ユーザー別ナビ |
  • 一般の方
  • 研究関係者の方
  • 環境問題に関心のある方

循環型社会研究プログラム −近未来の循環型社会に向けたシステム構築・技術開発と安全・安心な廃棄物管理−

【重点研究プログラムの紹介】

森口 祐一

 国立環境研究所第2期中期計画では,集中的・融合的に取組むべき課題として,4つの重点プログラムが設定されました。循環型社会研究プログラムはその一つであり,循環型社会・廃棄物研究センターが中心となって推進するものです。

 本年3月で終了した第1期中期計画期間の開始は,国立環境研究所が独立行政法人となった2001年4月でしたが,その約3ヵ月前に省庁再編が行われ,廃棄物行政が旧厚生省から環境省に移管されたのに伴い,廃棄物分野の研究も国立環境研究所に統合されました。第1期中期計画では,当センター(第1期の組織名は循環型社会形成推進・廃棄物研究センター)は化学物質環境リスク研究センター(第2期は環境リスク研究センターに拡充)とともに,「政策対応型調査研究センター」と位置付けられ,環境行政の新たなニーズに対応した政策の立案及び実施に必要な調査・研究を担うこととされていました。第2期においては,そうした役割のもとで積み上げてきた第1期の研究成果の蓄積をふまえ,これらを継承・発展させるよう,研究課題を再編するとともに,内外の情勢変化をふまえ,資源の循環的利用や廃棄物管理をめぐる国際的な側面など,新たな研究分野の拡充を図りました。

 本重点研究プログラムの目標は,「廃棄物の処理処分や資源の循環的利用が適切な管理手法のもとで国民の安全,安心への要求に応える形で行われることを担保しながら,科学技術立国を支える資源循環技術システムの開発と国際社会と調和した3R(リデュース(発生抑制),リユース(再使用),リサイクル(再生利用))推進を支える政策手段の提案によって,循環型社会の近未来の具体的な姿を提示すること」と設定しています。プログラム名に掲げた「循環型社会」という語に関しては,さまざまな解釈があることが,本誌24巻6号の環境問題基礎知識で紹介されています。本重点研究プログラムでは,より広範な意味での「循環型社会」研究へと中長期的に拡充していくことを視野にいれながら,「経済社会における物質循環」,を主な研究対象としています。

 中期計画の記述では,各重点研究プログラムは,1)中核研究プロジェクト(以下,中核PJ),2)関連研究プロジェクト,3)重点研究プログラムにおける他の活動,から構成されています。中核PJは,重点研究プログラムのいわば顔となるものであり,今後の「循環型社会」を形成していくうえで,達成目標を明らかにして集中的に取り組む必要のある目的指向型の研究課題として,以下の4課題を編成しました(図)。

 中核PJ1「近未来の資源循環システムと政策・マネジメント手法の設計・評価」では,近未来(20年後程度を想定)における循環型社会の形成を目指し,社会条件等の変化とそれに伴う物質フローの時空間的な変化を量的・質的に予測・評価し,循環型社会形成に向けた戦略的な目標設定を行います。また,それらを達成するための資源循環型の技術システムと社会・経済システムへの転換を図るための政策・マネジメント手法の設計・評価を行い,循環型社会ビジョンに向けた転換シナリオを提示します。

 中核PJ2「資源性・有害性をもつ物質の循環管理方策の立案と評価」では,資源性・有害性をもつ物質の利用・廃棄・循環過程におけるフローや各プロセスでの挙動,環境への排出,リスクの発生,資源価値を同定,定量化し,代替物利用やリサイクル等の効果を資源性・有害性の両面から評価し,リサイクル促進や製品中有害物質規制,有用資源回収に資する科学的な根拠・知見を得ます。特に,個別リサイクル法や国際資源循環で注目される主要な物質群(プラスチック,金属など)を対象とした研究を行います。

研究プログラムの全体構成図(クリックで拡大表示)
図 循環型社会研究プログラムの全体構成

 中核PJ3「廃棄物系バイオマスのWin-Win型資源循環技術の開発」は,廃棄物からの高度な資源循環により,脱温暖化や他の環境対策にも寄与する炭素サイクル型エネルギー循環利用技術システムや潜在資源活用型マテリアル回収利用技術システムを開発します。また,動脈-静脈プロセス間での連携的な資源循環システムの構築により,複合的な技術システムを確立します。これらにより,国や地域の施策目標に貢献し得る廃棄物排出量の削減,CO2排出量の削減および代替エネルギー創出に最大限に寄与することを目指します。

 中核PJ4「国際資源循環を支える適正管理ネットワークと技術システムの構築」では,アジア地域での適正な資源循環の促進に貢献すべく,途上国を中心とする各国での資源循環,廃棄物管理に関する現状把握を通して,アジア地域における資源循環システムの解析を行います。また,技術的側面からの対応として,液状系を含む有機性廃棄物の適正処理と温暖化対策とを両立した,途上国に適合した技術システムの設計開発とその適用による効果の評価を実施します。これらを総合し,該当地域における資源循環システムの適正管理ネットワークの設計及び政策の提案を行います。

 一方,第1期中期計画期間における政策対応型調査・研究の重要な柱であった,廃棄物の適正な管理のための研究も,これまで同様に着実に進める必要があります。このため,重点研究プログラムにおけるその他の活動の中に,「廃棄物管理の着実な実践のための調査・研究」という区分を設けました。ここには以下の4課題を位置付けています。

 「循環型社会に対応した安全・安心な適正処理・処分技術の確立」では,廃棄物の適正管理に関し,国・地方自治体等が実施する政策・対策現場に必要な知見や改善案を提供し社会への安全・安心を確保するため,埋立廃棄物識別・選択技術,熱的処理技術,及び最終処分技術等の廃棄物処理・処分技術やシステムの開発・評価を行います。

 「試験評価・モニタリング手法の高度化・体系化」では,循環資源・廃棄物を対象として,有害物質の挙動把握,簡易測定技術の最適化,処理プロセスからの事故の未然防止等の各種目的に応じた試験分析方法の整理,開発を進め,標準規格化,包括的な適用プログラムとして,試験評価・モニタリング手法の高度化・体系化を図ります。

 「液状・有機性廃棄物の適正処理技術の高度化」では,し尿,生活雑排水等の有機性廃棄物を対象として,窒素・リンの除去・回収にも対応した処理技術・システムを構築し,ならびに有害物質や感染性微生物リスクからの安全性を確保するため,浄化槽の機能改善,バイオ・エコエンジニアリングを活用した土壌処理システム等の実証等を通じて,液状廃棄物処理の高度化のためのシステム及び技術開発を行います。

 「廃棄物の不適正管理に伴う負の遺産対策」では,廃棄物の不適正管理に伴う環境汚染の修復事業を支援するため,廃PCB処理技術,事業のフォローアップ,埋設農薬の適正処理,管理方策の調査を実施するとともに,不適正処分場に対してそれぞれの環境リスクを踏まえた汚染修復対策プログラムを設計する手法を提示します。

 このほか,循環型社会・廃棄物研究センター以外の研究ユニットの研究者が主体となって実施する「関連プロジェクト」として,(1)循環型社会形成のためのライフスタイルに関する研究,(2)循環型社会実現に資する経済的手法,制度的手法に関する研究,(3)特定地域における産業間連携・地域資源活用によるエネルギー・資源の有効利用の実証,の3課題を重点プログラムに位置付けています。また,廃棄物管理分野の基盤型な調査・研究として,廃棄アスベストのリスク管理に関する研究や資源循環に係る基盤的技術の開発や,資源循環・廃棄物処理に関するデータベース作成にも取り組みます。

 これらの活動により得られた研究成果や関連情報を,わかりやすく提供・普及するための活動も,第2期にはより積極的に展開する計画です。

 

(もりぐち ゆういち,循環型社会・廃棄物研究センター長)

執筆者プロフィール:

センター長着任から1年余り。所内での引越しで,長年溜め込んだ大量の資料を資源とごみに分別することの難しさを改めて実感。本年4月より東京大学新領域創成科学研究科環境システム学専攻循環型社会創成学分野(連携講座)客員教授を兼務。