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気候変動問題はどのように理解されているか

【研究ノート】

青柳 みどり

1.温暖化の影響についての認識と理解

 気候変動もしくは地球温暖化の問題について,人々はどのように理解しているのでしょうか。図1は2006年3月の筆者らの全国成人男女を対象とした無作為抽出による調査の結果から「日本で最も重要な環境問題」について1997年,2002年,2006年の3ヵ年の回答分布(%)を示したものです。2006年に「地球温暖化問題」が突出して伸びていることがわかります。以前は廃棄物問題が最も多かったのですが,2006年にはこれに肩を並べるほどになりました。

 ところが,この温暖化問題の認知は高くなったのですが,まだまだ様々な問題があることが分かっています。その一つはオゾン層破壊の問題との混同です。図2は図1の2006年の調査と同じ調査の中で得られた回答です。「地球温暖化の影響で最も深刻なもの」について,選択肢式で3つまで選んでもらったところ,59.6%が「オゾン層の破壊」を選択しました。気候変動とオゾン層の破壊の関連については,現在研究が進められているところで,その関連については現段階では未解明な点が多いとされています。したがって,現段階では「最も深刻なもの」としては正解とは言えないのです。

 このような傾向は日本だけで見られるものではありません。Kemptonというアメリカの人類学者らの1992年の調査結果では,「温室効果ガスは大気汚染物質になぞらえて理解され,温室効果ガス増加の結果は過去の公害問題のように何らかの人体の健康影響(人体への発がん可能性)をもたらすものとして理解され,オゾン層破壊との関連を疑われていた」とのことです。

 2004年にはハリウッド映画“The Day After Tomorrow”が日本を始めとする世界80ヵ国以上で同時公開されました。イギリス,ドイツ,日本(筆者),アメリカのそれぞれの国の大学や研究所ではこの映画鑑賞者を対象とした意識調査を実施しました。この一つ,ドイツのポツダム気候変動研究所では,2004年10月にこれら4ヵ国5機関の調査結果を相互に検討するためのワークショップを開催しました。このときの結果によると,日本,ドイツでは図2と同様の設問を用いて聞いたところ,映画鑑賞前には,日本では76%,またドイツでは71%の回答者が,「気候変動の最も深刻な影響はオゾン層破壊である」を選択しました。両国において,「気候変動の最も深刻な影響はオゾン層破壊である」という広く理解されていることが分かったのです。映画観賞後には,両国ともにその割合は減少したのですが,それでも半数以上の回答者がこの選択肢を選んでいました。これは,この間違った理解がかなり固く信じられていると考えられます。イギリスのティンダール・センターの調査結果では,映画の中での急激な気候変化の原因について15.6%がオゾン層破壊だと回答していました。つまり,オゾン層破壊は気候変動の原因とする理解も,また結果とする理解もあるということが分かります。ちなみに上記のいずれの調査においても設問中では「フロン類」ではなく「オゾン層破壊」を用いています。

日本で最も重要な環境問題の調査結果グラフ
図1 日本で最も重要な環境問題
地球温暖化の影響で最も深刻なものの回答グラフ
図2 地球温暖化の影響で最も深刻なもの(3つまでの複数回答)

2.グループインタビューで観察された気候変動問題の理解のされ方

 以上のような状況を鑑みて,筆者らは,一般の人々が気候変動問題についてどのように理解しているかについて,グループインタビューという探索的な調査手法を用いて分析しました。これは,ファシリテーターと呼ばれる司会者を話題の進行役として5~6人の調査参加者が議論を展開し,その発言を分析していく方法です。調査参加者がファシリテーターやお互いの発言を刺激として各人が自分の意見を表明していく方法で,現実社会における会話に近いと言われています。ただし,計量的な分析には適しません。今回は,1グループ7人で男女別,年代別の6グループで実施しました。

 グループインタビューでは,「最近気になる環境問題」から会話を始めました。いずれのグループにおいても約半数の人が「温暖化」を挙げ,この問題の認知の高さがここでも裏付けられました。さらに「メカニズム」についての話題では,オゾン層破壊との混同が全てのグループで観察されました。例えば,このような発言です。「温暖化によってオゾン層が破壊され,紫外線が直接大気中に届くようになって強くなり,皮膚がんが増える。」「オゾン層破壊からCO2が外に出ていかないから保温効果が出ていて温暖化になり,それで酸性雨も降っていると思う。」ファシリテーターが全くオゾン層破壊について触れていなかったにもかかわらず,以上のような発言がでたのです。さらに,このような発言に対しての同意も多くありました。

 以上に加え,持っている情報が非常に断片的であることも特徴でした。例えば,「最近住宅を改築した時に,営業の人が来てエコ給湯とか太陽電池とかの話をした。でも何がどう環境にいいのかわからないまま,結局入れなかった。テレビのCMを見たりして,そのときはやらなきゃと思う。温暖化の話はよく聞くので深刻なんだと思うが,結局は自分一人がやっても仕方がないし,まあいいかと思ってしまう。」この発言をした人は,気候変動のメカニズムについてもオゾン層の破壊と混同していた人なのですが,この発言から,さらに気候変動問題と省エネルギー対策が結びついていないこともわかります。

3.おわりに

 気候変動の問題は未解明な部分も多く,なかなか理解しにくい問題です。日本全体で温暖化問題にも高い関心が集まっているのは,本論の前半で示した通りです。しかしながら,誤解もまた多くあることも事実のようです。そしてその誤解が対策行動の障害になっている可能性も示唆されました。危機感を訴えるだけでなく,そのメカニズムもどうやったら理解してもらえるか,様々な工夫が必要なようです。

(あおやぎ みどり,社会環境システム研究領域)

執筆者プロフィール:

マイペースのB型のはずであるが,そういうわけにも行かない仕事が増加。年齢とともに貫禄を増している気がする。いや,気のせいではない。というわけで,自転車通勤を実践中。