生物関連研究の新たな体制
論評
菅原 淳
新しい組織になって,基盤研究部門で生物関連の研究を担当する部は,その名称も生物圏環境部と改名され,これまでの生物環境部よりも,一周り大きい研究内容に取り組むことになった。すなわち,従来の七公害に関する研究に加えて,自然環境保全に関する研究も所掌に組み入れられ,自然環境保全担当の上席研究官が配置された。研究室の編成も改組され,これまで環境問題に深く係わっている微生物関連の研究体制が,研究所としてばらばらであったのを,環境微生物研究室を新設して,統一して対応することになったのをはじめ,植物対象の研究室として環境植物研究室,生態系の構造と機能を解明する生態機構研究室,分子のレベルで生理生化学的機構や遺伝学的解析を行う分子生物学研究室の4室が設置された。
総合研究部門の生物関連研究体制として,地球環境研究グループに森林減少・砂漠化研究チーム及び野生生物保全研究チームが設置され,生物圏環境部の自然環境保全担当の上席研究官がこれらを統括することになった。一方,地域環境研究グループでも,化学物質生態影響評価研究チーム及び新生生物評価研究チームが設置され,それぞれ,有害化学物質の生態系に及ぼす影響の評価及び遺伝子組換えによる新生生物の開放系利用における影響評価に関する研究を遂行することになった。
従って,従来の生物環境部の5研究室に所属していた研究者達は,前述の基盤研究部門4研究室,総合研究部門4チームを中心に配属され,さらに,地球環境研究グループ温暖化現象解明研究チーム,地域環境グループ湖沼保全研究チーム等に配属され,新天地で新たな気概で研究に取り組むことになった。また,基盤研究部門の研究者達は,各人の希望する総合研究部門の各チームの準構成員として参画し,協力して研究を遂行することになった。
さて,以下に生物圏環境部の各研究室の研究概要を紹介しておく。
環境植物研究室においては,環境変化が植物や植生に及ぼす影響及びこれらに対応する植物の反応性について,生理生態学的見地から研究を行う。すなわち,植物の生理機能の変化を,クロロフィル蛍光の誘導期現象の変化や気孔開度の変化を画像解析により非破壊で解明するユニークな研究を進める一方,野外調査や室内実験を通じて,植物の環境適応性,環境緩和機能について研究を行う。環境微生物研究室においては,環境汚染や環境浄化に係る微生物の分類,増殖,生理特性,生態等に関する研究を行うとともに,遺伝子資源としての微生物,特に藻類の系統保存に関して,凍結保存法の開発,株特性のデータベース構築等の研究を行う。
生態機構研究室においては,従来の環境汚染物質による生態系のかく乱とその回復に関する研究に加えて,自然環境保全のための生態系管理の立場から,生態系の構造,物質循環,エネルギー移動,生物間の相互作用等に関する研究を行う。
分子生物学研究室においては,環境汚染物質の生理機能に及ぼす影響を,個体,細胞さらには分子のレベルで解析すると共に,環境ストレスによる生物影響を,フリーラジカル生成,ストレス蛋白誘導,遺伝子発現等の面から解明して行く。
上席研究官は,自然環境保全及び遺伝子資源の保存に関する研究を担当することになるが,今後積極的に体制構築に向けて努力すると共に,当面は,地球規模の自然環境保全問題である森林減少・砂漠化及び野生生物保全を担当して研究を行うこととなった。
目次
- 国立環境研究所の発足に寄せて巻頭言
- 嵐に向かって翔べ論評
- 国立環境研究所組織の紹介論評
- 新たな研究所における研究企画の役割論評
- 国立環境研究所記念式典を挙行所内開催又は当所主催のシンポジウム等の紹介、報告
- 研究支援体制の役割論評
- 地球史,人類史の中での地球環境研究 −地球環境研究グループの発足にあたって−論評
- 「自然環境保全研究分野」の研究について論評
- 「環境保全対策分野」の発足に当たって論評
- 「環境リスク評価分野」の発足に当たって論評
- 社会環境システム部とは論評
- 化学と環境と論評
- 環境健康部の役割論評
- 基盤研究部門としての大気圏環境部論評
- 水・土壌・地下環境の保全をめざして論評
- 環境情報のセンターを目指して論評
- 地球環境研究センターの任務 —地球環境の保全に向けて全体像の構築を—論評
- 環境研修センターの紹介論評
- 第13回 研究発表会、特別講演会報告所内開催又は当所主催のシンポジウム等の紹介、報告
- 編集後記