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輸送・循環システムに係る環境負荷の定量化と環境影響の総合評価手法に関する研究

研究プロジェクトの紹介(平成10年度終了特別研究)

森口 祐一

 「環境にやさしい○○」という表現が使われるようになって久しいが,やさしさの度合い,つまり環境への影響の度合いを具体的に計るにはどうすればよいだろうか。本課題では,昨今注目を集めているライフサイクルアセスメント(LCA)の考え方を適用してこの問いに取り組んできた。LCAは,製品やサービス,技術システムなどについて,原料採取から,材料生産,製品製造,使用,維持管理を経て廃棄に至るまでの一連の過程で,どのような資源をどれだけ環境から取りこみ,どのような汚染物質をどれだけ環境に放出するかを調べ,それらが環境に与える影響を総合的に評価する手法であり,いわば「ゆりかごから墓場まで」の環境影響の評価手法である。産業界を含めてさまざまな機関でLCAへの取り組みが進められており,本研究所も,主にCO2排出量を評価項目としたライフサイクル分析の研究において以前から成果をあげてきた。こうした中,平成8年度から平成10年度まで特別研究として実施した本課題では,従来のCO2中心の評価から,多様な環境問題をとりいれた評価への展開をめざした。

 環境への影響を「総合的」にとらえるためには,まずどのような問題を視野にいれるのか,評価の枠組みを明確にしておくことが必要である。そこで,米国環境保護庁で検討された「比較リスク評価」の考え方をとりいれ,重要度の高い問題をさまざまな主体の意見を反映させながら選び出す手法を試行した。合計3回のワークショップを開催し,環境問題の全体像を「問題領域」へと切り分け,環境問題による影響から守りたい「保護対象」を明確化し,問題領域と保護対象とのマトリクスから成る評価の枠組みを構築した。また,専門家や市民が,どの問題の影響が何に及ぶことを重大と考えているかを,小グループでの討論を交えながら,項目ごとに重要度に応じた重みを直接つける評点づけや2項目の対についてどちらが重要かを判断する一対比較により調査した。その結果,有害化学物質の健康への影響や地球規模の大気変動が生物や物財に及ぼす影響などが上位にランクされた。こうした手法は,評価に含めるべき問題の範囲や影響の種類を見定めることに役立つ。

 LCAでは,環境への負荷の大きさを計量する段階をインベントリ分析,これによって生じる影響を評価する段階をインパクトアセスメントと呼んでいるが,これらの間に介在する地域性の扱いも本課題で力をいれた点である。たとえば,電気自動車とガソリン自動車についてのインベントリ分析を行うと,充電の電力を供給する火力発電所からのNOx排出量が,対策の進んだエンジン自動車の排出ガス中のNOx排出量を上回る場合がある。しかし,市街地から離れたところに立地する高煙突からの排出は,密集市街地での排出よりも,地上濃度や人口集団への暴露量でみた影響は小さい。本課題では,こうした状況を記述するための簡易な暴露評価モデルや,地理情報システムを用いたより詳細な影響評価システムを構築した。こうした手法は,LCAにおいて排出量を影響の大きさに換算することに利用するほか,有害大気汚染物質のリスク評価などにも適用できる。

 このほか,本課題では,飲料容器や自動車バンパについて,リサイクルによる環境負荷の低減効果の分析を行った。リサイクルの効果は,汚染物質量よりも,廃棄物量の低減という点で顕著にみられた。廃棄物の発生自身は環境への負荷ではなく,その処理処分に伴う問題を評価すべきとの考えもある。廃棄物の量的増大を,環境影響としてどう評価するかについては,引き続き議論を尽くす必要があろう。

(もりぐち ゆういち, 社会環境システム部資源管理研究室長)

執筆者プロフィール:

京都大学工学部衛生工学科卒業,博士(工学)。猪年の京都生まれ,双子座。A型かと思った,とよく言われるが,B型であることはすぐにばれる。