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2020年2月26日

PM2.5は今どうなっている?

特集 PM2.5など大気汚染の現状と毒性・健康影響

高見 昭憲

 日本においては2009年9月にPM2.5の環境基準が告示され、環境省のホームページに示されている通り年間の平均値は15µg/m3、一日の平均値は35µg/m3と定められました。PM2.5とは、大気中に浮かぶ粒子状物質(PM)のうち、粒径が2.5µmより小さい粒子を指します(正確な定義は環境省のホームページを参照してください)。同年から標準測定法とPM2.5自動測定機の等価性評価が実施され、承認を受けた自動測定機による観測が2010年から始まりました。標準測定法とは環境大気常時監視マニュアルで規定されているように、濾過(フィルター)法を用いて24時間PM2.5を捕集し、特定条件下で秤量して、PM2.5の質量濃度を測定する方法です。2010年ごろは都市部を中心に測定が行われていましたが、徐々に測定局も増加し、「平成29年度・大気汚染の状況」の報告では1,000箇所以上で観測が行われています(一般局 814局、自排局 224局)。

 2013年(平成25年)1月末に中国で起きた微小粒子状物質(PM2.5)の高濃度現象がマスメディアで多く報道されました。当時、北京では時間値の最大が993µg/m3を記録し、同時期の日本でも日平均最大値が50µg/m3を超過する地点があったとされています。あれから数年が経過し、国内のPM2.5濃度は減少傾向にあり、2017年度(平成29年度)には80%以上の観測地点で環境基準が達成されました。環境基準達成の要因として、鵜野らは中国での排出量・濃度の減少を挙げています(大気環境学会誌 52号(2017)177-184)。中国での排出量減少が続くとPM2.5濃度に対する越境大気汚染の寄与はかなり少なくなり、大気環境はかなり改善されると思われます。

 このようにPM2.5の環境基準は多くの測定局で達成されていますが、東京、大阪など大都市部、瀬戸内海沿岸地域、九州地区ではまだ達成されていないところもあります。越境大気汚染の寄与があまり考えられない関東でも高濃度のPM2.5を観測する場合があり、国内の排出源からの寄与を検討する必要があります。また、環境基準設定時にはPM2.5の健康影響についての国内での知見が少なく、毒性や健康影響を解明する必要もありました。

 このような状況のもとで、我々は国立環境研究所の安全確保研究プログラムの中の第6番目のプロジェクトとして「PM2.5など大気汚染の実態解明と毒性・健康影響に関する研究プロジェクト(PJ6)」を開始しました。大気質モデルの精度向上と疫学的知見の収集を中心として研究を進め、

  • 大気汚染物質の発生源や原因物質の排出削減対策の方向性の提示
  • 注意喚起情報の発信
  • 健康影響の解明(毒性評価・疫学による健康影響評価)
を目的として研究開発を行い、大気環境管理を通じて安全確保社会の実現に貢献することを目指しています。

 今回の特集では、大気・毒性・疫学の研究内容を紹介します。大気系の研究では大気モデルの性能向上を目指し、モデルの検証のための有機化合物や指標物質の観測や、大気チャンバーを用いた室内実験によるPM生成プロセスの理解、二酸化硫黄や窒素酸化物など大気汚染物質の排出源や排出量のデータベース(排出インベントリ)作成を行っています。改良した大気モデルの結果を用いて注意喚起情報を発信し、また、排出インベントリの排出量を変化させるモデル実験を通じて、どこでどのような物質の排出を抑制するのが効果的かを検討します。詳しくは「研究ノート」や「環境問題基礎知識」をご覧ください。また、健康影響の研究ではPM2.5そのものや、PM2.5に含まれる化学成分がどのように毒性を発現し、結果的に人の健康に影響を与えるのかを、細胞を用いた実験や、大規模な大気汚染データや健康影響データを用いた疫学研究で明らかにしようとしています。健康影響の研究については「研究プログラム紹介」で解説します。本稿によってPM2.5に対する理解を深めていただければと思います。

(たかみ あきのり、地域環境研究センター センター長)

執筆者プロフィール

沖縄、長崎、福岡、熊本などで長く越境大気汚染やローカルな汚染に含まれるPMの化学組成について観測を行ってきました。近年その組成が変化していることに興味を持っています。

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