社会環境システム部とは
論評
後藤 典弘
新しい国立環境研究所の基盤研究部門の一つとして「社会環境システム部」ができた。この名称だけでは内容がよく分らないし,また旧組織における総合解析部や環境情報部と同様,国立の試験研究機関にはめずらしいソフト研究を中心とする研究部なので,ここで改めて,どのような構成で,何をめざし,どんな研究を,どんな方法で行うのかを概略説明してみよう。
環境問題は,地域の公害問題から最近特に関心の高まった地球環境問題に至るまで,すべて人間活動が原因であり,またそれが,われわれの外囲である種々の環境を介して,人間の生存,生活,経済活動等に結果的に回帰してくる問題であるといえる。この意味で,環境問題は一面すぐれて社会的な問題でもある。従って,環境を保全するための研究にあっては,たんに種々の環境事象やプロセスを(自然)科学的に解明,その変化を予測するだけに止まらず,同時にその原因となる人間行為や環境を通して結果として受ける影響等についても,その関係を解明する必要がある。また,これらを総合的に解析・評価するなどし,社会的にも経済的にも実効性のある環境保全の対策,システム等を提案・計画していくことがより一層大切であると考えられる。
このような観点から,社会環境システム部では“環境の保全に関するシステム工学的,社会・経済学的及び情報科学的試験研究及び調査”—『国立環境研究所組織規則』より—を行うということになっている。つまり,各種の学問的方法を用いて環境の保全に関するソフト研究を行うことになっている。
この所掌事務だけからすると,いくら基盤研究部門といっても,広範な領域の又膨大な研究対象が想定されるが,一方,限られた予算,定員,施設等の研究資源からして,当然できることはきわめて限定されてくる。従って,こうした制約条件下で,よい成果をだすべく,どのような研究課題を選んで部を効率的に運用していくかは,過去の蓄積や経験もふまえ,部の研究者とともに予め十分検討する必要があるといえるだろう。
とはいえ,当部は,さしあたって,旧総合解析部及び環境情報部の基盤的研究部分を引き継ぐこともあり,当面その研究資産や蓄積をベースにスタートし,その上で順次新しい研究課題を加えていこうと考えている。今のところ,部の構成としては,環境経済研究室,資源管理研究室,環境計画研究室及び情報解析研究室の4研究室であり,いずれも定員4名の小さな研究室である。
さて,これらの研究室で今後どのような研究を展開していくかについては,紙幅の関係で,ここでは詳しく述べる余裕がないが,次のようないくつかのポイントになる研究が考えられる。
重要な環境問題に対し,考えられる各種の環境保全施策について,そのオプション選択に有用な費用便益分析を含む経済学的及び政策科学的な解析・評価研究。
環境保全に重要な物質やエネルギー等資源の循環,制御に関する解析・評価研究。
都市等の人口集中地域で,より良い生活環境を求め創造するための計画研究。
環境の状況に関する画像情報等のデータを駆使し,より合理的な環境保全を図っていくための解析・評価研究。
以上,担当の社会環境システム部の紹介を試みたが,どうも舌足らずになってしまったようだ。最後に幸い環境問題に対する世間の関心も高まっている折,専門家として大いに環境保全に対する知恵をしぼりだそうと思っていることだけを付け加えておこう。
目次
- 国立環境研究所の発足に寄せて巻頭言
- 嵐に向かって翔べ論評
- 国立環境研究所組織の紹介論評
- 新たな研究所における研究企画の役割論評
- 国立環境研究所記念式典を挙行所内開催又は当所主催のシンポジウム等の紹介、報告
- 研究支援体制の役割論評
- 地球史,人類史の中での地球環境研究 −地球環境研究グループの発足にあたって−論評
- 「自然環境保全研究分野」の研究について論評
- 「環境保全対策分野」の発足に当たって論評
- 「環境リスク評価分野」の発足に当たって論評
- 化学と環境と論評
- 環境健康部の役割論評
- 基盤研究部門としての大気圏環境部論評
- 水・土壌・地下環境の保全をめざして論評
- 生物関連研究の新たな体制論評
- 環境情報のセンターを目指して論評
- 地球環境研究センターの任務 —地球環境の保全に向けて全体像の構築を—論評
- 環境研修センターの紹介論評
- 第13回 研究発表会、特別講演会報告所内開催又は当所主催のシンポジウム等の紹介、報告
- 編集後記