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2006年12月28日

化学物質環境リスクに関する調査・研究(終了報告)
平成13〜17年度

国立環境研究所特別研究報告 SR-76-2006

1. 研究の背景と目的

表紙
SR-76-2006 [8.8MB]

 新たに導入される環境リスク管理施策を円滑に運用するために必要なリスク評価手法の確立と将来の環境リスク管理のさらなる発展を目指し、(1)リスク評価の効率化を目指した研究、(2)リスクコミュニケーションに向けた情報提供方法の開発、(3)リスク評価の高精度化を目指した研究の分野で7つの研究課題を実施した。

2.報告書の要旨

(1)リスク評価の効率化を目指した研究
課題1 少ない情報に基づく曝露評価手法の開発

 環境濃度予測システムとして多媒体モデル(MuSEM, 図1)を完成させ、実測値との比較検証を行なった。多摩川と鶴見川のモデル化、東京湾を対象海域として3次元モデルを構築し、ビスフェノールなどの実測値を用いてモデルの検証を行った。また、湖沼の垂直二次元モデルを開発し、4年間に及ぶ水質実測データを用いてモデルの検証を行った。不検出値を含むモニタリングデータセットから母集団の代表統計量の信頼区間を予測する統計手法を開発し、ビスフェノールAやノニルフェノールなどの実測結果を用いて妥当性を検証し、環境濃度の経年変化の傾向を解析した。

図1
図1 ホームページより公開中の環境中濃度予モデルMuSEMとリスク評価のフロー
(http://www.nies.go.jp/rcer_expoass/musem/musem.html)

課題2 生物種別の毒性試験に基づく生態リスク評価手法の高度化

 化学物質の構造から生態毒性を推定する構造活性相関手法(図2)を開発した。また、OECDのテストガイドラインを中心として、新たな生態毒性試験法の開発・検証を行い、(1)ウキクサ生長阻害試験の標準試験手順のとりまとめと国内ラボ3機関のリングテストを実施、(2)着色性物質の藻類試験法の実施と化審法下での試験手順の検討、(3)土壌の生態影響試験法;ミミズの急性・繁殖試験およびトビムシ繁殖試験の有効性検討に着手した。新たに改訂もしくは新規提案されたOECDテストガイドラインに対して独自の検討と試験結果に基づく修正提案を行った。

図2
図2 魚類に対する構造活性相関システム(公開予定)と予測結果

(2)リスクコミュニケーションに向けた情報提供方法の開発
課題3 リスク情報加工・提供方法の開発

 統合的データベースを作成し、これを活用して情報提供を行うとともに、リスク情報の伝達のあり方を検討した。1963年から現在までの県別出荷量の推移を推計した。さらに、単位農地面積当たりの出荷量などの推計結果を整備したほか、残留農薬に対する新たな基準(一律基準)が農薬のリスク評価結果に及ぼす影響を解析した。また、化学物質の一般情報や水生生物に対する生態毒性試験結果、環境濃度予測モデル、農薬情報に関するデータベースを作成・改良し、化学物質分析法データベース(EnvMethod、図3)などとして公開を進めた。

図3
図3 新たに構築された化学物質分析法データベース(EnvMethod)とWebGIS
※EnvMethodで公開していた情報は2019年1月にリニューアルした「化学物質データベースWebkis-Plus」内で公開しています。

(3)リスク評価の高精度化を目指した研究
課題4 空間的・時間的変動を考慮した曝露評価手法の開発

 GIS多媒体モデルG-CIEMSを用い、信濃川流域中流部を選び、実測濃度の範囲と平均値において、観測濃度の範囲とほぼ対応する予測濃度分布が得られることを示した。魚介類の産地別の濃度変動を、人へのダイオキシン類曝露評価に反映させるための検討を行ない、産地別の魚介類実測濃度から、トータルダイエット調査等の食事調査で測定された曝露量分布をほぼ再現できることを明らかにした(図4)。また、ダイオキシン類及びPOPs農薬成分の経年的インベントリの作成を行い、人の乳児・小児、大人を対象としたPBPKモデルを構築し、成長に伴う蓄積量の変化をモデル化した。

図4
図4 環境中濃度から流通過程を考慮した魚介類経由のダイオキシン摂取量推定

課題5 感受性要因の解明とそれを考慮した健康リスク管理手法の開発

 中国における慢性ヒ素中毒発症地域住民の尿中ヒ素代謝物(無機ヒ素、モノメチルアルソン酸、ジメチルアルシン酸)の定性・定量分析を行い、人によってメチル化の程度が3倍程異なることなどを見いだした。ヒ素メチル化酵素であるヒトリコンビナントCyt19を作製し、培養細胞を用いて細胞内取込みメカニズムを検討したところ、無機ヒ素がグルタチオンによる抱合を受けた後、Cyt19によりメチル化されると推測された。細胞毒性の違いは、細胞内への取込み量の差異により説明されることも明らかとなった(図5)。また、ヒ素メチル化酵素の一塩基多型頻度を調べた結果、多型が認められた。

 薬物代謝酵素活性の欠損による発がん物質に対する感受性の変化を、第II相薬物代謝酵素のレベルが著しく低下しているマウス(Nrf2-KOマウス)で検討した結果、2倍上昇することを明らかにした。

図5
図5 ヒ素の代謝メカニズムと毒性

課題6 複合曝露による健康リスク評価手法の開発

 相加性を仮定して複合発がんリスクを算出した。都道府県別のリスク分布図を作成し、リスクを分かりやすく表示した(図6)。同様に飲用水中の発がんリスクについて、上水道原水及び浄水の水道水質データベースのデータを用いて試算を行った。ベンゼンを例として毒性作用機構を考慮して吸入による発がんリスクの他の化学物質による修飾に関する検討を行ったが、実際の環境中では相互作用は無視できる程度であると考えられた。

図6
図6 複合発がんリスクの試算結果
 各物質の大気中濃度は平成13年度及び14年度の地方公共団体等における有害大気汚染物質モニタリング調査結果を使用した。* 秋田,山梨,長野,福井の各県ではホルムアルデヒドの測定が行われていないため,4物質による複合発がんリスクを示した。そのため他の都道府県より発がんリスクが低めの値となっている。

課題7 リスク管理へのバイオアッセイ手法の実用化

 DEPとDEP抽出物の比変異原性(単位重量あたりの突然変異頻度)の比較から、ディーゼル排気の変異原性が、DEP・DEP抽出物の気管内投与で評価できることが示唆された。肺など幾つかの標的臓器では、化学物質を曝露した実験動物のin vivo変異原性と発がん性の間によい相関性があることを見出した。変異原物質検出用遺伝子導入ゼブラフィッシュ(図7)を用い、胚に誘導された突然変異の成魚への残存割合を定量的に明らかにし、胚期に発生した突然変異は成長過程で修正されず、成魚に残存することが明らかとなった。

図7
図7.変異原試験法(エームス法と遺伝子導入動物による方法の比較

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