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2018年10月23日

アジア地域におけるチャンバー観測ネットワークの活用による森林土壌CO2フラックスの定量的評価

国立環境研究所研究プロジェクト報告 SR-132-2018

表紙
SR-132-2018 [6.56MB]

 昨今の地球温暖化は、人間活動によって二酸化炭素濃度をはじめとする大気中の温室効果ガスが増加したことが主な原因とされています。一方、自然生態系にも二酸化炭素の大きな排出源が存在します。それは土壌です。土壌中には、植物に由来する有機物(有機炭素)が多く蓄積されています。この有機炭素は土壌中の微生物によって分解され、二酸化炭素として大気中に放出されます(微生物呼吸)。全世界の土壌から1年間に排出される二酸化炭素量は、人間活動によって排出される量の約10倍と推定されています。この量を上回る二酸化炭素を、森林の植物が光合成によって吸収しているため、森林は炭素の吸収源として機能してきました。しかし、微生物呼吸は温度上昇によって著しく増加する性質があります。そのため、地球温暖化によって微生物呼吸が将来的に増加し、森林生態系が正味で炭素の排出源となってしまう可能性が指摘されています。その検証のためには、微生物呼吸に関する高精度な長期連続観測データが不可欠となります。

 しかし、その様な長期観測データは非常に少なく、特に、今後の気候変動予測に重要な、アジアモンスーン地域における観測データが圧倒的に不足しています。そのため、温暖化や撹乱(自然撹乱および人為撹乱)に対する、微生物呼吸の長期的な応答に関しては、大きな不確実性が存在するのが現状です。この点が、気候変動の将来予測の高精度化における大きな壁となっています。

 この様な背景のもと、国立環境研究所地球環境研究センターでは、微生物呼吸の長期連続観測に資する、大型自動開閉チャンバーシステムを独自に開発し、世界最大規模の観測ネットワーク(チャンバー観測ネットワーク)を、アジアモンスーン地域を中心に展開してきました。そして、本ネットワークから得られた高精度な長期連続観測データから、温暖化を含む自然撹乱や人為撹乱が、微生物呼吸に与える影響を評価しました。

 その結果、アジアモンスーン地域の森林土壌における微生物呼吸は、温暖化によってこれまで予測されていたよりも大きく、より長期的に増進される可能性が示唆されました。これには、アジアモンスーン地域における湿潤な環境と、豊富な土壌有機炭素が関係しているものと考えられます。本研究結果を将来予測モデルの基礎データとして活用することで、気候変動予測の高精度化や、より効果的な環境政策の策定に貢献できるものと考えております。


(国立環境研究所 地球環境研究センター 梁 乃申)

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