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リサイクルについての理解

酒井 伸一

 投棄跡地の汚染問題,埋立地の確保難,気候変動問題などを契機として,循環型社会をめざす方向が合意され,さまざまな製品群の循環利用が模索されています。廃棄物の発生抑制,再使用,再生利用,熱回収,適正処分という階層対策概念に基づく社会の再設計ともいえる壮大な試みです。すでに2000年に循環型社会形成推進基本法として,日本の基本ルールになったことは周知のとおりです。化学物質に対しても,類似の概念として有害性のある化学物質の回避,循環利用,制御をこの優先順位で原則とすること(クリーン・サイクル・コントロール概念,3C's概念と呼んでいます)の実現を考えていかねばならないと思っています。しかし,こうした流れに異論や修正を唱える声もときに耳にします。リサイクルしてはいけないといった主張もさることながら,2001年11月22日に公表された経済財政諮問会議「循環型経済社会に関する専門調査会」の中間とりまとめでは,厳格な階層概念の適用に固執せず,エネルギー回収型の焼却法の役割に重きをおいています。つまり,サーマルリサイクル*1とマテリアルリサイクル*1を同等に位置付け,ライフサイクルアセスメント*2等の客観的な評価により,両者の合理的な選択が可能となるようにすべきとの考え方です。確かにマテリアルリサイクルに拘泥するあまり,一次資源もエネルギーも多く消費するということを避けねばならないことは言うまでもありません。

 では,どういった場面であれば,リサイクルが胸を張ることができるのでしょうか。新たな埋立地や焼却炉の建設を避けることができ,処理処分コストに比べてリサイクルコストが安価であるときは,まず胸を張っていいでしょう。リサイクル段階のエネルギーや一次資源利用量,環境汚染負荷が一次製品生産段階のそれよりも少なく,回収資源を利用した事業が地域の新たな雇用を生むときは万全といっていいはずです。こうした条件を見極め,むやみにリサイクルを進めることでかえって資源消費量や環境負荷を増やすことを慎めば,胸を張れるのです。さらに付け加えるならば,いまのリサイクルから循環型社会形成への動きは,より大きな流れの中にあるように思えてなりません。多くの人たちはこのままではいずれ資源は枯渇し,地球はもたないのではないか,このままでは何代か後の子孫たちは環境汚染により命が脅かされているのではないかといった漠然とした,しかし大きな不安の中にあってのリサイクル行動であるように思えます。つまり,今ここで資源を再生利用できる技術を身に付けること,物質利用と環境負荷が少なく,かつ満足度の高いライフスタイルを身に付けることが,次世代への持続性から不可欠と考えているとすれば,このリサイクル行動への動機としての理解を何があっても支えていかねばならないでしょう。

 では,物質循環・リサイクルを進めるために必要な道具にはどのようなものがあるのでしょうか。循環と処理のための技術,法制度や政策,経済的誘導策,情報やモニタリングなどが必要で,一つの道具で十分ということはなく複数の道具立てが求められます。こうした複数の道具立てにより,循環型社会の中でメインルートとなるべき循環過程は,当面,量的にも,質的にも調整機能を持って支えていかねばならないでしょう。ライフサイクルアセスメントから循環することにメリットのある限りは,循環からこぼれそうになっても拾って拾いまくるという意味の“懐の深さ”が求められます。また,廃棄物はある意味では循環フローの敗者と言えるわけですが,環境的視点からはごみを勝者としてはならないという意味で,環境保全対策の整った処理方策でもって社会・環境の側が勝者にならねばなりません。社会はこうした方向の取り組みをはじめたところです。結果は出さねばなりませんが,評価を急ぎすぎてもいけないように思います。

(さかい しんいち,循環型社会形成推進・廃棄物研究センター長)

執筆者プロフィール

平成13年4月の国立環境研究所ニュースで,「つくばを第3の都とすることができるか,努力するものでもないが,奮闘中」と書きました。その後,つくばは,なかに入ってしまえば快適ということが分かってきました。循環廃棄物研究センターの本格稼動に向けて,多くの方々にお世話になっています。この欄を借りて,御礼申し上げます。