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循環型製造技術を活用した低炭素・循環型社会の形成

【環境問題基礎知識】

橋本 禅

 「循環型製造技術」は,通常の製品製造プロセスではこれまで廃棄されてきた廃棄物や排熱,排水を,再び,別のあるいは同じ製品の製造プロセスにおける新規資源として活用する技術のことです。循環型製造技術は,循環型社会の形成と低炭素社会の形成とを同時に実現する環境技術の一つとして挙げることができます。

 このような技術が国際的に関心を集め始めたのは,1989年にフロッシュとギャロポラスが“製造業のための戦略”としてサイエンティフィック・アメリカンに発表した論文がその端緒といわれています。著者らはこの論文の中で,自然生態系にならい,産業エコシステムの概念を提唱しました。産業エコシステムは,エネルギーや資源の最適な利用と廃棄物や汚染物の最少化を志向し,かつ経済的にも実現可能な概念であるとされています。彼らはその先駆的事例としてデンマークのカルンボーにおける企業群の取り組みを紹介しました。カルンボーでは,1960年代頃より,地域の企業群が地方政府と連携し,工場排熱を地域の暖房熱源として供給する取組み,薬品工場の有機系廃棄物をコンポスト化し,周辺農家に提供する努力が進められており,循環型社会における企業と政府,社会の連携の理想的な事例として国内・外で頻繁に紹介されています。

 わが国では1990年代半ば頃から,「ゼロ・エミッション構想」(ある産業から出る全ての廃棄物を他産業の原料や燃料として利用し,廃棄物の排出ゼロを目指す概念)や,「インバース・マニュファクチャリング」(製品ライフサイクルを閉じたループにすることを目指す概念)の考えが提唱されてきました。1997年には厚生省と通商産業省が,国連大学のゼロ・エミッション構想を推進し,既存の産業技術等の蓄積の活用と環境産業の振興を通じた経済振興と,総合的な廃棄物の発生抑制とリサイクルの推進を通じた資源循環型経済社会の構築を実現するために「エコタウン事業」を創設しました。以降2006年までに,本事業を通じ,全国で26の都市と地域がエコタウンに指定され,循環型製造技術を組み込んだ製造施設を含め61のリサイクル施設の建設が補助されました。例えば,川崎エコタウンには,廃プラスティック(廃プラ)をガス化し,製鉄プロセスでコークスの代替品として鉄鉱石の還元反応に利用する高炉還元施設,同じく廃プラをガス化させ,アンモニア製造に用いる合成ガスを取り出す廃プラアンモニア原料化施設,ミックスペーパーや機密書類等の難再生古紙をトイレットペーパーロールにリサイクルする古紙再生施設が建設されています。また,全国のエコタウンの周辺では,107のリサイクル施設が非補助で建設され,単独に,あるいは周辺の施設と連携しながら,わが国の循環型社会を形成する基盤として機能しています。例えば先ほどの川崎エコタウンで操業するセメント製造企業は,政府からの補助を受けず独自にセメント製造施設の改良を行ないました。この改良により,周辺で発生する廃プラ,酸性廃液,汚泥,スラグ等をセメントの原料や燃料である石炭や粘土の代替資源として受入れ,利用する体制が構築されました。こうした循環型製造技術の活用により,各種製品の製造プロセスで利用する天然資源を,廃棄物により代替することが可能となり,天然資源の採掘や輸送,前処理などに伴う環境負荷の削減,さらには廃棄物の焼却や埋め立て処分に伴う環境負荷の削減・回避が実現できます(図)。我々の調査では,これら循環型製造技術の活用により川崎エコタウンだけでも,年間約25万2千トンのCO2排出削減,約56万5千トンの廃棄物の焼却・埋立回避が実現されていることがわかっています。

廃棄物資源のフロー図(クリックで拡大表示)
図 川崎市エコタウンを中心とした川崎市内で発生する廃棄物資源の流れ

 わが国では,第2次循環型社会形成推進基本計画で,地域の特性や循環資源の性質に応じて最適な規模の循環を形成する「地域循環圏」の形成が打ち出されていますが,循環型製造技術を擁するエコタウンは,地域循環圏形成の核として機能し,循環型社会の形成と低炭素社会の形成に貢献することが期待されています。循環型製造技術にみられる廃棄物による化石燃料や新規資源の代替は「コ・プロセッシング」とも呼ばれています。コ・プロセッシングは,枯渇性資源の利用の削減や最終処分量の削減,さらには関連する環境負荷や温室効果ガスの排出削減に有効であることから,その効果や可能性を,現場の経営者や技術者さらには政策立案者やその他の利害関係者に対してより積極的に発信しようとする動きもあります。

 ところで,環境負荷の削減は循環型製造技術のみにより実現されるわけではありません。エコタウン事業によりリサイクル施設の建設が補助される一方で,廃棄物の処理及び清掃に関する法律が1997年,2000年に改正され,適正処理やリサイクルの推進,排出者責任の強化,不法投棄等の不法行為に対する罰則強化等が図られました。また,廃棄物資源の循環利用を促進するために循環型社会形成推進基本法(2000年施行),資源有効利用促進法(2000年施行),容器包装リサイクル法(2000年完全施行),家電リサイクル法(2001年施行)等の法制度が相次いで整備されました。エコタウン事業により補助対象となった61施設のうち,廃プラを対象とするものが20施設(全体の約33%),廃家電製品や廃電気・電子機器を対象とするものが7施設(全体の11%)となっているのは(以下,金属くずが5施設,廃木材5施設等と続く),これら法制度の拡充をより効果的なものにするためとも評価できるでしょう。つまり国は,廃棄物の適正処理やリサイクルを推進する法制度の拡充を通して廃棄物資源の利用を促進する一方で,エコタウン事業の創設により,廃棄物資源の受入れ基盤となる循環型製造施設を含めた各種リサイクル施設の建設を進めてきたのです。

 わが国で培われた循環型製造技術も,そのままではアジアをはじめその他地域で有効に機能する保証はありません。各国・地域の事情,例えば,当該地域の産業基盤や経済の水準,国民の環境政策への理解等を十分に踏まえ,技術の導入や制度の施行を考える必要があり,今そのための調査・研究が求められています。

(はしもと しずか,アジア自然共生研究グループ
環境技術評価システム研究室)

執筆者プロフィール

橋本禅の顔写真

 様々な組織と分野をわたり歩き2007年4月からアジア自然共生研究グループで循環利用中。