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低利用魚種の社会−生態学的再評価:多種少量漁獲が創出するポートフォリオ効果の解明(令和 5年度)
Socio-ecological reassessment of underutilized fish species: Portfolio effects driven by catch diversification.

予算区分
若手研究
研究課題コード
2224CD002
開始/終了年度
2022~2024年
キーワード(日本語)
水産,多様性,気候変動
キーワード(英語)
Fishery,Diversity,Climate Change

研究概要

本研究では、長崎県対馬市を対象に、1.低利用魚種の利用実態を明らかにし、ついで2.低利用魚種を含む多種少量漁獲戦略が、漁業者の収入の安定性に与える影響(ポートフォリオ効果)を解明する。最後に3.ポートフォリオ効果に着目した、小規模漁業の自然環境・社会変動下のリスクについてシナリオ分析を通じて明らかにすることを目的とする。
まず、対馬市における低利用魚種の水揚げ量や取引価格、そして市内外流通量、販路、漁業者の収入の経年変化について統計資料や漁業者からの情報をもとに定量的に把握する。合わせて、主要魚種についても低利用魚種と同様の情報を統計資料から収集する。次に、水揚げ量と取引額の変動係数をもとにしたポートフォリオ効果が漁業者の収入の安定性に与える影響を主要魚種と比較し、低利用魚種を活用した多種少量漁獲戦略の有利・不利性を解明する。そして、海洋物理環境の変化や流通・販路をはじめとする消費側の社会変動が生じた場合にポートフォリオ効果がどのように変化するのかを予測する。その結果にもとづいて、低利用魚種を主軸とする小規模漁業の持続可能性について、水産資源の保全との両立の観点から新たな提言をすることを目指す。

研究の性格

  • 主たるもの:基礎科学研究
  • 従たるもの:応用科学研究

全体計画

初年度(令和4年度)にはデータの取得・加工を行う。具体的な手順は以下のとおりである。長崎県対馬市では、低利用魚種は全漁獲の35%強を占める。そうした低利用魚種に関する水揚げ量、取引価格、販路といった情報を収集し、時系列(2000年-2021年)で整備する。データ収集にあたっては、現地の漁業者から協力を得て実施する。合わせて、水産庁や対馬市役所が取りまとめている漁港港勢調査をはじめとする各種水産統計データから主要魚種に関する同様のデータを取得し、定量的なデータとして整備する。
次年度(令和5年度)には多種少量漁獲によるポートフォリオ効果の実証を行う。初年度に整備したデータをもとに、漁業者の収入の安定性と漁獲対象種の多様性との関係を探る。漁獲量と取引価格、収入の安定性は時系列変動係数(CV)をもとに算出し、漁獲種の多様性はShannon-Weaver多様度指数(H)をもとに算出する。算出した多様度指数と漁獲量、取引価格、収入の安定性それぞれとの関係を求めることで、少量(漁獲量が少ない場合)であっても多種を漁獲する(多様度指数が高い)ことで、取引価格と収入が安定する(ポートフォリオ効果が認められる)かどうかを明らかにする。
最終年度(令和6年度)には小規模漁業のリスク・シナリオ分析を行う。令和5年度で求めたポートフォリオ効果について、時系列データ間の因果関係を推定する「動的ベイジアンネットワーク分析 (Dynamic Bayesian network)」を用いて、その効果の変動に与える影響を探索する。考えられる要因としては、海洋物理環境(水温、密度、流速)や流通(卸値、市内外流通量、販路の種類)、消費者物価指数、季節性などが挙げられる。構築したベイジアンネットワークを用いて、将来のシナリオ下でのシナリオ分析を行う。海洋物理環境要因については、温暖化シナリオに基づいた予測値を用い、その他の要因については、複数のシナリオを設定して値を指定する。シナリオおよび各変数の設定値については、予め社会—生態学的枠組みで想定される状態を仮定するが、地元漁業者からの聞き取り調査からの情報も反映させ、柔軟にシナリオを設定することで、より現実的なシナリオのもとで予測し、ポートフォリオ効果が増減する条件を明らかにする。その結果をもとに、ポートフォリオ効果に着目した多種少量漁獲の有利・不利性を議論し、小規模漁業の将来リスクを評価する。

今年度の研究概要

令和5年度は、漁業者の社会経済状況(漁業者支援制度の利用状況等)に関する情報の取得を進めるとともに、昨年度取得したデータと合わせて解析することにより、各魚種の価格の安定性と漁獲多様性との関係を探り、多種少量漁獲戦略のポートフォリオ効果の解明を進める。具体的には、漁獲量と取引価格、収入の安定性について時系列変動係数を算出し、漁獲多様性はShannon-Wiener多様度指数を算出する。算出した変動係数と多様度指数の関係を求めることで、少量(漁獲量が少ない場合)であっても多種を漁獲する(多様度指数が高い)ことで、取引価格と収入が安定する(ポートフォリオ効果が認められる)かどうかを明らかにする。

課題代表者

松葉 史紗子

  • 生物多様性領域
    生物多様性評価・予測研究室
  • 特別研究員
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