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人工的な極限環境である港湾における生物多様性の解明(令和 4年度)
Biodiversity in extreme man-made environments: ports as a model case

研究課題コード
2224CD025
開始/終了年度
2022~2024年
キーワード(日本語)
極限環境,節足動物,外来生物,アリ,微生物
キーワード(英語)
extreme environments,arthropod,alien species,ant,microorganisms

研究概要

アスファルトとコンクリートで舗装された港湾は、船舶の接舷と物資の移送を目的として作られた、極めて人為的な環境である。多数の物資の経由地である特性上、港湾には常に多様な生物の非意図的な持ち込みがなされ、節足動物を中心に、国内外からの外来生物の発見・定着事例も数多い。その主たる要因としては、港湾が一部の生物にとって好適な環境を供給していることが想定される。強光・強風に常に晒される港湾が、いかなる機構で新たな生態系を創出するかを解明することは、生物多様性を理解する上で非常に興味深い。そして同時に、外来生物の港湾への定着機構の理解と、その阻止に貢献するものである。
そこで本研究においては、主として粘着式トラップを用いた網羅的なモニタリングにより、港湾における生物相を、節足動物を中心として解明する。さらに、港湾の近接地域における節足動物相との比較によって港湾地の節足動物相がもつ特徴を明らかにする。この際、形態的な同定に並行して遺伝子解析を実施し、節足動物の由来を検討する。これらのデータに、港湾の設立年代・地形などのデータを加味した解析を行い、節足動物相の創出機構を解明する。

研究の性格

  • 主たるもの:基礎科学研究
  • 従たるもの:技術開発・評価

全体計画

本研究では、港湾で暮らす節足動物を主として粘着トラップ等を利用して網羅的に採集し、生態系の概要を解明する。その上で、アリ (ハチ目:アリ科)をモデル生物種群として、全国の港湾と、港湾に近接する地域それぞれにおける遺伝子解析を行い、遺伝子的な持ち込みを実証する。港湾の設立年代・地形などのデータと共に、生態系創出の道筋を考察する。その上で、微生物持ち込み、分散といった外来生物侵入に伴うリスクを可視化し、侵入・定着リスクを明らかにする。

1.港湾における節足動物相の把握
全国の主要な港湾から幾つかのモデル港湾を選定し、港湾および周辺地域に粘着トラップを設置し、節足動物相の概要を解明する。アリについては、港湾への生物の移入状況を確認するためのモデル生物とし、下記2,3のように、アリおよび共生微生物の遺伝子解析を行うためのアリ種を選定する。

2.港湾の生態系に対する外来生物の侵入頻度の確認
昆虫の中でもアリは非意図的外来生物となりやすく、特定外来生物に指定されているアリだけでも、国内外の港湾において多くの定着報告がある。一方で、港湾には在来のアリが生息している事例も多く、外来生物に対する防波堤機能が期待される。しかし、アリ類の生態的特性を考慮すると、港湾に生息するアリの大半は持ち込まれたものと推定される。そこで、代表的なアリ数種について、全国の主要な港湾、および同一県内から新たに収集したサンプルを用いた遺伝子解析を行い、移入の実情を解明する。

3.港湾の生態系に外来アリが持ち込む微生物とその広がりの解明
本研究では、遺伝子解析目的で収集したアリのサンプルを並行的に微生物持ち込みリスク評価に用い、非意図的な微生物の侵入とその広がりの実態を検証する。有害微生物が確認された場合、微生物の系統関係を宿主の系統樹と比較し、外来生物の侵入に伴う微生物の侵入リスクを解明する。また、これらの微生物感染が港湾の生態系に与えた影響を感染状況から導き出す。

今年度の研究概要

・ ヒアリ、ハヤトゲフシアリ等の特定外来生物に指定された外来アリ類が定着した港湾およびその周辺地域を対象に、粘着トラップの設置および目視モニタリングを実施し、港湾ごとの節足動物相の概要を明らかにするとともに、遺伝子解析に用いるモデルアリ種を選択する。
・モデルに選定されたアリ種の地域間での遺伝的変異を解析するのに適切な遺伝子を、ミトコンドリアのCytochrome Oxidase subunit I (COI)遺伝子や、核DNAのInternal Transcribed Spacer (ITS)領域などを候補として選定する。

課題代表者

坂本 洋典

  • 生物多様性領域
    生態リスク評価・対策研究室
  • 主任研究員
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