- 予算区分
- CE 文科-振興費
- 研究課題コード
- 1721CE002
- 開始/終了年度
- 2017~2021年
- キーワード(日本語)
- 地球システムモデル,地球温暖化
- キーワード(英語)
- Earth system model,Global warming
研究概要
文部科学省「統合的気候モデル高度化プログラム」領域テーマB「「炭素循環・気候感度・ティッピング・エレメント等の解明」における、サブ課題「地球システム−水資源・作物・土地利用モデル結合」の研究を行う。これまでの研究で、気候変動に伴う将来の水資源・土地利用・生態系の間のつながり(nexus)について評価することの重要性が指摘されてきた。具体的には、気候変動が、穀物生産や土地利用などの様々な人間活動に与える影響について評価する研究が、数多くなされてきた。この一方で、土地利用などの人間活動の変化が、二酸化炭素排出吸収のバランスや地表面状態を変えることを通して、気候変動に与える影響についても、気候・地球システムモデルなどを用いて、様々な研究がなされてきた。このような人間活動と自然環境の変化を同時に考慮し、その相互作用を評価することの必要性が指摘されてきたが、自然環境と人間活動のモデルを結合して、この問題に取り組んだ研究は少ない。このため、国立環境研究所ではこれまで、陸面モデルに陸域生態系・水資源・作物・土地利用モデルを組み込んだ「陸域統合モデル」の開発を行ってきた。5年の研究を通して、本プロジェクトで開発される、大気・陸面・海洋・生態系モデルを含む地球システムモデルに、水資源・作物・土地利用の人間活動モデルを組み込み、自然環境と人間活動の相互作用を定量的に評価する。
研究の性格
- 主たるもの:応用科学研究
- 従たるもの:基礎科学研究
全体計画
国立環境研究所を中心とする研究チームが開発を行ってきた陸域統 合モデルを利用した分析を行うとと もに、CMIP6 向けに開発されてきた地球システムモデル(MIROC-ESM)に対して、陸域統合モデルにおける人間活動モデルを組み込むことにより、地球システムと人間活動の相互作用を定量的に評価する。具体的には、将来の水資源や土地利用の物理的な制約や、 食料の需要や供給を考慮に入れて、気候安定化目標を実現するための気候−炭素循環変化 のメカニズムを評価する。より厳しい目標を実現するためには、気温のオーバーシュー ト(一時的に気温目標を超えてしまうこと)が起こってしまう可能性があるが、パリ協 定の実現のためにはどの程度の大きさのオーバーシュートが許容されるか、またいつま でオーバーシュートが許されるのかといった問いについて検討する。また、気候安定化 のためには、基本的に「負の CO2 排出」の必要があるが、将来の土地利用の変化や、気 候−炭素循環フィードバック過程について定量的な評価を行うことにより、負の CO2 排出 の問題について検討する。
全体的な研究の進め方としては、既存の陸域統合モデルを用いた分析を進めつつ、ESM に人間活動への組み込みを行う。その際、研究参画者および協力者として参加している 陸面過程・陸域生態系・水資源・作物・土地利用モデル開発者との協力を行う。さらに、 海洋研究開発機構が中心となって行う IAM-ESM 結合モデルとは密に情報共有をし、デー タの交換などをして研究を進める。既存の陸域統合モデルは、陸面過程のみを解き、物 質循環がモデルの内部で閉じていないため、モデルで解いていない要素(大気•海洋過程) は、既存のモデル計算結果を利用しつつ、地球-人間システムの挙動について分析を行 う。ESM に人間活動モデルの組み込みが完了した後に、全球の物質循環を陽に計算する ことで、地球−人間活動システムの相互作用を評価できる新たなモデルによる将来予測と分析を行う。人間活動に関わるモデル開発や解析によって得た知見やデータを、地球シ ステム開発•解析チームと共有し、モデル開発や実験分析に役立てる。
今年度の研究概要
既存の陸域統合モデルを用いて、過去の再現実験と将来予測実験を行なった。既存の陸域統合モデルでは、気候モデルにおける陸面過程を計算する要素に対して、水資源、作物、土地利用モデルが結合されている。過去の再現実験を行い、観測データと比較することにより、モデル定式化の改良を行なった。例えば、土地利用モデルが計算する耕作地面積が、観測データよりも経年変化が大きく出る傾向があることがわかったため、定式化の修正を行った。また、将来実験に関しては、水資源、作物、土地利用の間のフィードバックに着目した分析を行った。陸域統合モデルの予測によると、将来の土地利用(耕作地面積)の変化が、穀物収量予測に強く依存する結果となった。具体的には、穀物収量を計算する作物モデルにおいて、不確実性があると考えられている施肥効果の取り扱いを、想定される不確実性の範囲内で変化させると、収量の将来予測の結果が変わり、穀物面積の変化予測も大きく変わるということがわかった。今後は様々な境界条件の不確実性を考慮することにより、幅広く将来の可能性を検討する予定である。
既存の陸域統合モデルの分析と並行して、地球システムモデルと人間活動(水資源、作物、土地利用)モデルとの結合を行なった。地球システムモデルでは大気ー海洋ー陸面がすべて結合された状態で動作しているが、海洋の境界条件を与えることで、大気ー陸面モデルを動作させるように、コードの変更を行なった。さらに、大気と海洋の境界条件を与えることで、陸面モデルを動作させるようにコードの変更を行なった。その上で、水資源、作物、土地利用モデルの結合作業を行ない、現在、動作確認を行なっている。大気ー海洋ー陸面を結合させたモデルでは、地球シミュレータの160コアを利用して1年積分に1時間ほどの時間がかかるが、陸面だけを計算させるモデルでは、32コアを利用して1年積分が5分程度で計算が可能となる。このように計算に時間のかからないモデルを利用することにより、人間活動モデルの結合を行う際、動作確認や様々な感度テストなどを行う上で、非常に有用である。
外部との連携
海洋研究開発機構(研究代表者:河宮未知生)
茨城大学
農業・食品産業技術総合研究機構
エネルギー総合工学研究所