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近未来の資源循環システムと政策・マネジメント手法の設計・評価 −循環型社会研究プログラム・中核研究プロジェクトの概要紹介−

【シリーズ重点研究プログラム:「循環型社会プログラム」から】

大迫 政浩

 廃棄物問題の解決から循環型社会の形成へ,1990年代から2000年代になって社会が目指す方向は大きく変わってきました。しかし,将来私たちはどのような社会をつくり,そのためにどのような努力をしていけばよいのか,その将来ビジョンと実現のための転換シナリオ,具体的な道筋は明らかではありません。またそれらは,国,地方などの様々な空間のレベルで,市民,行政,産業などの様々な主体のレベルで明らかにされる必要があります。このような問題意識から,近未来の循環型社会における技術システム・社会経済システムのビジョンを描き,戦略的な目標設定に基づく転換シナリオと具体的な道筋を提示することを目的として,「近未来の資源循環システムと政策・マネジメント手法の設計・評価」という中核研究プロジェクトが設けられました。本中核研究プロジェクトは,近未来の循環型社会に向けたシステム構築・技術開発と安全・安心な廃棄物管理づくりを目的とした「循環型社会研究プログラム」(本ニュース25巻2号に概要を紹介)の中で,4つの中核研究プロジェクトの一つに位置づけられています。

 さて,ここで言う「近未来」がどの程度の時間スケールを考えているかと言えば,10~20年後の未来をターゲットとしています。当研究所の地球温暖化研究プログラムでは2050年の脱温暖化社会のビジョンづくりを行っていますし,第三次環境基本計画においても2050年を見据えた超長期ビジョンの策定が提示されています。それらに比べれば短い時間スケールですが,それだけに,より具体的なビジョンをつくろうと考えています。

 以下では,プロジェクトを構成する三つのサブテーマごとに,何を目指し,どのようなやり方で,どのような成果を出していこうとしているかについて,概要を述べたいと思います。

サブテーマ1:物質フローモデルに基づく資源利用・廃棄物等発生の将来予測と近未来ビジョンへの転換シナリオ評価(図1参照)

研究プロジェクトの内容イメージ(クリックすると拡大表示)
図1 本中核研究プロジェクトの内容イメージ(主に右半分がサブテーマ1で左半分がサブテーマ2に関連)
(循環型社会・廃棄物研究センターパンフレットより抜粋)
具体的な研究対象の表(クリックすると拡大表示)
表 本中核研究プロジェクトにおける具体的な研究対象(案)

 一つ目のサブテーマは,近未来における産業構造や人口動態,ライフスタイル等の社会条件の変化や,エネルギー,産業,様々な環境問題などに関わる政策の動向を考慮し,これらが経済社会の中の物質フロー(各種製品の生産,消費や廃棄,処理処分,再生利用などの全体の流れ)に及ぼす影響を定量的に検討します。そして,近未来における資源利用や廃棄物等の発生について予測・評価できる物質フローモデルを構築するとともに,このモデルを用いて循環型社会に向けた目標の設定を行います。また,他の二つのサブテーマで提示された,目標達成のための道筋である循環型社会への転換シナリオの効果を,このモデルを用いて推計・評価したいと思います。以上により,転換シナリオごとの目標の達成可能性や課題も明確になると考えています。

 ただし,物質フローへのどのような社会経済的影響要素を想定して,どのようなモノ(物質フローを考える場合,原料や製品,廃棄物,再生原料,再生製品など物質は形態等を変えていきますが,それらを総称して以下では「モノ」と呼ぶことにします)をターゲットするかについては,このままだとかなり広範になりますので,研究を進めるにあたっては,もう少し具体的な対象に絞る必要があります。以下のサブテーマでは,近未来の目標を実現する手だてとして,技術システムと社会システムづくりの観点から検討することとしており,そこでそれらのシステムづくりを市町村自治体のような地域レベルから,都道府県あるいはそれより少し広い圏域レベル,そして国レベルで行っていこうと考えています。そして現時点では,それぞれの空間レベルに応じた物質フローに影響する社会的要素,対象とするモノと技術システム,目標を実現するための政策的手だてを表1のように考えているところです。このあたりは研究を進めていきながら軌道修正なども適宜していきたいと考えています。

サブテーマ2:近未来の循環型社会における技術システムの設計と評価(図1参照)

 次の二つ目のサブテーマでは,先のサブテーマ1で提示した目標を達成するための資源循環技術システムを提示することを目的にしています。近未来において問題になると考えられるバイオマス(本号8頁からの記事参照)や,枯渇性の金属資源を含む廃棄物などを対象として,様々な空間スケールと地域特性に応じた資源循環技術システムの設計と評価を行いたいと考えています。例えば,廃棄物中のバイオマスを燃料に転換してエネルギー源としたり,廃棄物を建設材料にしたりするような技術システムなど,いろいろな資源循環のためのシステムを対象にしていきたいと考えています。評価手法としては,モノとそれを取り扱うサービスの一生,ここでは廃棄物が発生し循環利用されるまでの過程全体を通じた資源・エネルギー消費や温暖化ガス排出量などを評価するライフサイクルアセスメント(LCA),また全体のコストを評価するライフサイクルコスト分析(LCC)等を用いて,環境側面と経済側面から評価を行います。一方,個別リサイクル法等の下で今後の見直しが必要とされている容器包装プラスチックや家電製品,各種情報機器などの3R(Reduce:発生抑制,Reuse:再使用,Recycle:再生利用)の技術システムの評価を行います。以上により,近未来の資源循環技術システムのビジョンを提示する予定です。

サブテーマ3:循環型社会の形成に資する政策手法・マネジメント手法の設計・開発と評価(図2参照)

研究プロジェクトの内容イメージ(クリックすると拡大表示)
図2 本中核研究プロジェクトの内容イメージ(サブテーマ3関連)
(循環型社会・廃棄物研究センターパンフレットより抜粋)

 三つ目のサブテーマでは,循環型社会形成に向けて設定された目標などを考慮し,廃棄物管理・リサイクルに関わる政策手法や自治体経営に関わるマネジメント手法などを設計して提案し,有効性の評価を行おうと考えています。具体的には,国と自治体において循環型社会形成の進捗度を計り,循環・廃棄物管理計画の策定やその実行段階でのマネジメントを支援するための指標体系の設計や,「環境会計」(元々は企業等の環境保全活動を評価するために,環境対策のための支出項目とその内容,資源消費量や汚染物質排出量などを会計表のように整理したもの)を循環・廃棄物分野に適用した手法の開発を行います。

 特にマネジメントのための指標については,国レベルでは循環基本計画の中で設けられている「資源生産性」(産業や人々の生活がいかに物を有効に利用しているかを総合的に表す指標。国内総生産を天然資源などの投入量で除したもの)や「循環利用率」,「最終処分量」の三つの指標のような,国の目標や取り組みの進捗を評価するためのものを考えたいと思います。また本研究では,自治体レベルについても様々な指標を同様に検討し提示したいと考えています。そして,全国の自治体すべてについてそれらのデータを整備し,自治体間の比較が行えるようにするつもりです(このような考え方を基にしたマネジメントのやり方をベンチマーキング手法と言います)。それによって,各々の自治体が自分達の取り組み状況を把握し,適切な目標を立てて,改善につなげていけるようにしたいと思います。

 その他,統合的な3R政策の立案に向けて,拡大生産者責任(製品に対する製造事業者の責任を消費後の段階まで拡大させた経済手法)に基づく国,自治体,生産者,消費者などの各主体の責任・役割分担や他の経済的な誘導手法について,海外の制度などとも比較しながら,見直しが迫っている家電リサイクル法やその他の個別リサイクル法の制度の有効性を評価しようと考えています。

 以上により,国による次期の循環型社会形成基本計画の策定や自治体による循環型社会づくりのための各種施策づくりなどに貢献できると考えています。

 最後に,本中核プロジェクトは,循環型社会・廃棄物研究センターの循環型社会システム研究室と循環技術システム研究室の二室を中心とする研究員6名と,ポスドクフェロー2名で実施することとしていますが,守備範囲が大変広いことから,関連する大学の研究者や民間研究機関とも連携しながら進めていくつもりです。またビジョン提示という目的から考えれば,当研究所で進められているビジョン・シナリオ研究とも整合をとりながら進めたいと思います。さらに,政策貢献という意味からは,環境省などの行政側とも密接な関係をもってプロジェクトを推進しようと考えています。

(おおさこ まさひろ,循環型社会・ 廃棄物研究センター循環技術システム研究室長)

執筆者プロフィール:

社会に役立つことが実感できる研究を行いたいと常々考えています。ビジョンづくりというと,ふわっとしたものに感じますが,任された本中核研究プロジェクトは10~20年後をターゲットしていますので,自分が現役を退くまでに自分で責任をもって実現できるロードマップを描こうと考えている次第です。