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2021年2月11日

オゾン層破壊をもたらすフロン「CFC-11」、
急増していた中国東部からの放出量が減少

(筑波研究学園都市記者会、環境省記者クラブ、環境記者会同時配布)

2021年2月9日(火)
国立研究開発法人国立環境研究所
環境計測研究センター
 主任研究員 斉藤拓也
 

   国立環境研究所を含む国際研究チームは、オゾン層破壊物質「CFC-11」について、2013年以降の全球的な放出量増加の要因となっていた中国東部での放出量が、2018年以降減少し、増加前のレベルに戻ったことを明らかにしました。
   これにより、オゾン層の回復が大幅に遅れる事態は回避されたと考えられます。恐らく今回の結果は、先行研究による迅速な放出実態の把握、そして中国の産業及び政府の行動によるものと考えられます。
   本研究の成果は、英科学雑誌「Nature」に2021年2月11日付で掲載されます。
 

1.研究の背景

 トリクロロフルオロメタン(CFC-11)は、一般にフロンと呼ばれるクロロフルオロカーボン(CFC)の一種で、フロンの中でも特にオゾン層破壊への影響が大きい物質です。かつてCFC-11は断熱材用の発泡剤等として広く使われていましたが、オゾン層保護のためのモントリオール議定書(1989年発効)によってその生産は段階的に削減され、途上国も含めて2010年に全廃されました。
 この規制を反映して、大気中のCFC-11濃度は90年代後半から減少する傾向にありましたが、2010年代に入ってからその減少スピードが予想外に鈍化し、その原因が全球的な放出量の増加であることが報告されました1)。こうした中、我々は先行研究において、中国東部からの放出量増加がそのかなりの部分を占めていることを明らかにしました2)。その後、中国東部からの放出量がどのように推移したかについて注目が集まっていました。

2.研究の概要

 本研究では、東アジアでCFC-11を観測している韓国のGosanステーション(済州島)と日本の波照間ステーション(沖縄県・波照間島)のデータに基づいて、2018年以降の中国東部におけるCFC-11放出量を解析しました。
 これら2地点では、近傍での放出を示唆するCFC-11の濃度が高くなるイベントがしばしば観測されてきましたが、2018年以降はその頻度と強度が低くなっており(図1)、この地域の放出量が減少傾向にあることが示唆されました。

韓国のGosanステーションと日本の波照間ステーションで観測された大気中のCFC-11濃度の変動を表した図
図1 韓国のGosanステーション(済州島、上)と日本の波照間ステーション(沖縄県・波照間島、下)で観測された大気中のCFC-11濃度の変動。出典:国際研究チーム/NASA Earth Observatory

 続いて、観測データを利用したCFC-11放出量の解析を行いました。この解析では、大気輸送モデルを使って大気観測データからその原因となる放出量の地域分布を推定する手法(逆計算法)を用いました。その結果、中国東部からのCFC-11放出量は、2018年以降に減少していることがわかりました。2019年の年間放出量は、放出量の高かった2014-2017年の年間放出量より10 ± 3キロトン低い5.0 ± 1.0キロトンであり、予想外の増加が始まった2013年より前のレベルに戻ったことがわかりました(図2)。
 更に、CFC-11の製造に関わる四塩化炭素(原料)とジクロロジフルオロメタン(CFC-12、副生成物)の中国東部における放出量を韓国の観測データに基づいて解析した結果、これら関連物質の放出量が2013年以降に増加し、その後、CFC-11の放出量が減少する1-2年前に減少していたことがわかりました。このことは国際的にCFC-11の全廃が義務付けられた後に中国東部でCFC-11が製造され、その製造量が2017-2018年に減少したことを示唆しています。
 また、観測データを用いたCFC-11製造過程の解析から、この地域で断熱材などの製品に使用されているCFC-11量は、予想外の増加が始まった2013年より前と比べて、最大で112キロトン増加したことが示唆されました。しかし、仮にこれらが全て大気中に放出された場合でも、南極上空のオゾン層破壊への影響は小さい(0.2%以下)と考えられました。
 以上の結果から、中国東部で新規製造されたと考えられるCFC-11が、オゾン層の回復を大幅に遅らせる事態は回避されたと考えられます。恐らくこれは、先行研究による全球的な放出量増加の検出1)や放出地域の特定2)、そしてそれに続く中国国内の産業及び政府の行動によるものだと考えられます。なお、中国東部における我々の研究と同期して、全球的な放出量がモントリオール議定書の規制と整合する軌道に戻りつつあることを示す独立した研究も報告されます3)。こうした結果は、重要な課題に対して地域スケールと全球スケールの両方からアプローチしたことが事態の急速な進展につながったことを裏付けてます。

推定されたCFC-11の放出量分布の推移を時系列で表した図
図2 推定されたCFC-11の放出量分布の推移。 左から、2008-2012年、2014-2017年、2019年の平均放出量分布。図中の●は韓国と日本の観測地点の位置を示している。出典:国際研究チーム/NASA Earth Observatory

3.発表論文

【タイトル】
A decline in emissions of CFC-11 and related chemicals from eastern China
【著者】
Park, S., Western, L.M., Saito, T., Redington, A.L., Henne, S., Fang, X., Prinn, R.G., Manning, A.J., Montzka, S.A., Fraser, P.J., Ganesan, A.L., Harth, C.M., Kim, J., Krummel, P.B., Liang, Q., Mühle, J., O’Doherty, S., Park, H., Park, M. K., Reimann, S., Salameh, P.K., Weiss, R.F., & Rigby, M.
【雑誌】
Nature
【DOI】
10.1038/s41586-021-03277-w
【URL】
https://www.nature.com/articles/s41586-021-03277-w【外部サイトに接続します】

4.参考文献

1) Montzka, S. A., G. S. Dutton, P. Yu, E. Ray, R. W. Portmann, J. S. Daniel, L. Kuijpers, B. D. Hall, D. Mondeel, C. Siso, J. D. Nance, M. Rigby, A. J. Manning, L. Hu, F. Moore, B. R. Miller & J. W. Elkins (2018) An unexpected and persistent increase in global emissions of ozone-depleting CFC-11. Nature, 557, 413-417.
2) Rigby, M., S. Park, T. Saito, L. M. Western, A. L. Redington, X. Fang, S. Henne, A. J. Manning, R. G. Prinn, G. S. Dutton, P. J. Fraser, A. L. Ganesan, B. D. Hall, C. M. Harth, J. Kim, K. R. Kim, P. B. Krummel, T. Lee, S. Li, Q. Liang, M. F. Lunt, S. A. Montzka, J. Mühle, S. O’Doherty, M. K. Park, S. Reimann, P. K. Salameh, P. Simmonds, R. L. Tunnicliffe, R. F. Weiss, Y. Yokouchi & D. Young (2019) Increase in CFC-11 emissions from eastern China based on atmospheric observations. Nature, 569, 546-550.
3) Montzka, S. A. et al. A sharp decline in global CFC-11 emission during 2018-2019. Nature (this issue), (2021).

5.問い合わせ先

【研究に関する問い合わせ】
国立研究開発法人国立環境研究所 環境計測研究センター
動態化学研究室 主任研究員 斉藤拓也

【報道に関する問い合わせ】
国立研究開発法人国立環境研究所 企画部広報室
kouhou0(末尾に@nies.go.jpをつけてください) / 029-850-2308

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