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「範囲の利益」を超えて

巻頭言

総務部長 斉藤 照夫

 21世紀の新しい年を迎えてもなお,90年代の停滞から活力に満ちた日本の新生が課題となっている。バブル崩壊後の「失われた10年」について,旧N銀行の岡田元部長は,「範囲の利益」の呪縛によると自省を込め分析する。企業経営に規模の利益があるように,官僚化した企業や行政にも「ある範囲の中では優秀である」という範囲の利益があり,これに囚われた組織は,ある枠組みの範囲内では優れたパフォーマンスを発揮できても,グローバルに進む枠組み自体の大変化にはうまく対応できなかったという。

 この「範囲の利益」の呪縛の根底には,日本の会社の人事システムがあったように思える。日本の会社は,社員に選択肢を与えない代わりに,会社が責任を負い,キャリアもすべて会社が用意するシステムを戦後長く続けた。この中で,従前の枠組みの範囲内で模範解答を出すことが優秀な人は増えたものの,時代の変化に応じた痛みとリスクの伴う変革を支える人材が育たず,危機に臨んで,問題の先送りに陥ってしまったのである。

 「範囲の利益」からの脱却には,個人がビジョンを持って自らを磨き,必要な変革を担っていくシステムへの転換が不可欠である。今,民間では,F社の飯島人事勤労部長が「これからの人事制度のキーワードは選択と自己責任」と話すように,個人が自らキャリアを選び,達成した成果によって高く処遇される人事管理へと転換しつつある。

 このような中,本研究所も,本年4月に,独立行政法人として運営の自己責任を負って再出発することを機に,新しい枠組みに合わせて自らを変革し,研究者の先見性とリーダーシップを柱に,時代の要請にしっかり応え得るマネジメントを目指すこととしている。

 すなわち,公平な処遇重視から公正な処遇重視への時代の流れを踏まえ,優秀な研究者がその業績に応じ高く処遇されるような評価制度を含む管理運営体制を検討し,競争的な環境下で各人が一層創造力を発揮していけるシステムを目指していく。また,内部組織の編成について,法令による画一的な規制が外れ,自らの意思により弾力的に定められるようになったことを受け,時代の要請に応じ機動的に研究組織を編成し、先見性ある研究リーダーの下に意欲ある研究員や流動的な若手研究者を配置して国民のニーズに適確に応えていく。

 このような取組みにより本研究所は,「範囲の利益」を超えて,人類の直面する環境問題解決への使命を果たしていく決意であり,皆様方の一層のご支援をお願いしたい。

(さいとう てるお)

執筆者プロフィール:

前環境庁水質保全局企画課長,元北九州市産業廃棄物指導課長