドジョウツナギを用いた毒性試験についての文献調査も行うとともに、作用機序の異なる3種程度の除草剤について毒性試験を実施し、ウキクサとフサモ、ドジョウツナギの種間差に関する検討を実施する。
(7)令和6年度以降の調査研究計画の検討
 現行の農薬の生態リスク評価手法について、本業務を通じて得られた知見を踏まえた上で、令和6年度以降に行うべき調査研究の業務内容の計画の提案を行う。
(8)環境省担当官との協議及び報告書の作成
 上記(1)〜(7)の実施に当たっては、おおむね実施前、実施中(中間報告)及び実施後の3回程度、試験方法や試験対象農薬の選定、とりまとめ方法等について、環境省担当官と協議するとともに、実施結果を報告する。また、下記の業務履行期限までに報告書を作成する。

今年度の研究概要

同上

関連する研究課題

課題代表者

山本 裕史

  • 環境リスク・健康領域
  • 領域長
  • Ph.D.
  • 化学,生物学,土木工学
portrait

担当者