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生物・生態系影響に関する研究(平成 26年度)
Research for Impacts on Organisms and Ecosystem

予算区分
AR 震災対応
研究課題コード
1415AR003
開始/終了年度
2014~2015年
キーワード(日本語)
環境放射線,野生生物,移行,DNA修復,生物影響
キーワード(英語)
Environmental radiation, Wild organism, translocation, DNA repair, Biological impact

研究概要

空間線量の低下に伴い、近い将来住民が元の居住地に帰還することが予測されるが、その場所はしばらくの間放置されていたため、生態系が変化していることが予想され、帰還住民が直ちにそこで生活を出来るのかどうか危惧されている。そこで、本プロジェクトでは生物・生態系の視点から見た、帰還後の生活への正負の効果に関する知見及び科学的に適正・妥当な放射線影響の知見を提供する事により、「安全・安心」に生活を送るための基礎情報を提供し、生物環境を視野に入れた復興シナリオの策定並びにその実施に貢献することを目的とする。

研究の性格

  • 主たるもの:応用科学研究
  • 従たるもの:基礎科学研究

全体計画

1. 生態系変化の実態把握
・福島県浜通りを対象に多地点での生物の出現頻度をモニタリングし、GISにより可視化する。
・帰還困難区域とその周辺の陸水域、潮間帯、沿岸域の生物調査と核種分析を行う。
・リモートセンシングに基づく植生景観変化の把握とモデル化を行う。
・現存植生の現地調査とそれに基づく集落無人化後の長期植生変化予測モデル構築。
2. 放射線等の生物影響評価
・DNAレベルでの低線量影響検出指標の開発と手法の現地への応用。
・流域圏食物網における放射性物質移動経路と濃縮率の推定により生物を介した放射性物質移動のメカニズム解明を行う。
・現地調査で認められた生物の「異変」の原因特定とメカニズムを実験により解明する。
3. かく乱された生態系の回復研究
・人口減少(無人化)によりかく乱された生態系の管理手法について、特定のモデル地域について提案しその効果をモニタリングする。
・人為的にかく乱(除染活動等)された生態系の調査と管理手法の提案を行う。

今年度の研究概要

(1) 生態系変化の実態把握とかく乱された生態系の回復研究
避難指示区域を含む福島県浜通り地方を対象に、昆虫、鳥類、哺乳類、カエル類を対象とした広域・長期間のモニタリングの体制を構築し、市民や研究 者に対する生物多様性に関する情報公開のためのインタフェースを検討する。昆虫につ
いては、多数種が混在する捕獲サンプルからメタゲノムに基づい て種多様性を把握するための手法開発を行う。また、無人化や除染に伴う景観構造の変化を長期的にモニタリングするための手法検討として、衛星・航 空写真データと現地
における土地被覆の実測を比較する。無人化が生態系の構造に与える影響を予測するため、浜通り地方の生物相の地史的背景を考慮 した生態系モデルの構造を検討する。

(2) 低線量環境放射線による植物の生殖器官等に対する影響調査
環境中の低線量放射線が植物の繁殖能力や遺伝子等に与える影響を評価するため、遺伝的に均一な植物種を用いて生殖器官の細胞や形態形成、遺伝子発現への影響を空間放射線量の異なる各地で調査する。具体的には、空間放射線量の異なる地点で遺伝的に均一な植物を栽培あるいは選定して、花器・花色・種子の色や形態変化、花粉の成熟率、ストレス応答遺伝子の発現量を調査し、空間放射線量と調査項目の変異数との関係を明らかにする。 また、前年度までに開発したDNA修復を検出できる遺伝子組み換え植物を培養細胞化し、野外において本植物をモニタリングに使用できるかどうかについて検証を行う。
(3) 野生齧歯類を指標とした放射線生物影響の長期モニタリング
環境中に放出された放射性物質による野生動物への放射線影響を把握する。そのために、野生齧歯類(アカネズミ、ヒメネズミ等)をモデル動物として、福島県に分布する個体群と対照地域の個体群の間でDNA損傷の程度、遺伝学的変異の頻度、生殖細胞の形態等を比較する。対照地域は茨城県、富山県、新潟県、青森県とする。また、野生齧歯類の生息地から植物、昆虫、土壌等を採取し放射線量を測定する。その測定値から内部および外部被爆量を推定する。
(4) 沿岸を中心とする水圏環境の放射能汚染及び水棲生物における潜在影響の究明
 今年度も、①両生類、②潮間帯生物、③底棲魚介類とその生息環境を対象に調査を進め、必要に応じて、室内実験を行う。①両生類については、昨年度までの調査・解析を進めるとともに、新たに福島県の帰還困難区域とその周辺を対象にカエル類の生息状況を調べ、土壌表面線量率や水田の変化、除染の程度などとの関連で解析を進める。②潮間帯生物については、コドラート法による付着動物群集解析とイボニシ産卵状況調査を行い、昨年までの結果と比較し、変化の有無と程度を明らかにする。また、イボニシに対する放射性セシウム及び放射性ストロンチウムの影響を曝露試験により調べる。③底棲魚介類については、松川浦及び福島県沿岸を対象に環境試料の採取を含む定期調査を行い、放射性核種の挙動と生物群集の変化を解析する。とりわけ、放射性セシウムの魚介類への蓄積特性と底棲魚介類の再生産に着目した解析を進める。
(5) 環境放射線の生物・生態系影響に関する調査 淡水魚類に放射性物質蓄積が問題となっている天然湖沼(福島県金山町沼沢湖)においてセシウムの物質循環・水循環を 明らかにし、プランクトン経由の汚染メカニズムと将来予測を行う。 福島県浜通地方の主要河川において河道内湿地における放射性物質量を明らかにし、 水生生物(湿地植物、両生類、魚類、甲殻類等)における蓄積量の種間差について生 息環境と餌環境の点から蓄積メカニズムを明らかにする。

関連する研究課題

課題代表者

玉置 雅紀

  • 生物多様性領域
    環境ストレス機構研究室
  • 室長(研究)
  • 博士(農学)
  • 生物学,農学,生物工学
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担当者