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河川の環境の指標としての底生動物

経常研究の紹介

佐竹 潔

 底生動物を河川の指標として見るのには,いくつかのとらえ方がある。代表的なものは,『耐性種』というとらえ方。この場合,指標としての性格は比較的はっきりしている。例えば,BODの高い河川に出現するイトミミズやセスジユスリカ,あるいは重金属汚染地区に見られるシロハラコカゲロウやある種のユスリカなどが知られている。

 しかし,環境要因も時間とともに大きく変動することが多く,それにともない底生動物の分布も変わる。ここでは,底生動物がほとんど生息しない状態からの回復過程に見られるパイオニア的な種類について考えてみたい。

 伊豆の修善寺町の古川で夏に第三世代農薬のディフルベンゾロンの底生動物群集に与える影響を調査した。この農薬はキチン合成を阻害するので,水生昆虫は脱皮や羽化に失敗して死んでしまう。農薬の投入から2週間後にはアカマダラカゲロウをはじめとするほとんどの底生動物が死に絶えた。その後の回復の速さは地点によりまた種により異なった。農薬の投入地点より50m下流ではコカゲロウ類が3週間後に高い密度で出現した。この種類は移動力が大きく,上流部から流れてきた個体が定着したと考えられた。農薬の投入地点より1km下流では4週間後にコカゲロウ類・ユスリカ類・ウスバヒメガガンボ・ブユなど世代時間が短い種類が高い密度で出現した。一方,1年に1から2世代しかくりかえさないシマトビケラ類は4週間後にほとんど回復しなかった。この時の回復過程にみられた種類の特徴は移動力が大きいか世代時間が短いかであった。逆にそのような種類に着目することによって,『過去に何か起こったのでは?』と考えることができる。

 ただし,底質なども底生動物の分布に大きな影響を与えるので,いつもこうなるとは限らない。木曽の御岳山が噴火してから数ヵ月後に,友人の脅しにもめげず,開田高原の河川を1人で調査しに行った。西野川の本流は何ともなかったが,ある小さな支流で異様な光景を見た。もろもろした赤茶色の火山灰で河床が覆われており,付着藻類も全く生えず,ただ,落葉と落枝が火山灰の間から見えかくれしていた。そこでは,落葉で巣を作り落葉を食べるカクツツトビケラの仲間が優先していた。このような特殊な環境では餌と生息に適した空間を確保した種類のみが増えることができる。

 以上のように底生動物は環境要因の変動に対して鋭敏に反応するが,その際に重要なのはそれぞれの種類が持っている耐性や生活史・生活様式。残念ながら,現時点ではこれらに関する情報は不足しているので,今後,データーベース化あるいは研究者同士の横のつながりも考えて行きたい。

(さたけ きよし,生物環境部水生生物生態研究室)

グラフ 殺虫剤投入後の経過時間(週)