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巨大システム科学の広場をめざして−地球環境研究センターの発足

その他の報告

西岡 秀三

 1990年10月1日、地球環境研究センターが国立環境研究所内に設置された。使命はその名から明らかである。地球環境問題に、研究すなわち人知の拡大の面から対処するセンターである。センターとは求心力であり、広場である。研究所内に設けられてはいるが、姿勢は外に向かって開いている。

 地球環境は巨大なシステムである。大気・水・生物からなる複合体は、いつまでたっても解明できるものではない。人間は科学の名のもとに興味のおもむくままにこれを解析してきた。地球環境は人間の側からみると人類生存の基盤である。人間社会は技術を駆使して、人間の欲求のおもむくままにこれを利用してきた。

 地球環境問題が、科学と社会の両者の「すりあわせ」の必要性を提起した。科学は、人間の好奇心に基づく解明の域を一歩出て、社会からの問いかけに研究の成果でこたえねばならない。また社会は、世代を超えて持続可能な生存基盤を確保するために、科学の示すところを真摯に受け止め、人間の生き方、技術の使い方にまでさかのぼって変えていかなくてはならない状況にある。

 両者の間にあって、地球環境研究は、方向性を有する「巨大システム科学」へと変貌せざるをえない。地球環境の100年先を見通した10年先の目標は何か。それに向かってどのように資源を振り分けて行くのか。「センター」はその方向付けの求心力でありたい。といっても天下りの求心力では世の中は動かない。差し当たり「広場」となって衆知を集めて進むべき方向を定めたい。

 地球環境研究センターには、広場の「ベンチ」がわりにいくつかの仕掛けがある。

 第1はセンターが行う総合化研究である。これは研究の目標を見定めるための、すべての分野別研究を横断的に含む研究であり、地球環境研究の成果を社会に示す窓口である。今どんな研究がいるのか、進行中の研究の成果は何を意味するのかを世界モデルなどを駆使して分析し、研究の方向を検討するための道具だてとしたい。

 第2は環境庁が平成2年度から新たな予算枠で開始した、各省庁横断的な地球環境研究総合推進費の進行管理である。研究参加者の協力を得て研究状況を十分に把握し、積極的に次期の計画に反映させてゆく仕掛けを考えたい。

 第3は地球環境研究のための施設の提供である。来年度にはスーパーコンピュータの導入を予定し、地球環境モデルによる予測や観測データ処理を行う。長期的には共同利用の観測機器、航空機、船舶などの提供もこの範ちゅうに入る。世界の環境情報を集めた、研究の方向付けに役立つデータベースの構築も進行中である。

 第4は地球環境モニタリングである。地球環境の論争に科学から貢献できるデータの取得である。差し当たり日本を中心とした南北、東西の線での観測から始め、大気・水・生物圏にわたる国際ネットワークの構築にもってゆきたい。

 広場での主役は国公立研究機関、大学等国内外のあらゆる地球環境研究者である。センターは狂言回しの役は務めるが、それ以上でない。観客は次世代により良い環境を残したいと願う国民各層、日本の貢献を見守る世界の人たちである。ここ5年は広場の整備に全力を挙げながら、広場に集う研究者の共通認識を形に残してゆきたい。センターの成果はすぐには見えにくいかも知れない。広場 (アゴラ) での論議がギリシャ哲学を生んだように、100年後に何かが残せるか、責任は重い。皆様の参加に期待している。

(にしおか しゅうぞう、地球環境研究センター総括研究管理官)