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内分泌かく乱化学物質・ダイオキシンのリスク評価と管理

重点特別研究プロジェクト:内分泌かく乱化学物質及びダイオキシン類のリスク評価と管理プロジェクト

森田 昌敏

 アルバート・シュバイツァー博士はかつて「人は将来を予知し,それに予防的に対応する能力を失っている。彼は地球を滅して終わるだろう」と言ったとされます。現在私達が直面している地球の温暖化の問題や内分泌かく乱物質の問題は,まさにこのシュバイツァーの指摘を私達が知恵をだしあってどう乗り越えるかにかかわっているのでしょう。

 私達の体の発達や恒常性を規定しているホルモンの作用メカニズムに介入し,生殖系,免疫系,及び脳・中枢系に悪影響を与えるものがあります。特に細胞の分化や,臓器の発達時期には,少量の物質で作用がおこるため胎児や乳幼児は,このような物質の影響を受けやすいと考えられています。胎児や脳を守るために,胎盤関門や脳血管関門が発達してきていますが,合成化学物質の中にはこれを通過し,胎児に影響を与える場合があります。これが内分泌かく乱物質(環境ホルモン)の問題で,またその影響は次世代以降に現れることが多いため,環境ホルモンの問題は近代生活をおくる人類の将来にかかわる問題といえます。このような悪影響の一部は野生生物に既に現れていますが,人において何がおこっているかを明らかとすることは重要な課題となっています。本研究はこれに対応したもので,現象の実態を解明し,国民の安全・安心のために対策を用意しようとするものです。

 具体的な研究内容としては,

 1 内分泌かく乱化学物質の新たな高感度分析の開発,受容体結合性や培養細胞等を用いた生物検定法の確立,またダイオキシンについては簡易な迅速分析法等の開発

 2 内分泌かく乱物質の環境中の分布,生物蓄積等の環境動態の解明,研究

 3 巻貝,メダカ,鳥類等の野生生物の繁殖への影響の解明

 4 内分泌かく乱化学物質やダイオキシンのリスク評価とリスク評価のための動物と人との種差の検討

 5 ダイオキシンのような難分解性の内分泌かく乱化学物質の分解処理技術の開発

 6 内分泌かく乱化学物質の環境リスクの管理の ための情報システムの開発,地理情報を含む総合データベース及び対策決定プロセスの検討

があります。

 内分泌かく乱物質の中でも体内蓄積がすすみ,リスクの面から高いプライオリティーが与えられるのはダイオキシンです。ダイオキシンも主要な柱として本プロジェクトでは進行します。

 このような研究を行う場として,ダイオキシンについては研究III棟があり,また内分泌かく乱化学物質については,新しく環境ホルモン総合研究棟が建ちあがりました。 後者は学際的な共同研究施設として我が国の中核的なセンターとなる予定です。本施設は4階建てで,1階は主として水生生物への影響を研究するエリアで,淡水魚(特にメダカ),カエル,無脊椎動物や海産の巻貝類等への影響の調査を行います。2階は化学部門で,環境ホルモンの正確な微量分析法,生物試験法,効率のよい環境ホルモンの評価方法,更には環境中での汚染状況の解明,分解処理技術の開発等を行います。3階には,試験管理室と会議室があり,4階は健康影響に関する動物実験を行うエリアと情報センター機能を持つエリアがあり,環境ホルモンに関する情報の収集評価をし,発信していくことを通じて我国の環境ホルモン研究の発展に寄与していきたいと考えています。

 付属する大型計測機器として,MRI(磁気共鳴イメージング),高分解能NMR(800MHz)。

 LC/MS/MS(液体クロマトグラフ質量分析計)が整備されます。MRIは,ヒト観測用としては最大磁場強度(4.7テスラ)のものであり,高い分解能をもって人間の精巣や脳を直接観察する予定です。

 内分泌かく乱物質の問題は,その本質は何か,あるいはその危険をどのように予知し,回避することができるか等,先行的な研究が最も必要な領域であります。多くの新しい仲間共々研究に力を尽くしていきたいと思っています。

(もりた まさとし,環境ホルモン・ダイオキシン研究プロジェクトリーダー)

執筆者プロフィール

地域及び地球環境問題について,物質の計測と循環解明をベースとした研究を行ってきた。環境の都市設計をひそかに考え中。趣味は囲碁,しかし最近は時間がなくて日曜のテレビが楽しみ。

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