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国立環境研究所における温暖化現象解明研究

プロジェクト研究の紹介

坂東 博

 国立公害研究所から国立環境研究所への改組に伴い、地球規模の環境問題を取り扱う地球環境研究グループが新たに組織され、その中で、温暖化現象解明研究チームはその名が示すとおり地球の温暖化にかかわる諸現象について、主として機構解明の立場から研究するチームとして発足した。

 地球の温暖化については、化石燃料の燃焼から放出される二酸化炭素が大気中に蓄積し、その濃度増加が現実に温暖化を引き起こしているらしいことが、種々の研究から明らかにされつつある。一方、メタン、亜酸化窒素、ハロカーボン、オゾン等の微量成分気体の濃度も現実に増加し続けており、これらの温室効果が近い将来において二酸化炭素と同程度に温暖化に寄与するという推定もなされている。しかし、二酸化炭素とハロカーボン以外の温室効果気体の大気中濃度の増加の原因については不明の部分が多い。また、二酸化炭素についても、放出と大気からの除去に関する現在の知見から計算される大気中残存量は、現実に観測されている大気中濃度の増加量に比べ高く、その収支が合っていない。このように、温暖化の原因である温室効果気体自身の動態把握といった出発点の問題ですら未解明のままに、限られた科学的知見に基づき温暖化の推定が行われているのが現状である。

 このような状況を踏まえて、当研究チームでは、以下のテーマを主な研究課題として、研究を開始した。なお、これらの研究テーマは、環境庁が今年度から新たに設けた地球環境研究総合推進費の下に行われるので、その構成に沿った形で研究内容の紹介をする。

(1)温室効果気体等の組成・濃度の時間的・空間的変動の動態解明に関する研究

 温室効果気体として重要なメタン、亜酸化窒素、オゾンに加え、温室効果気体の生成と消滅に影響を与える他の大気微量成分(非メタン炭化水素、一酸化炭素、有機硫黄化合物等)の分析法を確立し、濃度測定を行い、それらの物質の大気中での分布と時間変動を明らかにする。本研究では、フィールド測定を主な手段として、温暖化に関係する大気微量成分の動態を明らかにし、その対流圏化学の解明を行う。

(2)メタン・亜酸化窒素の放出源及びその放出量の解明に関する研究

 大気中のメタン及び亜酸化窒素濃度の増加が報告されてから既に10年が過ぎようとしているが、これらの濃度増加の原因に対する一致した見解は得られていない。従って、ここでは両気体の各種放出源における放出量とその変動についてフィールド測定を中心に調査を行い、さらにその発生メカニズムについても検討し、放出源別に温暖化に対する量的評価を明らかにするための基礎データを得る。当チームでは、特に、閉鎖性水域及びバイオマス燃焼の寄与について研究を行う。

(3)温室効果気体等の大気化学反応過程の解明に関する研究

 温室効果気体及びその生成と消滅にかかわってくる他の大気微量成分の大気化学反応に関して、光化学反応チャンバー実験や物理化学的反応実験によって、個々の化学反応の機構及び速度を明らかにする。本研究では(1)と関連して、室内実験により対流圏化学を構成している化学反応に関する基礎データを得ることを目的として研究を行う。

(4)海洋における炭素の循環と固定に関する研究

 海洋は大気中二酸化炭素の除去過程の中で重要な役割を果たしているが、その寄与は定量的に十分把握されていない。海洋における炭素除去は、表層で形成された粒子の沈降による鉛直輸送が実質的にほとんどを占める。本研究では、長期にわたる沈降粒子補集装置の係留等によって、外洋域における炭素除去量を明らかにする。これにより、海洋が大気中二酸化炭素の除去過程の中で果たしている役割を定量的に明らかにする。

(5)陸上生態系における炭素循環機構の解明に関する研究

 二酸化炭素収支不一致の最も大きな誤差要因となっていると考えられている植物生態系の炭素循環を定量的に把握するために、自然林を対象にその炭素収支をフィールド測定により明らかにする。さらに、人工気象室を用いた栽培実験を行うことにより、二酸化炭素濃度が増加した時点における植物生態系の二酸化炭素吸収能力を推定することを試みる。

(6)気候変化にかかわる雲の大気物理過程の解明に関する研究

 雲はアルベド効果(太陽光反射)と温室効果を持ち、気候決定の重要な要素の一つである。しかし、雲の発生と分布に関する定量的な理解が著しく不足しているため、気候モデルの最も不確実な要素の一つとなっている。本研究では、雲分布に関する気象データの綿密な解析と湿潤対流の理論的考察から雲の力学的性質を解明することにより、気候変動モデルにおける雲の記述に関する精度の向上を図る。

 以上の研究テーマの多くは、国立公害研究所時代において、昭和62年度からの特別研究「地球温暖化にかかわる炭素系微量成分のグローバル変動に関する先導的研究」、平成元年度からの総合特別研究「地球温暖化にかかわる大気成分の環境動態の解明に関する研究」の中でなされてきた研究が発展してきたものである。従って、その間の研究実績の蓄積、成果を財産として受け継ぎながら、温暖化現象解明の研究に新たなアプローチを加えることも今後の課題であろう。

 温暖化現象解明研究チームは現在5人の研究メンバーであり、上で述べた広範囲の研究テーマを推進するためには、総合部門の他のチームを始め基盤研究部門、地球環境研究センター、国立環境研究所外の研究者の援助があって初めて成り立つものであることは言を待たない。今後のご協力をお願いする次第である。

(ばんどう ひろし、地球環境研究グループ温暖化現象解明研究チーム)