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チリ国環境センタープロジェクトと支援体制

大槻 晃

 日本国政府は,開発援助(ODA )の重要な要素である技術援助を国際協力事業団(JICA)を通して行っており,その一環として,発展途上国の深刻な環境問題の対策支援を行っている。このチリ国環境センター事業は,プロジェクト方式技術協力と呼ばれ,機材(本プロジェクトの場合は,主に分析機器類)の無償供与と,人材育成のための専門家派遣及び相手国側対応者(カウンターパートと呼ぶ)の日本国内研修から成っている。

 平成12年度政府開発援助JICA 交付金は1766億円,本プロジェクトが属するプロジェクト方式技術協力事業費は366億円であるが,環境関連事業費(公害防止技術援助は除く)となるとその10%以下となる。 JICA 社会開発協力部が,教育,職業訓練,通信等と共に,環境案件を担当している。環境問題を謳う支援事業に対して,それを担当する省庁は複数にわたるが,もちろん,その主官庁は環境庁であり,現在は地球環境部環境協力室がその任務にあたっている。私は,環境庁から依頼されて,平成12年8月初旬より,南米チリ共和国の首都サンチアゴ市にあるチリ国環境センターに,チーフ・アドバイザー及び日本人専門家チームのリーダーとして赴任している。現在は,私を含めて5名の長期専門家(任期1年以上)と1名の調整員がセンターに駐在し,技術移転やその他の業務を実施している。調整員は,相手国との調整・連絡業務等を行うため,JICA が人選しているが,長期専門家の場合は,関係省庁が人選することになっている。援助国側の問題は別として,この環境プロジェクト自身が抱える問題について述べてみたい。

 このチリ国環境センタープロジェクトは,平成5年6月より開始され,既に6年目に入っている。本プロジェクトは4つの省庁が関係しており,環境庁はリーダー,大気汚染及び環境情報関係,厚生省は廃棄物関係,通産省は産業廃水関係,運輸省は気象関係の長期専門家を人選・派遣することになっている(ただし,気象関係の長期専門家は5年目以降派遣されていない)。各省庁は,相手国の国情に応じて,派遣すべき長期専門家の経験・レベルを設定し,選考・推薦してくれれば良いが,必ずしもそうではないのが現状である。ちなみに,ここチリ国環境センターのカウンターパートにはチリ大学の教授クラスが含まれている。本プロジェクトの目標達成に必要な専門家が派遣されるように,プロジェクト側と本国との間で,より密接な連絡を行う必要性を痛感している。

 長期専門家の本来の仕事は,自分自身の経験をもとに,カウンターパートを技術指導することであるが,若手のカウンターパートを日本で研修するための研修先を見つけるのも重要な仕事の一つである。 JICA が自ら国内で実施している集団研修に参加させる場合は別として,長期専門家達は,若手カウンターパートの日本での研修機関を探すのに大変苦労をしている。各長期専門家は派遣元や個人的知己を頼りに研修先を探すのが現状であり,必ずしも十分な研修を受けさせられるとは限らない。

 長期専門家のもう一つの重要な仕事が,本人の不得意な分野を補強するため,あるいは相手先の希望に応じて,短期専門家を人選し,招へいすることである。JICA 本部を通して派遣を依頼し,任地で受け入れ,世話することである。長期専門家が人脈を持たないために自ら人選できない場合,十分な経験もない短期専門家の派遣となることも多い。場合によっては,リーダーの判断で,特定の分野の短期専門家を派遣要請し,啓蒙活動に変更することもある。 JICA 本部には,プロジェクトごとに国内支援委員会が設置されているが,専門家の人選,研修員受け入れ先選定等について,一層のご協力をいただく必要があるものと考える。

 これらの問題点を考えて見ると,本プロジェクトのように環境分析技術の指導が大きな役割のプロジェクトである場合,環境庁内の対応だけでは当然無理があり,専門家集団である国立環境研究所(以下国環研と略)に,国際協力担当官を中心に何らかの支援体制を作ってもらうことが必要である。当然ながら,他省派遣の長期専門家のカウンターパートも,国環研での研修を希望する場合が今でも多い。

 国環研は,既に国際協力担当官を持ちながら,その業務的な規定を持っていないがために,研究員は要請に対応する義務を持っていない。私が国環研に在職した12年前までは,環境庁主管のJICA プロジェクトもなく,又国際協力担当官もいなかったために,案件があると,JICA より直接研究室長に問い合わせがあったように記憶している。

 以上,総合して見ると,国環研の独立行政法人化とともに,途上国支援のための業務規定をつくり,このような環境プロジェクトの業務を,環境庁を通して,JICA の委託業務として位置づけ,積極的に研修生の受け入れ,専門家の派遣を行って見てはいかがであろうか。結果として,支援国に対して責任を持った対応が可能となろうし,又国益にも叶うと思う。

(おおつき,あきら)